エピローグ 秘め事
王都。
城内にある中庭。
「僕、ついに騎士になっちゃったんですね……」
「ああ……そうだな!」
噛み締めるように呟く。
隣を歩くミライさんも、うんうんと確かめるように何度もうなずく。
僕はミライさんと同じ意匠の鎧に身を包み、ミライさんの隣を歩く。数週間前までは考えられなかった事だ。感慨にふけるのも仕方ない。
ミライさんは騎士になる夢を叶え、僕も騎士としてミライさんとずっと一緒にいられる。
ちなみに僕達が恋人である事は入団初日にミライさんが盛大にバラしたので、他人の目を気にする必要もない。
「夢、じゃないんですよね……こんな幸せ」
「アッハッハ! ベル君の幸運はいつもの事だろう! ちゃんと現実を見たまえ!」
「見てますよう! ……それに、大それた称号もたくさんいただいてしまって……ホントにいいんでしょうか?」
「相変わらず謙虚だなあ、ベル君は」
わしゃわしゃと僕の頭を撫でるミライさん。
く、くすぐったい……けど心地いい……。
ミライさんの無遠慮な掌が、僕は大好きだ。
「心配せずとも、キミはその称号に見合う立派な人間さ! この女騎士ミライが保証するとも!」
「えへへ……ありがとうございます! 気休めでも、嬉しいです」
「……気休めなんかじゃないさ。初めて会った頃に比べて、本当にたくましくなったな、ベル君……」
「ミライさん……」
「ベル君……」
「ミライさん……」
僕とミライさんの顔が、自然に近づいていく。
――ガラガラがら!!
「「――――ッッッ!!!」」
ぱっ!!!
大きな荷車を引く物音が聞こえて、慌てて距離を取る僕達。見ると、どうやら王都で出たゴミを処分場に運んでいるらしい。
「さ、流石に人前でキスなんてできませんよね!」
「そ、そうだな! そういうのは挙式のときまで取っておこうか!」
「も、もうっ!! 気が早いですって!!」
「アッハッハ……」
僕も、そう言うミライさんも、顔が耳まで真っ赤だ。ゴミを運ぶ荷車は、ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。
……ちょっぴり気まずい空気が流れる。
「……ぼ、僕、ちょっとあの人達、手伝ってきますねっ! 重そうですしっ!」
「アッハッハ、そういうところだぞ! ――私が惚れたのは」
このままミライさんと一緒に居たら、全身の血が沸騰してしまいそうだ。少しクールダウンが必要だな。
僕は、照れ顔をミライさんから隠して、走り出す。
ミライさん。
ミライさん。
ミライさん。
今、僕は、幸せです。
ミライさんと、出逢えた事が。
ミライさんと、ずっと一緒にいられる事が。
ミライさんを、幸せに出来る事が。
ミライさんの事が、世界で一番大好きです。
その笑顔が、優しい手が、強い心が。
ミライさんのぜんぶが、大好きです。
ぜんぶ、僕の、ほんとうの気持ち。
だけど、僕は、ミライさんに嘘をついていたことがあります。
これからも、きっとミライさんに、
たくさんの隠し事をしなきゃいけないと思います。
それでも、いいんです。
僕、もっともっともっともっと、頑張りますから。
これからもずっと、僕とミライさんが、最高に幸せでいられるように!
――――
――
ゴミ処理場は、大きな大きな穴だ。そこにゴミを溜めて、生活魔法で適切に処理をするのだという。
「これ、ここに捨てればいいですか?」
「感謝します! 真の勇者、アベル様!」
「や、やめてくださいよう」
僕と使用人さんは、荷車に乗せられたゴミを処理場の穴に落とす。
「助かりました、アベル様! では、私は次のゴミを運びに行ってまいります!」
「まだあるんですか!? て、手伝いますよ!」
「いえ、これは私どもの仕事です! アベル様は、どうかお部屋にお戻り下さい!」
うーん、使用人さんのお仕事をとってしまうのもよくないかな……?
「じゃあ、お言葉に甘えて。いつもありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ。王都を救っていただいた大恩、皆、忘れていませんよ」
そう言うと、使用人さんは荷車を押して去っていった。僕は部屋に帰る前に、ふと、ゴミ処理場の穴をもう一度覗き込んだ。
穴の中央あたりに、腐った大きな肉片が転がっていた。
王都を襲った、肉の怪物さんの死骸だ。もう危険性はないと判断され、ここに捨てられていたのだ。
「ここにいたんですね」
ああそうだ。
僕がやったんだっけ。
彼はきっとこのまま誰にも気づかれることなく、お花さんの栄養になるんだろうな。
「――――――ーー」
誰もいなくなった暗い穴の前で、僕は、晴れやかな笑顔で呟いた。
ずっとずっと、胸の奥底に秘めていた言葉。
ずっと言ってやりたかった、その言葉を。
「ざまあみろ、ユーシア」
幸運値9999999は最強のチートステータス!? 勇者パーティーを追放された僕ですが、復讐なんかしなくてもシアワセになっちゃいます! 骸兎《クロウサギ》 @bungalow840
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