第10話 チカちゃん会議
【前回の『インターン生の受け入れ始めました!』復習】
「ありえません!インターンシップ 受け入れとか、正義の味方のヒーロー戦隊の守秘義務はどうなるんですか!?」
「インターンシップ 守秘義務誓約書を交わしてもらうことにしているが、何か問題が…?」
めまいがした。
何かとてつもない倫理観?情報保護に対する認識のイデオロギーレベルでの違いを感じる!彼らが、異星人のように見えてきた…。
【自己紹介】
私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ二十三歳!(稀崎明音)
私は、正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!飼い主の責任として、きちんと彼らに名前をつけてあげたわ!!
私は決死の覚悟で無断欠勤からの出社!
理由を語らず部長の泣き落とし作戦決行!
それに勝利を納め、定時で帰る途中で痴漢にあって女子高生に説教をされ、腹立ち紛れに外灯を破壊!!
変身ヒーローたちの、月いちミーティングでインターンシップの学生がやってくるって話をされて、愕然!価値観の違いを痛感したわ!
で…。
二桁突入の、なんと第十話!
日曜の早朝ミーティングが終わって、待ち合わせ場所へ急いだ。
待っているのは同い年の女性で、席につくなり彼女は不適な笑顔で口をひらいた。
「ねぇ、ボクも仲間に入りたいなぁ」
私はその娘に対して言った。
「ねぇ、ボクって言うのさ、処女っぽいからやめなよ…」
彼女は、露骨に挑発的な顔で
「ふーん、なんだか僕より男を知ってるみたいな言い草だね」
と言った。
私は、目を見開いて嗤って…
「少なくとも、あなたよりはね?」と返す。
二人は表情を固くして、見つめあった。
そして、相手の娘は弾けるように笑い、私も笑った。
私が「ぽいかな?」と言うと、「うん!ぽいよねー!」と言いながら、あたりを気にすることもなく笑い合った。
これは、チカちゃんという幼なじみとやってる儀式のような挨拶。
つまり悪の組織ごっこ。
「うちの部署さー、インターンシップ 採るんだってよ!どー思う?!」
共感してもらいたい気持ちいっぱいで、咎めるような口調を含みながら相手に伝える。
「そうよ!びっくりするわー、なんでも、インターンシップ 受け入れのための下部組織作るらしいんだよ?知ってた?」
「えっ?初耳!うちの司令ってさ、必要ないことは話すのに、そういった大事な説明は抜け落ちるんだよ、どー思う?」
女子には、無条件に賛同してくれるなんでも話せる友達が必要だ。
しかし、そういった友達が、就職や結婚などの環境の変化と共にどんどん身内からこぼれ落ちていく。
そして、虚構の中での嘘の仲良し人間関係が膨らんでいき、誰も得をしないコミュニティの中で微笑んでいるだけの一構成員としての役割が与えられていくんだ。
まるで、ただ笑ってるだけの頭脳を持たないゾンビみたいな…。
そんな外見だけのコミュニティに背を向けていたので、私の周りには変な子しか集まってこなかった。
この、チカちゃんみたいな娘、そして、最初に会った時のやりとりはチカちゃんとだけの挨拶代わりの悪の組織ごっこだ。
何も言わずにキャラを演じ始めるのが私たちの暗黙の了解となっていた。設定は悪の組織の中での地位争いをやってるライバル同士だ。
学生の頃からやってた小芝居の仮想敵は、スクールカーストの最上位に位置する娘たちだった。私たちは、メインストリームではない脇役キャラだと思っていたから、彼女ら正義のセーラームーン的な人気者に楯突く悪役というポジションを一緒に演じていた。
あの時が一番楽しかったなぁ…。
チカちゃんと呼んでる彼女の名前。
『チカちゃん』といつも呼んでいる彼女の本名は吉岡千花で、彼女は私のことを『アカちゃん』とか、『あーちゃん』と呼んでくれている。
実は、内緒であるが、彼女も幼なじみでありながら正義の味方カンパニーの構成員。
最前線で戦う私と正反対の救護班の部署だ。
どっちもそこそこの『きつい』『きたない』『きけん』の3K部署。
そして、私の保健室の先生みたいな精神安定剤的な娘。
正義の味方カンパニーのチカちゃんの上司は私にクズパフォーマンスを勧めた、オオヌキ・トシエ(大貫寿恵)さん 推定年齢四十歳。
吉岡千花ちゃんは「寿恵センセー心配してたけど大丈夫?」ときいてきた。
オオヌキさんは心配しないでしょ?と笑うと、吉岡チカちゃんは「へへ」と笑った。
私は、大丈夫だと思う…と微かに口元を笑顔の形にして答えながら、うつむいた。
ふーん…と相槌をうちながら、吉岡チカちゃんは黙り込んだ。
これが、この娘の手管だと気づいたのは、もっと後のことだ。
黙り込んで、私が何かを話し出すのを待っているのだ。
本当に話したいことを話し出すまで、会話ははずまない。
ケーキ食べたいとか、どこのお店に行きたいとかいうその場しのぎの話をしたとしても、微笑みながら「そうなんだー」と答えるだけなのだ。
私が話したいことを伝えるべきか躊躇しているのを見逃すほど浅い関係性ではないし、ずっと、彼女は私が話したくないことを絶対に秘密にしてくれていたのは、学生時代から変わらなかった。
私たちが、今、就職したとしても…。
額をテーブルに押し付けて囁くように「聞いてくれる?」と言うといつもと同じように「なんなりと…」と彼女は言った。
私は『わるもん』をつがいで自分の部屋に匿っていることを伝えた。
吉岡千花ちゃんは、頭のハゲと額の傷はそれ?と聞いた。
「『わるもん』いじめてた人間の五人組に…」と言い淀むと、彼女は何も言わずに頭をぐちゃぐちゃと荒っぽく撫でた。
「『わるもん』どうやって育てたらいい?」
そうすがるような目をして聞くとチカちゃんは「調べとくね、今度遊びに行くよ」と笑いながら言った。
それから数日後の連休の初日の日にチカちゃんはやってきた。
用心のためにインターフォンのモニターを確認し、さらに
玄関のドアの「のぞき穴」ドアスコープから外を眺めつつ吉岡千花二十三歳確認!と、指差し確認を行って扉を開いた。
開いた瞬間にゴロゴロと受け身をとりながら長髪の白衣の女性が転がり込んできた!
戦隊の保健室の先生的な(オオヌキ・トシエ大貫寿恵)推定年齢四十歳だった…。
そして、吉岡千花(愛称チカちゃん)二十三歳 性別女が、頭の上で手を合わせて私を拝むようなスタイルをとっていた…。
ごろごろと、不器用に転がりながら入ってきたオオヌキトシエ先生が叫ぶように言った。きっと彼女は運動神経は皆無だ。転がり方でわかる。
「IDネーム 百崎胡桃モモサキクルミ!いや、本名 木崎明音キザキアカネ!任意家宅捜索だ!!神妙にお縄につけ!」
チカちゃんは「先生、言ってることが滅茶苦茶ですよ…」と呆れたように言った。
私はオオヌキさんの下手くそな前転を見ながら、怖くて泣きそうになっていた。
次は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ(稀崎明音)さん、ワクワク家宅捜索…の巻
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