6-? 英雄譚:アベル・ダービー(王都を救った真の勇者)
概要:
怪物から王都を救った13歳の少年アベル・ダービーに、王国騎士団としての称号が与えられました。彼の今後の活躍に、国中が期待を寄せています。
経緯① 王都の危機:
魔導世紀 5年12月28日
冬の王都を、未曾有の危機が襲いました。
巨大でおぞましい姿の怪物が、突如として、王都に現れたのです。
怪物は、全長が10メートル程の、腐った肉の塊です。
その攻撃方法は特殊で、目撃者の証言によると、伸縮自在の腕のようなものを伸ばして武器にしていたようです。何人もの住人がその腕で捕獲され、肉の裂け目から食べられてしまいました。
交戦した王国騎士団隊長キシドーによると、外皮自体は大したことないものの、負傷した箇所が自動で修復され、手のつけられない状態にあったそうです。
怪物は、過去のどの文献にも登場しない未知の敵でした。その未知の脅威が、建物や壁を破壊しながら王城に迫っていたのです。
経緯② アベルと怪物の戦闘:
王国騎士団隊長キシドーの指示で、騎士団員達は住人の避難にあたっていました。
怪物とはキシドーが交戦していたのですが、不死身の肉の壁に有効打を見つけられず、ついには両脚を折られてしまいました。
その後、住民の避難を手伝っていた冒険者のアベルとミライが、怪物に遭遇しました。
先に怪物と戦ったのはミライでした。しかしやはり前述のキシドーと同じく自動回復を突破できず、強打されて気を失いました。
怪物がなおもミライを攻撃しようとしたため、アベルが剣をとりました。突進で向かってくる怪物にアベルが放った攻撃は、ただの一発でした。
上段から剣を振り下ろした。それだけで、怪物はその機能を停止したのです。
何故このようなことが起きたのか、疑問に思う方もいるでしょう。
解剖した者の話では、怪物の体内には多数の小型の心臓があり、いずれも切り裂かれて機能停止していたとの事でした。
つまり、心臓は自動回復の対象外だったと思われます。
キシドー、ミライの証言と併せて考えると、それまでの攻撃で怪物の心臓はあらかた潰されており、アベルの切っ先が怪物の最後の
しかし、そんな事は解剖してみるまではわかるはずもありません。
アベルのステータスは、前述の二人と比べると遥かに見劣りするものでした。それでも怪物の前に立ったのは、彼の勇気の賜物と言わざるを得ないでしょう。
経緯③ アベルの功績:
怪物はアベルに倒された後で停止し、全身がボロボロに崩れていきました。そして、崩れた怪物の中から、それまでに食べられた王都の住人達が現れました。
幸いな事に、彼等は全員、比較的軽傷でした。どうやら怪物の消化力は見た目より弱く、人間のサイズの獲物を飲み込んでも溶かすには丸一日かかると見込まれました。
逆に言えば、あと1日倒すのが遅ければ、数えきれない犠牲者が出ていたかもしれません。
キシドー、ミライ、そしてアベルの三人が怪物の心臓を潰した事で、王都は建物の損壊のみで済んだと言えるでしょう。
多くの人々の命を救った彼等に、国中が惜しみない称賛を贈りました。
特に最も若かったアベルの勇気ある行動には、多くの者が胸を打たれ、彼の事を『真の勇者』と呼ぶようになりましま。
『真の』と冠しているのは、たまたま神託で選ばれたジョブとしての勇者の多くが、大した功績を残せず血税をドブに捨てている現状から『勇者』という単語にネガティブなイメージを抱く者が少なからず居るためと考えられます。
経緯④ アベル、王国の少年騎士に:
ミライは戦闘技能を、アベルは勇気と功績を評価され、王国騎士団隊長キシドーは彼等を騎士団員として推薦しました。
アベルは13歳の異例の若さで騎士団に入隊することになり、歴代最年少記録を塗り替えました。
両者の強い希望もあり、ミライとアベルは同じ隊に配置されました。これはアベルの戦闘技能が騎士団員の水準に達していないため、彼の事を熟知しているミライがサポートする目的もあります。
経験不足な事から少々の不安もありましたが、騎士になったアベルはより一層努力し、並の騎士では成し遂げられないような戦果をいくつもあげ、今も目覚ましい活躍を見せています。
若き才能が加わった騎士団は、どんどん強く、素晴らしいものになっています。
王都の未来は、明るいことでしょう。
閲覧時留意事項:
以降の記録の閲覧危険度は20と定められています。非常に刺激の強い内容となっているため、閲覧者の精神衛生を著しく悪化させてしまう危険があります。
過去に黒魔法等による強い精神ダメージを負った経験のある者、精神防壁の未発達な者、また、未成年に対しても本記録を公開してはいけません。
経緯⑤ アベルに関する噂と誤解:
アベルの電撃入隊とスピード昇格は、多くの者の羨望を集めました。しかしその反面、一部からは理不尽な妬みを買っていたようです。
最初のうちは、アベルとそのパートナーであるミライの両者が、陰湿な嫌がらせの被害にあっている場面が何度も目撃されました。
しかしそういった嫌がらせは、長くは続きませんでした。彼等に手を出した者が皆、おぞましい事故や病で命を落としてしまったためです。
参考までに、数件の事例を記載します。
死亡事例ー1:
犠牲者:イキリカ(男性・享年18)
アベルが肉の怪物を倒した状況を聞いてから、イキリカは『もし戦っていたら俺でも勝てた。あんなの運がいいだけのやつじゃねえか』と仲間に言って回っていたそうです。
彼は腹いせにアベルの使っている剣を盗み、肥溜に捨てようとしたところ、足を滑らせて自らが転落。排泄物を喉に詰まらせて、帰らぬ人となったそうです。
なお、アベルの剣は肥溜めには落ちず、親切な人が拾ったために無事でした。
死亡事例ー2:
犠牲者:バッカス(男性・享年35)
貴族の出身で平民を見下しているバッカスは、アベルの部下にされた事実を認めようとはしませんでした。
彼は使用人の力で、アベルの経歴を調べ上げ、かつて彼の住んでいた村を突き止めました。彼は、その村を盗賊に襲撃させようと計画していました。
しかしある日、逆にバッカス一家の乗った馬車が盗賊に襲われ、火をつけられました。助けようとしたバッカスも服に引火して、一家全員が焼け死にました。
死亡事例ー3:
犠牲者:ビッチィナ(女性・享年22)
彼女は前述の二人とは違い、幸運目的でアベルに近づいてきました。しかしアベルがミライと将来を約束した仲だと知ると、ミライの悪評を言いふらしたり、彼女を風呂場で突き飛ばしたりしていたそうです。
ビッチィナは何人目かのボーイフレンドから性病を
ここで述べたのは、ほんの氷山の一角に過ぎません。
アベルを敵視し、害を加えた、もしくは計画を立てた者が続けざまに命を落とした事から『実はアベルが秘密裏に手を回して彼等を処理しているのでは?』という噂も囁かれました。
しかし、彼の潔白はすぐに証明されました。
犠牲者の死に関していくら調査しても、不審な痕跡が一切認められなかったのです。
加えて彼らの死因も、転落死、水死、病死と一貫性がなく、また、衆人環視の中で命を落とした者もいました。スキルの行使によってこのような事を起こすのは不可能と断定されました。
むしろ、彼らの死はある意味、自業自得と言えるでしょう。
王国騎士団隊長キシドーも『王都の恩人にくだらねえ言いがかりつけたら叩っ斬るぞ』と、騎士団全員の前で凄んだそうです。
やがてアベル・ダービーの黒い噂を囁く者は、ひとりも居なくなりました。
しかし決め手となったのは、調査結果によるものでも、騎士団隊長キシドーの一括でもありませんでした。
以下の死亡事例があったためです。
死亡事例ー4:
犠牲者:ルーフ(男性・享年68)
アベルの周りで起こった『事故死』について、おもしろおかしく尾ひれをつけて言いふらしていた彼の死体は、ピアスを入れた舌以外の部位は未だ発見されていません。
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