6-5 王都の危機を救え!巨大モンスターとの決着!!

 王都。

 城下町。


「ぶしゃあああああああああああ!!!!!」


 建物の屋根の倍はありそうな背丈の、腐肉の塔が咆哮する。突如現れた巨大な化物さんに、僕とミライさんはじりじりと後ずさる。


「こ、これ……騎士団員さんが見たっていう、モンスターさんですよね……!?」

「だが、どうしてここに!?キシドー隊長殿が、足止めをしている筈では――!?」


 ミライさんの言葉に返答をするように、怪物さんの背後から呻き声が聞こえた。


「う、ぐっ……」

「キシドー隊長殿っ!!?」


 声の方に目をやると、キシドー隊長さんが地面に膝と手をついていた。両脚を折られたのだろう、酷く出血している。


「ミスったな……おい、お前達、何をしている。さっさと逃げろ!」


 キシドー隊長さんはこちらに気づくと、怒声をあげる。


「キシドー隊長さんっ!脚が――!?」

「こんなもん医療班にヒールさせときゃ治る!!」


 医療班なんて、此処にはいないじゃないか!

 僕とミライさんは剣を抜き、化物に向けて構える。


「我々も援護しますっ!!」

「そうですよ!僕達も冒険者の端くれですから!」

「よせ、手出しするんじゃない!」


 キシドー隊長さんの声は、冷静に燃えていた。

 ミライさんは得意の剣で化物さんの腕の一本を斬り捨てる。

 だが、化物さんは怯む様子もない。そればかりか、スパッと斬れた腕の断面から、にゅるりと肉の蛇さんが伸びてきた。

 新鮮な腕だ。


「コイツには剣も魔法も効かん!俺も何百という剣撃と攻撃魔法を浴びせたが、すぐに再生する!」

「そんな、どうすれば――っ!?」

「なんのために俺が身体を張って足止めをしているんだ、さっさと行け」


 キシドーさんが静かに吠える。


 だけど。

 このまま僕達が逃げれば、キシドーさんは間違いなく、この怪物さんに喰われてしまうだろう。


 周囲に騎士団員さんは居ない。

 皆、キシドーさんを信じて住人さんの避難に手を割いているのだ。


「この役は誰かがやらなきゃいけない――お前らだってわかっている筈だ」

「――わかりません!!!」


 ミライさんは勢いよく、怪物さんの前に飛び出す。な、なにやってるんだ!!

 ――いや、こういう人だったな……。


「私は、冒険者ミライ!ここに騎士団への入隊を断りにきました!だから、騎士団の隊長命令に従う必要はありませんっ!!」

「ミライさん!あ、あ、危ないですよっ!!」

「ベル君!キミはキシドー殿を連れて逃げろ!!」


 僕が止める間もなかった。

 怪物さんは無数の肉腕を伸ばしてミライさんを攻撃する。ミライさんはそれを次々躱し、斬り捨て、怪物さんを攻撃する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 右――左――右ーー左ーー飛んで上にーー!!

 ――ザシュッ――ザシュッーーザシュッーー!!


 ミライさんの戦闘はいつも近くで見ているが、今日もその動きは冴え渡っている。怪物さんは自分の血で、トマトみたいに真っ赤に染まる。


 ミライさんの圧倒的優勢、だが、それも最初だけだった。


「はぁ――はぁ――」

「ミライさんっ!もう無理ですっ!下がってくださいっ!!」


 僕はキシドー隊長さんを建物の影に避難させながら、大声で叫ぶ。

 怪物さんにつけられた傷はみるみるうちに塞がってしまう。ミライさんには疲れの色が見えるが、怪物さんは怯む様子もない。

 ジリ貧なのだ。


 ――ドゴッ!!!

「ぐうぅっ……!!?」

「ミライさんっ!!?」


 骨の突き出た肉腕が、ミライさんの鎧の隙間から、腹部にヒットした。メキメキと嫌な音がここまで聞こえてくる。

 あんなもので殴られたら、骨が砕けていてもおかしくない――!!


「――――っっっ!!!」


 ミライさんの手から剣が離れた。身体はそのまま吹き飛ばされ、僕の背後の壁に音を立てて激突した。

 僕は慌ててミライさんに駆け寄る。ぐったりしていて、意識がない。


「ミライさんっ!しっかりしてください、ミライさんっ!!」


 間違いなく、無事の筈だ。

 ここでミライさんに何かあるようなら、僕の幸運なんて、なんの意味もない――!!


 ――ちゃりん、ちゃりちゃりん……。


 僕が傷を確かめようとミライさんの鎧をずらすと、懐からコインが溢れ落ちる。


「あ、これ――僕があげた、お財布――!」


 初めてのデートのときにミライさんにあげたお財布が、ズタボロになってしまっていた。ミライさんがよくお財布を壊すって聞いて、一番丈夫なのを選んだんだっけ――。



 ――

 ――――



「これは、財布だね。なんとも可愛らしい……」

「とっても丈夫らしいですよ!クッション性もバツグンで、Sランクモンスターに攻撃されても破れないって!」

「え、Sランクモンスターに財布を差し出す予定は無いが……?」



 ――――

 ――



 それが幸運にも怪物さんの一撃をガードしてくれたってわけだ。お財布は破れちゃったけど、ミライさんに怪我は無い。呼吸も、ちゃんとしている。

 ほんと、良かった――。


「ぶじゃあああああああああああああああああ!!!」

「っっっ!!!」


 ――ずるっずるずるずる!!

 怪物さんはミライさんに向かって突進してくる。まったく息つく暇もない。


「ミライさん!!ミライさん、起きてくださいっ!!」


 ぺちぺちとミライさんの頬を叩くが、目を覚ます気配は無い。


「くそっ――!!脚が、動かねえ――っ!!」


 キシドー隊長さんも、這ってでも戦おうとしているが、怪物さんの速度には追いつかない。

 こんな事になるなんて――。

 ――いや、なんとなくこうなりそうな予感はあった。



 僕が、やるしかない。


「ぶじゃあああああああああああああ!!!」

 ――ずるずるずるずるずるずるずるずる!!!


 怪物さんは腕を引っ込め、こちらに突進してくる。その威圧感たるや、暴走する巨大なボアさんの群れのようだ。


「――来るなら、来いっ!」


 僕は剣を上段に構えると、大きく息を吸って、止める。

 僕の力は大したことない。効果的にダメージを与えるには、相手の力を利用するしかない。

 狙うは、カウンターだ。


「ミライさん――」


 剣の修行で、ミライさんに勝てた事は一度もない。

 そのミライさんを失神させた怪物さんと、僕は、やりあおうとしている。


 けど、恐怖は無かった。

 僕の脳裏に、かつてミライさんに教えられた言葉が蘇る。



 ――

 ――――



「落とす力は加えなくていい、剣の重さだけで落下させる」

「はい!」

「首は動かさず目線は剣先を見るようにして、真っ直ぐ下ろす事だけを意識してやってごらん」

「はいっ!」



 ――――

 ――



「ぶじゃじゃじゃじゃああああああああ!!!!」


 何度も何度も、繰り返した素振り。

 手に残っている、空を断つ感覚。

 失敗する筈がない。


「僕が幸運なら――これくらい――なんて事ないっっっ!!」


 怪物さんが目の前まで迫ったとき、僕は、縦一文字に剣を振り下ろした。


「たああああああああああああああっ!!!!」

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