5-? 処刑記録:ケンジ(男性・享年24・賢者)及びその家族

 閲覧時留意事項:

 本記録の閲覧危険度は20と定められています。非常に刺激の強い内容となっているため、閲覧者の精神衛生を著しく悪化させてしまう危険があります。

 過去に黒魔法等による強い精神ダメージを負った経験のある者、精神防壁の未発達な者、また、未成年に対しても本記録を公開してはいけません。























 日付:魔導世紀 5年12月5日

 罪人:ケンジ(男性・享年24・賢者)及びその家族

 被害者:グシャード(男性・享年45・騎士団隊長)

 罪状:罪人による上級貴族の殺害

 処刑方法:斧による首落とし



 罪状詳細:

 王都の広場近くにある路地の階段下にて、罪人は被害者の落とした剣を拾い、被害者の首の頸動脈を殺傷、死亡せしめました。

 被害者には二人の護衛がついており、事件を目撃、罪人を現行犯拘束しました。

 彼らの目撃証言に加え、罪人本人も罪を認める発言をしており、事件はすぐに解決しました。



 裁判詳細:

 裁判での争点は、罪人の家柄と、罪人が被害者を殺した動機が主でした。

 被害者は騎士団隊長、通常であれば裁判の必要もなく、一族もろとも極刑です。しかし罪人の出自は王都の中流貴族であったため、動機によっては減刑もありうると裁判長は述べました。


 裁判で罪人の述べた動機はおおよそ考慮に値するものではありませんでした。以下に、罪人の証言の全文を掲載します。


『私は夢で見たのです! この男は夢で私を殺した! 私は予知夢が見えるんですよ!!』

『私の仲間達は、皆、私の夢の通りになった! シロマさんも! ブドウンさんも! アソービさんも! クロナさんも!!』

『私は生き残るためにあの男を殺したのです! これは正当防衛なのですよ!?』


 彼のいう『仲間達』とは、元勇者パーティーのメンバーであるとわかりました。彼が名前をあげたうち二名は死亡しており、一名は重症で入院していました。


 論理性のかけらもない彼の証言は、当然ながら却下されました。


 仲間の死で頭がおかしくなったとする意見が大多数を占める一方で、彼の弁護士は違う見解をしました。


『仲間が死ぬ直前に同じ状況の夢をたまたま見た。その偶然が数回、たまたま重なったのかもしれない。天文学的な確率だが、恐ろしく運が悪ければそういうこともある』


 弁護士はケンジが嘘をついていないと主張しました。しかしいずれにせよ、夢の中で起こった暴行に関して、正当防衛が認められることはありませんでした。

 罪人には、家族共々、極刑が言い渡されました。



 処刑詳細:

 罪人とその6人の家族は王都の広場に括り付けられ、処刑人により斧で首を落とされる事になりました。


 彼らは横一列に膝をついて、後ろ手で木の杭に結びつけられました。彼らは縛られながらも、口々に罪人を罵り恨み言をぶつけました。

 しかし、罪人は涼しい顔でした。


『大丈夫。私達はきっと助かる! だって私は、こんな光景ゆめは見ていないから。だから僕達は絶対に生き残るんだ!』


 罪人は繰り返し家族に言い聞かせていましたが、誰一人として、罪人の言葉に耳を貸すものは居ませんでした。


 罪人とその家族の処刑が執行されました。


 罪人の首を落とすためには、数百を超える回数の斧を振り下ろす必要がありました。これは、王都の過去の処刑でも前例の無いことでした。


 以下は、その記録になります。



 日付:魔導世紀 5年11月5日 処刑初日


 執行人の合図とともに斧が振り下ろされ、罪人を除く五つの首が地面に転がりました。罪人を狙った斧は執行人の手汗で滑り、罪人の首の皮をわずかに削り取っただけでした。

 執行人は再び斧を振り上げました。


 しかし何度首を切り落とそうとしても、斧は執行人の手を離れ、床に転がり落ちました。その度に刃先が僅かに罪人の首を掠め、薄皮やそれと同等の厚みの肉を削り取りました。


 斧を別のものに変えても、手に布を巻きつけても、効果はありませんでした。業を煮やした処刑人は短剣をケンジの首に突き立てようとしましたが、突風に眼を襲われて肩や耳を突き刺すだけでした。

 罪人は痛みから、呻き声を上げました。


 気味が悪くなった執行人は、別の執行人に処刑を代わってもらうよう頼みました。しかし誰が処刑を行っても、罪人の首が落ちる事はありませんでした。


 結局、日が傾いても罪人の首は落ちず、処刑は後日に延期される事になりました。罪人は翌朝まで処刑台の上に縛り付けられたままでした。



 日付:魔導世紀 5年11月6日


 この日は、王国一の処刑人と呼ばれた男が、罪人の処刑を担当する事になりました。


 俯く罪人の首筋を狙って、男は正確無比に斧を振り下ろしました。斧はやはり滑り、罪人の首の肉を僅かに撫でました。

 処刑人の男も最初は驚いた様子でしたが、すぐに気を持ち直して落ちた斧を拾いました。そして黙々と、罪人の首目掛けて斧を振り下ろし続けました。

 その度に斧は処刑人の手を離れ、罪人の首を僅かに傷つけて地面に落下しました。


 この奇怪な現象を認識した処刑人は、以下のとおり供述しています。


『確かにおかしな事が起きている。まるで神か悪魔が、この罪人を護っているようだ』

『しかし少しづつではあるが、罪人の肉は抉れ、血も流れ始めた。王国は判決を変える事はできない。この罪人が死ぬまで、続けさせて欲しい』


 この日は夜遅くまで罪人の処刑・・が継続されました。罪人の首の肉は無数の傷で爛れ、罪人は痛みに苦痛の声をあげ続けました。

 肉か泥が血管を塞いだのか出血は多くなかったため、失血死には至りませんでした。



 日付:魔導世紀 5年11月7日


 雨天のため延期。



 日付:魔導世紀 5年11月8日


 2日前と同じ男が処刑を担当しました。

 斧を2回交換しました。


 罪人は一晩中雨に濡れていたため、刃が滑りやすくなっていました。

 罪人の首筋の傷口は膿み、白い骨が見え始めました。



 日付:魔導世紀 5年11月9日


 雨天のため延期。



 日付:魔導世紀 5年11月10日


 罪人の口腔内を確認したところ、無数の虫が飛び込んでいました。野晒しにされた罪人の家族の死体に、虫が卵を産みつけ、それが孵ったのです。

 罪人はやつれていましたが、餓死する事はありませんでした。虫が栄養になったのだろう、と、処刑人の男は語りました。



 日付:魔導世紀 5年11月11日


 首に触れる斧の音が、カンカンという、骨を叩く音に変わりました。

 罪人の男は、苦痛で泣き叫び続けていましたが、その声もやがて止みました。



 日付:魔導世紀 5年11月12日


 昼頃、罪人の死亡が確認されました。

 死亡した次の一撃では、斧は滑らず、首が落下しました。

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