6-1 突然の知らせにみんなビックリ!! ミライの夢が叶う瞬間!?

 ある日の午後。

 オーキー教会さん。


「今日の依頼もバッチリだったな、ベル君!!」

「ミライさんが頑張って戦ってくれたからですっ!」

「アッハッハ! いやいや、ベル君の的確なアドバイスのお陰だよ」


 クエストを終えた僕とミライさん『最強超絶パーティー』は、ギルドさんから教会さんに戻る道を歩いていた。

 この街で依頼をこなし続けて1ヶ月と半月が過ぎた。既に僕達はAランククエストもそこそこ余裕でクリアできるほど、実力がついてきていた。


「ただいま戻りました、師匠!」

「ただいまです!」

「おお、おかえりなのじゃ! ミライ、アベル坊」


 笑顔で僕達を出迎えてくれる、ミライさんのお師匠さん。

 教会さんは温泉もあるし、子どもさん達とも仲良くなれたので、僕とミライさんはずっとごやっかいになっている。


「ところでミライ。そちに客人が来ておるぞ」

「え? ……私にですか……?」


 少し不思議そうに問い返すミライさん。

 奇妙な話だと思った。

 ミライさんは冒険者さんで、この教会さんに宿泊しているのはたまたまだ。何故ここにミライさんの客人が訪れるのだろう……?


 しかし、その答えはお客さんの姿を見てすぐにわかった。


 立派な鎧に、騎士団さんの紋章をつけた、若者だ。


「お待ちしておりました、冒険者ミライ殿」

「……あ、ああ。……王都騎士団の方、ですよね……?」

「ええ。といっても私は、ただの伝令で御座いますが」

「そうですか……えっと、どのようなご用件でしょうか……?」


 ミライさんは身構える。

 それもそのはず、見習い騎士さんのミライさんだが、王都騎士団さんにはロクな思い出がない。

 入隊試験は不正な手段で不合格にされ、グシャード隊長さんには嫌がらせをされていた。

 そのグシャード隊長さんだが、先日、僕達が完全論破して追い払ったところだ。仕返しにでも来たのかと、勘ぐっても仕方ない。


 しかし続く彼の言葉は、ミライさんのそんな予想を覆すものだった。


「正式に、王都の騎士にならないかとお誘い申し上げたく、早馬を飛ばして馳せ参じた次第で御座います」

「――え――!? えええっ!!?」


 大きく動揺するミライさん。


「しかし、わ、私は先日、そちらのグシャード隊長に無礼を働いたばかりです! それを入隊させたいなど……そんな話、信用できません!」

「その事なのですが……グシャード隊長は、急死されました」

「きゅ、急死――――!?」


 彼は驚くミライさんに、事の顛末を語った。


 なんでもグシャードさんは、不幸にも闇討ちにあったのだそうだ。彼の死後、ナンバー2の騎士『キシドー』さんが、新しい隊長さんに任命された。

 その騎士さんはグシャードさんのやり方に不満を持っていたらしく、人事履歴などを洗い出し、騎士団の再編成を行っている。

 その中で、過去のミライさんの試験結果や、グシャードさんを糾弾して不合格にされた経緯が、キシドーさんの耳に入った。

 その話を聞いたキシドーさんはミライさんの事がたいそう気に入り、是非とも騎士団さんに入隊して欲しいと考えたそうだ。


「本来ならキシドー隊長自ら、ご挨拶に来たいとも申しておりました。しかし隊長の任を継いで間もなく、激務に追われておりまして……」

「い、いや、構わないでくれ! ……こんな無名の者に伝令を飛ばしてくれただけでもありがたい話だ」


 キシドーさんという人の性格は、グシャードさんとは大違いらしい。話を聞く限り、常識的で、働き者で、人を見る目もある、優秀な人だ。


「それで入隊の方ですが、考えていただけますでしょうか?」

「――すみませんが、少し考えさせてください。あまりに急な話で、まだ心の整理がついていませんので……」

「わかりました。では、お心が決まりましたら、王都にお越しください。騎士団一同、心よりお待ちしております」


 そう言って伝令さんは僕達に一礼し、馬さんに乗って去っていった。

 僕は放心しかけているミライさんの前で、ガッツポーズを作る。


「よかったですね、ミライさんっ!」

「あ、ああ。…………人が死んでるのに喜ぶのはどうかとは思うが……」

「……あ、う。そ、そうですよね……すみません」


 流石に不謹慎だったか。反省。

 ちょっと気が緩んじゃってたみたいだ。

 誰かが死んで嬉しいなんてのは、普通じゃない。


 目を瞑って十字を切る。

 どうか安らかにお眠りください。


「いやいやいや、ベル君を悪く言ったわけじゃないんだ! 私の夢が叶った事を、喜んでくれたんだろう? 謝らないでくれ!」


 わしゃわしゃと頭を撫でてくれる。

 えへへ、ミライさんは優しいなあ。


「けど、ミライさんもついに見習い騎士さんを卒業して、本物の騎士さんになれるんですねっ!」

「まあ、ちゃんと話を聞いてみないことにはわからないがな」


 その後、僕とミライさんは念の為ギルドさんで、グシャードさんの訃報が本当である事を確認した。

 教会に戻り、夕食のときにお師匠さん達に報告すると、皆驚きつつも、ミライさんの事を祝ってくれた。

 一応、グシャードさんに形だけの黙祷が捧げられた。教会さんは流石だなあ……。


「ミライよ、そちの事は少し心配しておったが……良かったのう、良かったのう」

「あ、いや、その、まだ決まったわけでは……」

「なにをいうておるか!」


 お師匠さんは、少し目に涙を浮かべている。


「そちの真っ直ぐな努力が報われた事が、ワシは何よりも嬉しいのじゃ……!」

「師匠……っ」

「ミライお姉ちゃんおめでとー!」

「騎士団でも頑張ってね!」

「みんな……!!」


 子どもさん達にも祝福されて、ミライさんも感動に肩を震わせていた。

 色々な想いと共に、手にしたグラスの中身を、一息に飲み干す。


「……ありがとう。本当にありがとう。皆がそう思ってくれて、私も嬉しいよ!」


 ミライさんは涙を目に溜めて、太陽のような笑顔で笑う。


「私は――幸せ者だな、ベル君」

「はい、ミライさんっ!」


 心からの歓喜の言葉に、僕の胸もいっぱいになる。頑張った甲斐があって、良かった。


 その日の夕ご飯は、いつもの100倍美味しく感じられた。



 ――――

 ――



 夜。

 オーキー教会さんの個室。


「……むにゃ…………師匠……むにゃ……」

「………………これでよし、っと」


 興奮で疲れたのか、ミライさんはぐっすりと眠りこけてしまった。いつ見ても可愛らしい寝顔だ。

 そんなミライさんに黙って、僕はこっそりベッドを抜け出し、荷造りをしていた。


 僕は、ミライさんの元を去るつもりでいた。

 ミライさんが騎士団に入るという事は、もう冒険者としては一緒に居られないということだ。


 僕のことを気にして、ミライさんが騎士になるのを諦めては困る。ミライさんには、幸せでいて欲しいのだ。


「……ベル君……」

「!!」


 どきっとして振り返る。ミライさんに名前を呼ばれたのだ。


「…………ベル君…………やったな……むにゃ……」


 ――寝言か。

 ホッとした僕は、ミライさんの頭を優しく撫でる。

 よく考えたら僕は幸運値9999999なのだから、ミライさんに気づかれる心配はないのだけど。


「じゃあ、行きますね、ミライさん」


 僕は一人分の荷物を背負うと、静かに部屋の扉を開ける。


「さようなら、ミライさん。……どうか、これからもお幸せに……」


 きっともう、会う事はないだろう。

 僕は書き置きを残して、そっと部屋を出る。



「――どうしたんじゃ、アベル坊。こんな夜に……」


 ちょっと気が緩んでいたせいか、教会さんを出る前に、お師匠さんに出会してしまった。


「あ、はい。ちょっと眠れなくて、散歩でもしようかなって」

「そうか。夜の散歩は危険だと言いたい所じゃが、まあアベル坊なら心配ないじゃろ」


 あまり気にした様子もない。僕のこと、信頼してくれているみたいだ。


「ときにアベル坊よ。一寸尋ねたいんじゃが」

「なんでしょうか?」

「いや、うむ………………その、ワシの勘違いならいいんじゃが……」


 お師匠さんは、躊躇いがちに口を開く。

 かと思えば、もごもごと口籠る。


 ……どうしたんだろう?

 恥ずかしがるような人でもないし――なにか僕が困る事を言おうとしているのかな?



 ……ひょっとして…………バレた・・・



「……やはり、やめておこう」

「え?」

「忘れてくれ……散歩の邪魔をしてすまなんだ、あまり遅くならんようにの」

「はーい」


 お師匠さんが言おうとしていた事は気になるけど……はやく立ち去らないと、ミライさんに見つかってしまうかもしれない。

 僕はそそくさと教会さんを後にした。

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