6-4 王都の危機!?街を襲う巨大モンスター!!

 王都。

 城門前。


 ミライさんの騎士団さん入隊をお断りするため、僕たちは馬車さんに乗ってお城の前まで来ていた。ミライさん曰く、この中に騎士団さんの本部があるらしい。


「やっぱり人が多いですね、王都は」

「そうだろう? なにせ国の中心だからな」


 ミライさんにとっては懐かしくも苦い思い出のある街。僕にとっては、そうでもない街。


 城門を背に、街道を眺める。

 オーキー街の倍はありそうな道幅に、ぎっしりと人がひしめいていた。

 冒険者さんより、貴族階級さんの割合が多いのだろう。身なりの上等な人が多く、装飾品などを身につけている。


「僕達、浮いてないですかね……? もっとちゃんとした服を着てくるべきだったんじゃ……」

「アッハッハ! 気にする事はない! 前に入隊試験に来たときも似たような格好だったし、私たちの事なんて誰も眼中にないさ!」


 そう言って笑うミライさん。

 確かに、これだけ人が多ければ、ひとりひとりを気にしている余裕もないか。


「お待たせしました。ミライ・セーフィス殿、ご案内いたします」


 やがて門番さんがあらわれ、僕達を城内に招き入れてくれた。

 長い石造りの廊下を進んでいく。

 すっごく長い。比べる対象が間違っていなければ楽、教会さんの十倍はある。

 やがて僕達は、ひとつの鉄扉の前で立ち止まった。


『騎士団隊長、執務室』


 ――コンコン。

「キシドー隊長、ミライ・セーフィス殿をお連れしました」

「入れ」


 門番さんがノックをすると、すぐに短い返答があった。


「失礼します」


 部屋に足を踏み入れて驚いた。

 悪趣味なほど豪華絢爛な調度品が部屋の半分を埋め尽くし、その真ん中に、質素な机と椅子が置かれている。なんとも不釣り合いだ。

 その部屋の中央で、眉間にシワを寄せた若い男の方が、椅子に腰掛けていた。筋骨隆々。一目でわかる、強いと。

 そして机には大量の書類が積まれている。ここは彼の執務室なのだろう。一目でわかる、有能だと。

 僕とミライさんは、床に片膝をつく。


「キシドー隊長殿! お初にお眼にかかります!」

「遠路遥々、御苦労。ミライ・セーフィス殿。かけたまえ」

「いえ、おかまいなくッッッ!!!」


 来客用のやわらかそうなソファがあったが、隊長さんを硬い椅子に座らせたまま、そんなところに腰掛けられるはずもない。

 ミライさんはそのままの姿勢で、言葉を続ける。


「グシャード前隊長殿の事、お悔やみ申し上げます」

「社交辞令は要らん。アレには俺も迷惑していた。……この部屋に欲しいものがあったら、持っていってもいいぞ」

「いえ、おかまいなくッッッ!!!」


 あー。この悪趣味で高そうな調度品は、グシャードさんのものだったのか。言われてみれば、趣味の悪さといい過剰装飾具合といい、グシャードさんのイメージにそっくりだ。

 グシャードさんは元隊長。彼が死んだ事で、同じ部屋をキシドーさんが使うことになったわけだ。

 眉間にシワを寄せるキシドー隊長さん。


「……これでも半分くらいは片付けたんだがな……」


 え、部屋の半分、埋まってるんですが……?

 じゃあグシャードさんは、どこでお仕事してたんだろう……??


「さっさと本題に入ろう。騎士団への勧誘の件、辞退しに来たのだろう?」

「え!? ど、どうしてそれを――」


 どのように断れば失礼がないかと色々考えていた僕とミライさんは、出鼻を挫かれて驚いた。


「顔つきを見ればわかる。目の前の男に、命を預ける気があるのか、そうでないかくらいはな」

「せ――折角お誘いいただいたのに、申し訳ございませんっ!」


 勢いよく頭を下げるミライさん。

 キシドーさんは気にする様子もない。


「謝る事じゃないだろう。一応席は開けておくから、気が変わったらいつでも来い」

「寛大な処置、感謝いたしますっ!」

「で、用件はそれだけか?」

「は、はい」

「そうか。帰りの馬車は俺の方で手配しておいた。足労かけたな」

「重ね重ねありがとうございますっ!!」


 はやっ。

 キシドー隊長さんの部屋に入ってから5分と経っていないように感じたが、実際には3分と経っていなかった。

 きっとお仕事も早いんだろうなあ。


 僕とミライさんはキシドー隊長に頭を下げ、立ち上がる。

 そのときだった。


 ――バァンッッッ!!!

「た、大変です!!! キシドー隊長!!!」


 勢いよく扉が開き、騎士団員さんのひとりが、血相を変えて部屋に飛び込んできた。

 突然の出来事に、ミライさんも呆気にとられて何もできないでいる。


「簡潔に報告しろ、何があった」


 キシドー隊長さんは眉ひとつ動かさず、団員さんに説明を求める。

 流石だ。


「と、とにかく外に!! き、巨大な怪物が王都に侵入! じ、住人を食っています……!!」


 部屋の中に、絶叫が轟く。


 大事件だ。

 よくクマ耳を澄ませば、城の外からも泣き叫ぶ声が聞こえて来る。住人さん達が、侵入した怪物さんに襲われているのだ!


「――その怪物は今どこに居る?」

「真っ直ぐ王城に向かってきます!!」

「全隊で住民を避難させろ、怪我人や老人、子どもを最優先にだ。その怪物は俺が相手をする」

「はいっ!!」


 冷静で的確な指示を出した直後、キシドー隊長さんは剣を掴み、物凄い速度で部屋から出て行く。あっという間に、見えなくなった。


「私達も行こう、ベル君! 住民の誘導を支援するんだ!」

「はいっ!!」


 非常事態だ!

 騎士団さん達のお手伝いをしなきゃ!


 ミライさんと僕も、大急ぎで王城を飛び出した。



 ――――

 ――



 王都。

 住民街。


「大丈夫ですかっ!?」

「ああ、助かったよ……」

「落ち着いて避難してくださいねっ!」


 僕とミライさんは、混乱して逃げ惑う住民さん達に声をかけ、動けない方には肩を貸したりもして、王城から遠ざけていた。

 幸いにも、瓦礫に押し潰されて亡くなっている方などは居なかった。


 件の怪物さんの姿は見えないが、今はキシドー隊長さんが戦ってくれているはずだ。


「……しかし、本当に人が多いな此処は……! 騎士団と私達だけでは、手が足りないぞ……!?」


 ミライさんは唇を噛む。

 まだまだ、避難完了できていない人はたくさんいるのだ。


「人手…………そうだ! 王都には、冒険者ギルドさんは無いんですか?」

「ナイスアイデアだ、ベル君!! 冒険者なら体力もあるだろうし、人数も居る!」

「僕、呼んできますっ!!」


 ギルドさんまで間の道のりはわからないが、問題ない。

 幸運9999999もあるのだ。直感に従って走れば、ギルドに着くだろう。

 僕は路地裏に向かって、駆け出した。


「ベル君、危ない! 止まれっ!!」

「えっ、うわあっ!?」


 ミライさんの声で立ち止まる僕。

 間一髪、目の前の壁が轟音をたてて崩れた。


「ベル君っ! こっちに!!」


 ミライさんが僕の手を引き、体を抱きかかえてくれた。


「どこか怪我はないかい!?」

「お陰様で無事です、心配してくれてありがとうございますミライさんっ!」

「お礼は後でたっぷりしてもらうとするよ」


 え。

 なんだろう、マッサージとか……?


「――だが、これは少しまずいな……」


 ミライさんの目線を追って、僕は、もうもうと立ち昇る土煙を見た。

 その中から現れたモノを見た。


「う、うわああああっ!!」

「落ち着け、ベル君っ!!」


 想像していた以上の悍ましさに、僕は思わず叫び声を上げてしまった。


 全長5メートルほどの、不気味な肉の塊だ。そこからスライムさんのように、骨の無いぐにゃぐにゃの肉腕が何本も生えて、蠢いている。

 いや、骨はある。腕のいたるところからイボのように突き出している。あれで殴りつけて、硬い壁なんかも壊して来たのだろう。

 口は無いが、身体にあるいくつかの肉の隙間に布切れが挟まっているところを見ると、ああやって肉体に押し込んで獲物さんを食べるのだろう。


「ぶしゃあああああああああああ!!!!!」


 肉の狭間から、鳴き声ともとれる異音が吐き出される。


 すごく大きくて、すごく醜い。

 王都を襲ったモンスターさんが、僕達の眼の前にいた。

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