第11話 荒ぶる好奇心
【前回の『チカちゃん会議』復習】
開いた瞬間にゴロゴロと受け身をとりながら長髪の白衣の女性が転がり込んできた!
戦隊の保健室の先生的な(オオヌキ・トシエ大貫寿恵)推定年齢四十歳だった…。
吉岡千花 (愛称チカちゃん)二十三歳 性別女が、頭の上で手を合わせて私を拝むようなスタイルをとっていた…。
ごろごろと、転がりながら入ってきたオオヌキトシエ先生が叫ぶように言った。
「IDネーム 百崎胡桃モモサキクルミ!いや、本名 木崎明音キザキアカネ!任意家宅捜索だ!!神妙にお縄につけ!」
チカちゃんは「先生、言ってることが滅茶苦茶ですよ…」と呆れたように言った。
私は、怖くて泣きそうになっていた。
【自己紹介】
私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ二十三歳!(稀崎明音)
私は、正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!飼い主の責任として、きちんと彼らに名前をつけてあげたわ!!
私は決死の覚悟で無断欠勤からの出社!
無断欠勤の理由を語らず部長の泣き落とし作戦決行!
それに勝利を納め、定時で帰る途中で痴漢にあって女子高生に説教をされ、腹立ち紛れに外灯を破壊!!
その後変身ヒーローたちの、月いちミーティングでインターンシップの学生がやってくるって話をされて、愕然!価値観の違いを痛感して、チカちゃんという友達とその情報を共有しあったわ!そこで、つい『わるもん』カップルを自宅に軟禁してることを告白して、チカちゃんの上司のオオヌキトシエさんから、自宅の手入れを受けたわ!
で…。
なんと長々と読んでくれてありがとうの第十一話目…。
扉を開けた瞬間にゴロゴロと、時限発火装置付きの爆薬のように転がり込んできたのは…大貫寿恵 推定年齢:四十歳 性別:女
任意という、その人の意思に任せるという意味の、家宅捜索と言いながらも、押し込み強盗並に部屋の中に飛び込み、神妙にお縄につけ!という捕獲逮捕宣言をしながら満面の笑みで名刺を差し出した。
全く意味がわからない!!
医療部門 メディカルヘルスプロデュースチーム:マネジメントプロジェクトリーダー(仮)
オオヌキトシエさんが、差し出した名刺には、そう書いてあった。
なんだ…この意味がわからない肩書は…。
オオヌキさんが、今とっている行動と同じくらいに意味がわからなかった。
しかも初めてみた…この、(仮)って…。
普通だったら『代理』とか書くんじゃないの…?と、まじまじと、その名刺を見つめている隙に、オオヌキさんは、ぐいぐいと部屋の中へ進んでいった。
「クツ!!くつ!!靴!!」と、声をかけると、びっくりしたように、私を振り返り「ごめん!アメリカ暮らしが長かったから!」と言った。うそつけ…!
「いや、それ以前になんで勝手に入ってきてるんですか?」と白衣のそでを捕まえようとすると、靴を脱ぎながら軽快なフットワークでその手を逃れて言った。
「キザキアカネさん…『わるもん』飼ってるんだって?!」
私はオオヌキさんを捕まえようと伸ばした手が空を切り、その勢い余ってつまづくように倒れ込んだ。
私を見降ろすオオヌキさんは、赤く上気した顔を私に向けて「面白そうなことの独り占めはだめですよ」と、悪魔のように笑った。
私はチカちゃんを振り向いて、訴えかけるような目を向けた。
チカちゃんは、壁に手をついて自分の体を支えながら半泣きで私と目を合わさないようにしていた。
「そんなんじゃないの!私、そんなつもりじゃ!!」と繰り返していた。
「いいねー。この友情に亀裂が走るような感じ!好きよ!」とオオヌキさんはテンションが上がった声を張って言った。
オオヌキさんは、『わるもん』を確認すると「ツガイ!!」と叫んだ。
繁殖ビジネスか!と手を打って喜んだ。
「ビジネス?!」私は激しく動揺し、チカちゃんは相変わらず泣き崩れている。
『わるもん』たちは、オオヌキさんを怖がって、ベッドの下から出てこない。
オオヌキさんは、しばらく、私の部屋にあったホウキの柄などで、突いたりベッドを動かそうとしたりしていたけれど、壁や床と密着した『わるもん』はベッドにしがみ付いて頑として動こうとしなかった。
「この『わるもん』懐かないわねぇ!可愛くないわぁ…」とオオヌキさんは言いながら、バンザイをした手を左右に振りながら「がおーー」と声を出しながらドタドタとガニ股足を踏み鳴らす。『わるもん』は更に怯えて抱き合うようにベッドの下奥から絶対に出ないという決意を固めているようだった。
オオヌキさんは、しばらくベッドの下を眺めていたのだけれど、飽きたように私に向き直って「牛乳と砂糖ある?」と聞いた。
「豆乳なら…」とこたえると「ちっ」と舌打ち!!
(あんな青臭いもん飲めますかってんだ…)と、小声で言った。
『わるもん』にあげようとしたんじゃないんだなと、その言葉で理解した。
「ビールひと缶ならありますが…」と言うと彼女は俄然機嫌がよくなった。
アル中かな?このひと…。
オオヌキさんは、かなり重要なポストについていながらも部外者らしい。
つまり、規格外の重要な外部スタッフ。
なぜオオヌキさんがそういう扱いを受けているのか聞くと、チカちゃんが「大貫先生は、組織のルールを守らない人なので…」と、言いにくそうに言った。
オオヌキさんはカシュっとリングプルを引き上げながら「ルール守ってて世界が守れるかっつー話じゃないの?上意下達とか知らんし!研究とか提案書とか企画書ベースで進めて何が面白いのさ?」と、ふてくされたように言う。
私はと言えば、今の部屋の中の光景にめっちゃ違和感を感じていて、今、目の前のテーブルの前に座っているのは、私のメンタルヘルスの先生のオオヌキさん。それが、親友のチカちゃんと一緒に座っているという事実をみとめられなかった。
そして、ベッドの下では、つがいの『わるもん』がいて、すがるような目で私をみている。はやく帰ってほしい…。今の現状は人間側よりもむしろ『わるもん』側の心情の方が理解できる!
私がオオヌキさんへ手渡したのが350mm缶だったので、オオヌキさんは、すぐにそれを飲み干すとソワソワしだした。足りなかったらしく、あたりを見渡しつつ「週イチ、ここ来るわ…」と言って立ち上がった。チカちゃんの襟首を掴んで…。
えっ?わたしも?というような顔をして、チカちゃんがオオヌキさんに連れていかれる様を茫然とみていた。
「飲みに行ったなぁ…あのひと。チカちゃん連れて…」そう、ぼーっと考えていた。
立ち去り際に、オオヌキさんが「繁殖させちゃだめだぞ」と言った。
その言葉で、実家で飼っていた猫のロデムが、サカってたのを思い出し、私の部屋でそんなことをさせるものか!と思った。
二人が帰ったあと、ダッシュでペットショップまで行って、中型犬が入るくらいのオリを二つ買った。「隔離してやる!お前らの恋路は私の部屋にいる限りは叶えてあげない!叶えてあげられないのだ!!ごめんけど!」と少し罪悪感を抱きながらも思っていた。
私が飼っていたロデムは、発情期になると家を飛び出して、近所の野良猫と重なり合った鏡モチみたいになっているところを発見された。
それをみた私は、ロデムだけでなく、赤ちゃん猫の面倒まで見れない!とパニクった。
脳裏には、その光景。
「面倒を見ないのなら、その猫は殺す!」と恐ろしい目で宣言したじいちゃんを、私は生涯忘れないだろう…。呪いだわ…。
私は、じいちゃんが赤ちゃんごとロデムを殺してしまう!!という恐怖で、泣きながら大声を出して猫の恋路を邪魔し続けていた。
それでも、メスだったロデムに子猫は生まれ、私は号泣しながら自分の小学生時代の自由がなくなるのを覚悟したのだった…。命とは、それほどまでに私に覚悟を強いるものなのかと、小学生の時に心の中に刻み込まれた絶望を痛感した出来事だった…。
次は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ(稀崎明音)さん、すくすく育成…の巻
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