6-2 さようならアベル!?また合う日まで、涙を拭いて!!
朝。
オーキー教会。
「うわあああああああああああああああああ!!!!!!」
教会に響き渡った叫び声と走り回る音に、朝食の準備をしていたセイクリッドは、驚いて目玉焼きを潰してしまった。
「なんじゃミライ朝から騒々しい! 折角綺麗な半熟に仕上がっておったのに……チャバネでも出たのか?」
「し、ししししししっ、師匠!!! べ、ベル君を見ませんでしたかっ!!?!?」
「アベル坊か? 今日は見ておらんが……そちと同じ部屋におったのではないのか?」
現れたミライは、髪を結ぶのも忘れ、寝巻きに裸足のままだった。弟子の狼狽ぶりに、セイクリッドは嫌な予感がする。
「べ、ベル君が、ベル君があぁ……!」
「落ち着けミライよ、まずは何があったか教えてくれんか?」
「こ、コレが、部屋にぃ……」
ミライは手にしていた紙切れをセイクリッドに渡すと、そのまま力なく床に崩れ落ちた。
セイクリッドはミライを抱えて椅子に座らせ、紙切れを開く。
それは――アベルからミライに宛てた、手紙だった。
―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪
だいすきなミライさんへ
ミライさんがこの手紙を読んでいるとき、僕はミライさんの元には居ないでしょう。
どうか探さないでください。
ミライさんが僕と冒険を続けては、王都の騎士さんにはなれません。そんなことで、ミライさんの夢の邪魔をするわけにはいきません。
なので僕は、ミライさんとのパーティーを解消して、ひとり旅に出ようと思います。
ミライさんに教えてもらったこと、強くしてもらった事、絶対に忘れません。ミライさんと過ごした日々は、本当に楽しかったです。
今までありがとうございました。
遠く離れていても、いつもミライさんの幸せを願っています。
騎士さんのお仕事、頑張ってください!
アベルより
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「うええええええええええええ゛え゛え゛え゛え゛んんんん!!!! ベル君が家出したああああああああああああああ!!!!」
人目も憚らず、幼子のようにわんわんと泣き喚くミライ。
「わ、ワシもうかつじゃった、すまん……」
セイクリッドは後悔する。
食事の場で弟子の夢を後押し喜んだが、その先にあるアベルとのパーティー解消までは思い至っていなかった。
そして昨夜、教会を去るアベルの様子に気がつかなかった。
「しかし何も言わずに行ってしまうとは……ワシもあの子に借りた恩を返しきれておらんというのに……」
「やだああああああああああああああっ!!!! ぴぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」
「………………。」
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!!!!」
「…………ええい落ち着け!!!」
――バシィ!
弟子を平手打ちに処す師匠。
「へぶっ!!?」
軽く2メートル程吹っ飛んだ弟子。
「す、すみません師匠……ぐすんっ……」
「世話を焼かせおってからに……」
セイクリッドは、腕組みをする。
「……そもそも、そちはどうするつもりだったんじゃ? 騎士になればアベル坊と冒険を続けられない事、わかっておったはずじゃろう?」
「うう……だが、ベル君はもはや私にとって片腕みたいなもので……離れる事なんて想像できていなかったというか……」
「…………はあ…………」
「……騎士になっても、ずっとずっとついてきてくれるものだと……おもってたのにいいぃぃ……」
梅雨真っ盛りのようなジメジメした湿気を放つミライ。地面に『の』の字のマークを書き始めた。
かわいい弟子の痛ましい姿に、セイクリッドはため息を溢す。
「ええい!! いつまで床に座り込んでおるつもりじゃ!!」
「え、これは師匠がぶったから……」
「とにかく立て!!」
「は、はい……」
「それからしゃんとせい!!」
「ひゃいいっ……!!」
セイクリッドに促され、ミライは背筋を伸ばした『気をつけ』の姿勢を取らされる。
「それで、そちはどうするつもりなんじゃ?」
「それは――ベル君を探して、戻ってくるように説得できないかなと……」
「まあそうじゃろうな。じゃがその前に――そちに、ひとつだけ確認するぞ」
セイクリッドの眼光が厳しくなる。
ミライはその迫力に押されて、生唾をゴクリと飲み込んだ。
「アベル坊と一緒に王都の騎士になる事は無理じゃろう」
「そ、そんな……」
「彼奴は若すぎるし、剣技はそこそこのようじゃ」
「ベル君にはベル君の良いところがたくさんあります! 剣技だって最近頑張っていますし!!」
「そちがアピールしても仕方ないじゃろう……」
「うぐっ……」
ぐうの音も出ないミライに、セイクリッドは追撃をかける。
「……アベル坊が言う通り、そちが騎士になる事を選ぶなら、冒険者パーティーは続けられないじゃろう」
「くううっ……そ、そんな……!」
「そちが騎士になるというのなら、どの道アベル坊を連れ戻しても、かえって傷つける結果になるじゃろう。それならば、涙を飲んで別れるべきじゃと思う」
キッパリと強く言い放つセイクリッド。
厳しい言い方ではあったが、これもかわいい弟子とその友人の気持ちを慮っての事だった。
セイクリッドは、ミライの目をジッと見つめる。
「じゃから、そちの意志を確認せねばならん。王都の騎士になるのか? このままアベル坊と、冒険者を続けたいのか?」
「ベル君がいいです」
「うん。思ったより即答じゃったね。びっくりしたぞ」
もう少し思い悩むだろうと考えていたセイクリッドは拍子抜けしてしまった。
しかし、ミライは真っ直ぐな目をしていた。
「そうと決まれば、すぐにベル君を探すのじゃ!! まだそう遠くにはいっておらんじゃろう!」
「はいっ!!」
セイクリッドの言葉を聞き、ミライは教会を飛び出した。
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