第13話 副見(そえみん)センセー講義で痴話喧嘩
【あらすじ・自己紹介】
私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ二十三歳!(稀崎明音)
正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!飼い主の責任として、きちんと彼らに名前をつけてあげたわ!!
私は決死の覚悟で無断欠勤からの出社!
理由を語らず部長の泣き落とし作戦決行!
それに勝利を納め、定時で帰る途中で痴漢にあって女子高生に説教をされ、腹立ち紛れに外灯を破壊!!
その後変身ヒーローたちの、月いちミーティングでインターンシップの学生がやってくるって話をされて、愕然!価値観の違いを痛感して、チカちゃんという友達とその情報を共有しあい『わるもん』カップルを自宅に軟禁してることを告白して、チカちゃんの上司のオオヌキトシエさんから、『わるもん』は私の愛情をエサにするということがわかったわ!
で…まだまだ続く十三話…。みんな!ついてきてる?
私は、少し戦隊ミーティングに出るのが億劫になっていた。
だって、『わるもん』を部屋の中に飼っているヒーロー戦隊の一員なんてありえないんだもん。
更に言えば、私は座学が嫌いなんだ。
どれだけ話を聞いても、なんだか頭に入ってこないから。今日はサボろうかと思ってたのに、チカちゃんが普通通りの生活をしないといけないから…と言い張って、朝から私を日曜戦隊早朝ミーティングに引きずっていった。
今日の五人の補修受講者のヒーローメンバーは…。
赤星翔太(あかぼししょうた)さん リーダーのレッド
青島海斗(あおしまかいと)さん サブリーダーのブルー
浅黄幸治(あさぎこうじ)さん 渉外のイエロー
深緑碧(みろくあおい)くん 技術担当のグリーン
百崎胡桃(ももさきくるみ)[仮名] 経理担当の…私、ピンク
サブリーダーのブルー青島さん以外は難しい講義が好きじゃないから、私の戦隊だけ特別補習を受けているような感じなんだ。
実は青島さんは補習を受けなくてもいいんだろうけど、付き合いで参加してるんじゃないかなぁ…。
講師の先生は女性。
ショートヘアボブでスラックスがよく似合うクールな人。
背筋を伸ばして、通る声で授業をすすめている。
副見光希(そえみみつき)というらしい。
「悪の結社が実行しようとしていることは、国家転覆や世界征服のみではありません。それこそ、覇権を奪うということを勝ちWin 負けloseという表現を使うならば、集団自決という考え方もあるわけです。いわゆる、世界を憎んで世界を滅ぼそうとする考え方。
いまだかつて、lose loseという戦い方をした歴史はありません…。バンザイアタック以外には…。
でも、今現在では可能性として、それが起こりそうな時代だと言うことを知っておきたいものです。
実は、それでもバンザイアタックは戦術的な扱いでしたが、それが、現代という時代には戦略的に使える時代になっているということを前提として考えます。
例えば、戦略的バンザイアタックを引き起こすアイテムとして登場したのが、規制が議論されている兵器、NBC兵器(またはABC兵器)と呼ばれる大量破壊兵器です。
核兵器・生物兵器・化学兵器
サンクトペテルブルグ宣言をはじめとして、ハーグ陸戦条約、ジュネーヴ諸条約の追加議定書で、国際人道法上の観点から戦争をゲーム化するような条約があるのですが、殴り合ってる国同士が、一線を超える前に第三国に介入してもらい間違った道を選ぶ前にジャッジしてもらう、和平交渉を進めるという手続きをとります。
しかし…。
いきなり、それを超えるのが、私たちの敵。
『わるもん』カテゴリーの敵なのです。
なぜそういうことになるかというと…。
すでに死ぬ気で世界を破壊するっていう意識を固めている集団なのです。最初っから特攻的な選択肢をとる!ということなので、動きが見えた段階では制圧自体が不可能になります。初動から潰すということが難しい世界です。
今の夜警国家という仕組みでは、なかなかにセンシティブな問題を含んでいて、制圧できるタイミングを逸してしまう可能性もあります。
そういった、いきなり、条約無視のloseloseへ持ち込みそうな教義に凝り固まったカルト軍団を炙り出し、秘密裏に制圧するのが私たちの役目です。
ブルーの青島海斗さんが手をあげた。
「世界を変えるために死にたいカルト集団を探して制圧するんですよね。今の世界を変えたいと思ってる人が悪だとは限りませんよね?」
「身も蓋もないですね、その言い方…。
でも、ある意味…正解です。正義か悪かの定義によります」
講師の副見先生は、襟もとのボタンをひとつはずして、左右に首を傾け肩をほぐすように回し左手で体重を支えながら、改めて話し始めた。戦闘モードに入ったかのような仕草だった。
「我々が掲げている正義とは、多数決です。より多くの仲間の幸福を守ること。
多数の仲間が暮らす幸せな生活の場所、過去から現在に続き、未来へつなげたい。
その願いを叶える。
それが、我々が掲げている正義です」
そこで、息を大きく吸って、副見先生は言った。
「多くの人たちが、幸せに暮らしているベクトルを維持する。それを邪魔するものを鎮圧、世界を維持することが私たちの使命、正義ということです」
青島さんは「方便、詭弁ですね」と改めて言う。
副見先生は腕組みをし、軽く笑って青島さんをみていた。
青島さんは言った。
「私たちが認識している世界は、小さな島国の中。その中で小さなシステムを維持するために正義を行使する。それが我々のささやかな正義です。ローカルな…ね?」
副見先生は呆れたように言った。
「あなたが講師になった方が良くない?」
青島さんは言った。
「詭弁は詭弁ですけどね…清廉潔白を主張して、なにもしないよりはいいんじゃないかと思ってます。少なくとも、それを知っていながら、闘う意義はあると思ってます」
ふーん?と副見先生は鼻を鳴らした。
そのとき、後ろのドアが開いて、誰かが入ってきた。
目が大きく気の強そうな少女とも言うべき若い女の子…。
副見先生は、青島さんを見つめたまま人差し指を立てて空中をくるくると回した後、最後尾の席を指を揃えた手のひらの先で指し示した。
(インターンシップ だ)
(インターンシップ だ)と、囁き合う声がする。
青島さんはその声と、その入ってきた子を無視して続けて言う。
「全貌を知った上で、選ぶ自由があって選んだ生き方なら、僕は後世の人から責められても胸を張れますからね。目隠しされながら自分が正義だと思い込まされて、正義は多数決だって信じ切って馬鹿みたいに死ぬのはいやだなぁって話なんですよね…」
「青島さん?あなたは本当にばかな子ですね」副見先生は、青島さんを呆れた顔で眺めて、そう言った。
「それを人前で話すこと自体が愚かな話です。人前で賢いふりをしない方がいい、思っても、言わないことです。
戦隊は、軍隊と同じ規律で動いています。
戦術レベルでは、判断を任せられていたとしても、今、あなたが感じている部分というのは、戦略レベルの考え方ですし統制がとれる考え方ではありません。各個人に正義の定義を任せるほど組織の命令系統は寛容ではありません。そして…それを、考えていたとしても、あなたの役職では、その考え方を活かせる地位にありません」
「分を、わきまえろ…と?」
「賢い振りをする愚かな子です。考えものですね…意見や考えがあったとしても、自分の考え方を整理できず、思いを伝えられないまま、カタチが定まらないうちに感情論で語らないことです」
最後尾から「先生!意見を述べたいです!」という冴え冴えとした若い女性、少女の声がした。
講師は、うんざりしたように、口の前に人差し指をあてて、話を切り上げ、教材をまとめて「今日の講義はここで終わりです」と言った。
彼女は前の扉から退出せずに、わざわさ青島さんのとなりを通り過ぎて後ろの扉から出て行った。青島さんの隣を通り過ぎる時に、掌を上にして手首をしならせながら中指を、ばちん!と音がするほど青島さんの額を弾き小突いた。そして「私以外の他の人のまえでは静かにしてなさい」と不機嫌そうに言った。
その背中に「先生!インターンシップ は発言しちゃいけないんですか!」と勝気な少女の声が追いかけて行った。
私はと言えば、そのやりとりを聞きながら、内容はあまりわかんなかったけど、この二人怪しい…と、ニヤニヤしていた。理性的な青島さんが非論理的な感情論で悪絡みしてる…。
(前日のピロートークとかで、なにかしら揉めたんじゃね?これ…。チカちゃんと会った時に悪の結社ごっこで使ってみよう…百合パターンでやってみようかな…)
そう考え、いくつかの言い回しをメモした。
他の三人は、青島さんに「いけ好かないセンセーだけどさー、査定に響くからあんまり上の階級の人に絡むなよ」と、たしなめていた。
私は(ふふん、もう、男性はさ…)と、それをニヤニヤしてみていたら、青島さんと目があって、私はあわてて目を逸らして素知らぬふりをした。
青島さんは、その仕草を苦笑いしながら照れ臭そうに見て、顎を左手の甲で支えるかのようなふりをして私の方を見ながら人差し指を口の前にこっそり当てた。聡い人だ、何を人が感じているかを知ってる人だ。
だからこそ、それ以上に自分の今の痴態を悟られたのを恥じ入っているようだった。
私は(はいはい、黙っときます…)と心の中で呟きながら口の端を少しだけあげて笑顔をつくってみせて、その場を後にした。
社内恋愛は、禁止だったっけ?恋愛対象でここの人を見たことがなかったから気にしたことがなかったなぁと思っていた。
浅黄さんは「それよりインターンシップ の子、おっぱい大きかったぜ!かわいかった!」と言っていた。
赤星さんは、そんな浅黄さんを「ロリコンは病める日本の恥部だぞ!」と罵っていた。
どこのオタクの会話だよ…。
私は、青島さんと副見先生との話に夢中になっていて、インターンシップ の子を見ていなかったので、廊下に出てかわい子ちゃんぶりを拝見拝見と、気軽な気分で扉を開いた。
すぐそこに、さっきの講師の副見光希センセーがいて、インターンシップの子と話していた。
氷のような表情で、受け答えをしている。
ふと、副見センセーが、私を認めて頬を緩めた。
「あ、そうそう、百崎さん、あなたインターンシップ生の担当だから、明日から一緒の職場に行ってもらうのでよろしくね?」
そう言いながら、履歴書とその子の顔を覗き込んだら…インターンシップの子は、白水真代(しろうずましろ)という子で、見覚えある顔…あの只食いイノシシ 女子高生だった…。
私は副見先生の腕を掴んで柱の影に引き寄せて耳元で猛然とささやき抗議した。
「ちょっと!先生!インターンシップ 生の担当!私じゃないとダメなんですか!?」と食ってかかるようにまくしたてた。
明日から無断欠勤!
戦隊ヒーロー会議も、日常職場の方も無断欠勤することにする!誰に何を言われようと出席しない!出勤しない!もう、クズまっしぐらだわ!
次は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ(稀崎明音)さん『再会イノシシ少女』…の巻
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