6-3 お別れなんて認めない!?ミライとアベルの愛の告白!?
夕方。
街外れの森。
「はあ…………。」
僕は切り株さんの上に腰掛けて、ため息を溢す。
幸運値9999999のおかげで、モンスターさんに見つかる心配はない。
ミライさんとお別れしたこと、後悔はしていない。きっとその方が、ミライさんも幸せになれる筈だ。僕が居ては、騎士さんの仕事の邪魔になってしまうかもだし。
これでいい。
これでよかったんだ。
けど、やっぱり……。
「…………さびしいなあ……」
ぽつりと呟く。
ヂヂィという鳥のさえずりや、ザワザワと木の葉の擦れる音が、いつもよりとっても大きく聞こえる。
ペタンと熊耳を閉じると、今度は静か過ぎる。
「いつもミライさんが居てくれたからなあ……」
思えばこんな風にひとりぼっちになったのは、勇者パーティーを追放されて以来だ。だけど思い出すのは、その勇者パーティーの事ではなく、ミライさんの笑顔ばかり。
彼女の賑やかさが、ずっと僕の心を支えていたのだと痛感する。
「……また聞きたいな……あの能天気なドヤ笑い声……」
「誰が能天気なドヤ笑い声だって?」
「だからミライさんの………………………………ミライさん!?!?」
銀色の剣を携え、銀色の鎧を着た、長い銀髪サイドテールのお姉さんが。
屈み込むように僕の顔を覗き込んでいた。
「やあベル君」
「うう……ついに幻覚と幻聴まで……」
「アッハッハ! 寝ぼけているのかい?」
ミライさんは僕のほっぺをグニュっと左右に引き伸ばす。
実体がある……本物だ!?
「みあいひゃん!? なんひぇふぉふぉに!?」
「あっ、すまん」
「ぷはっ――ミライさん!? どうして来たんですか!? 探さないでって言ったじゃないですか!」
本心ではミライさんに会えてこんなにも嬉しいのに。僕の口は心とちぐはぐなことを言う。
「なにを言っている、パーティーの仲間が居なくなったら、探すに決まっているだろう!」
「仲間って……」
見ればミライさんの鎧は泥だらけで、手にも血が滲んでいた。
きっと、ずっと僕の事を探してくれていたんだ。運が悪いのに、それでも見つかるまで……。
「……傷、手当てしますね」
「ん? うわっ、怪我してる!」
「今気づいたんですか……」
薬袋を持っていてよかった。僕は、ポーションをミライさんの手をぶっかける。
「痛っ! 容赦ないな!」
「ミライさん。僕と冒険者パーティーを組んでたら、女騎士になる事はできないんですよ?」
手当てをしながら、ミライさんを諭す。
手紙にも書いたし……それくらいの事がわからない人じゃない筈なのに。
「ああ。王都騎士団のお誘いなら、お断りする事にしたんだ。だからこれからも一緒に居られるぞ、ベル君!」
「え、えええええええっ!?」
なに言ってるんだこの人は!?
立派な女騎士になることは、ミライさんの夢だった。
そのために今まで頑張って来たんじゃないのか!?
「王都騎士団の新隊長殿に認められたのだ。私はそれで十分だよ」
「ダメですよ! 僕のためにそんなっ! ミライさんに迷惑かけたくないです!」
「いいや、ベル君の為なんかじゃない! 私のためだ!!」
僕の両手をぎゅぅっと握り、ミライさんは力説する。その手に、熱を感じた。
「私は、キミの事が好きだ。大好きだ!」
「それは――ありがとうございます。改めて言われると照れますけど……僕達、いいパーティーでしたもんね」
「違う!! ライクじゃなくて――ラブの方だ!!」
「…………? ――――ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?!?」
ええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?!?
一気に顔が火照り、思考が追いつかなくなってくる! 突然! なんなんですかミライさん!?
「キミがもう少し成長するのを待ってから想いを告げるつもりだったが――そんな悠長な事も言ってられないからな」
「僕、成人してますからね!? もう立派に13歳ですからね!?!?」
「そうだったな……アッハッハ!! それなら、なにも問題ないじゃないか!」
「ほら! だからちゃんと一人前の男性としてお付き合いできますよ!」
「それはつまりOKということかな?」
あれ? なんで僕は告白の返事を求められてるんだっけ?? 騎士になるかどうかの話をしてたんじゃあ???
うう……頭がパンクしそうだ……。
「えっと……僕は…………」
「うんうん」
縋るようにミライさんを見る。
僕のために下手な嘘をついているようには見えない。というか、ミライさんはそんなに器用じゃないし。
…………なるようになれだ!
「僕もミライさんの事、大大大大大好きですっ! 世界で一番好きですっ! ずっとずっと一緒に居たいし、こ、恋してますっ!!」
「私と恋人になってくれるかな?」
「勿論ですっ!!!」
自分に正直になる事にした。
勢いに任せて言い切ったけど、冷静になると顔から火が出るほど恥ずかしい……。
「いやあ両想いだったなんて、嬉しいなあ! アッハッハ!」
「か、軽いですね、ミライさん」
「顔が真っ赤だぞ、ベル君」
そういうとミライさんは僕の頬に手を当て、顔を近づけてきた。
わっ、わっ。
思わず眼を瞑ると、口先にぷるんと柔らかい肌が触れる。
――僕、今、キスしたんだ。
ミライさんと――。
「――私の本気、わかってくれたね?」
耳元で囁くミライさん。
「――はい」
僕は、夢現の中で返事をする。
「じゃあ、恋人を置いて去るような酷い真似はしないな?」
「――――はい」
断れるわけがなかった。
――――
――
翌日、昼。
オーキー教会さん。
「「お世話になりました!」」
「うむ。気をつけての」
「またねー! みらいおねえちゃん、あべるくん!」
「「きゃっきゃっ!」」
僕とミライさんは、お師匠さんと子どもさん達に元気いっぱいに手を振る。
昨晩、ミライさんと、これからの事をゆっくりと話した。
これまで通りパーティーメンバーとして冒険を続けるのは言うまでもない。僕もミライさんも冒険は好きだし。
屋敷を買って一緒に住んだり――なんて話も出た。確かにお金は有り余っているけど、そういうのは、まだ早いと思った。
ご両親へのご挨拶――は、また時期を見て行こうと話した。
そして、ミライさんと僕は、まず初めに王都の騎士さんに謝りに行く事にした。
光栄な誘いを断るのは胸が痛まないかと尋ねたが、ミライさんは、義理を通さない方がよっぽど心苦しいと答えた。……ミライさんらしいや。
「王都は少し遠いけど、ついてきてくれるかい?」
「勿論ですっ!!」
本当にこれでよかったのか。
何度も考えたが、口には出さなかった。
それを言うのは、熱い告白をしてくれたミライさんに失礼だと思ったからだ。
「――そろそろ、迎えの馬車が来る頃ですね」
「うん。また長旅になるし、気合を入れて行かないとな」
「気合、ですか?」
「ああ、いつものアレだ!」
ミライさんはニッと歯を見せて笑うと、握った拳を高く突き上げる。
そういうことか。
僕も、ミライさんと同じポーズをとった。
「「最強超絶パーティー! おーっ!」」
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