5-2 オーキー教会の子どもたち!そして招かれざる来訪者、グシャード!

 昼過ぎ。

 オーキー教会さん。


「ただいまじゃ、みな!」

「おかえりーセイクリッドおばあちゃん!」

「うわわわわっ」


 お師匠さんにおろされた僕は、教会さんの前の庭で、沢山の子供さんたちに取り囲まれた。男の子に女の子……といっても、明らかに僕より大きい子も数人は居た。


 ご近所の子供さんたち? それとも――


「わー! くまみみ!」

「いたた……ひ、引っ張らないで……」

「ねえねえおばあちゃん、その子はだあれ?」

「かっかっか、今日からココに住むアベルくんじゃ!」


 そういって、子供さんたちに僕を紹介するお師匠さん。

 ……え? ココに住む……!?!?


「師匠おおおおおっ!! 嘘を教えないでくださいいいいいいっ!!」

「うおっ!? もう追いついてきたのか……速くなったのう、ミライよ!」

「お褒めにあずかり恐悦至極!!」


 ミライさんは僕の肩を抱き、ペタペタと全身を確認する。


「ぜえ……ぜえ…………。べ、ベル君……! まだ、なにもされていないかい?」

「……え、ええ……」


 ほっと胸を撫で下ろすミライさん。

『まだ』って――このまま放っておかれたら僕は何をされてたんだろう……?


「あー! ついてないミライお姉ちゃんだ!」

「久しぶり! 金運も男運も悪いミライお姉ちゃん!」

「アッハッハ! 相変わらずだな、その減らず口は!」


 子どもさん達と挨拶を交わすミライさん。

 この子達、ミライさんとも知り合い……?


「あの、ここはお師匠さんの教会さんなんですか? この子達は……?」

「この教会で、師匠が預かっている子どもさ。……ここは孤児院も兼ねているからね!」

「孤児院……」

「私もよく遊んでやったもんさ!」

「そちは遊ばれてただけじゃろうが」

「そ、そうなんですね……」


 心にチクリと影が差す。

 無邪気で明るい子どもさん達は、皆、戦争や事故で両親を失ったか、あるいは捨てられてしまったのだ。

 そう思ってしまうと、いたたまれなかった。


「……そんな顔をするなベル君、この子達にはこの子達の幸せがある。師匠も残念だけどいい人だしな!」

「残念は余計じゃ」


 改めて周りを見渡す。


「くまみみもふもふー!」

「きゃっきゃっ!」


 どの子もみんな笑顔で、教会での生活を心から楽しんでいるようだった。

 ……杞憂だったみたいだ。ミライさんのいう通り、彼等にとってはこの場所が家なのだ。


「しかし師匠、何故ベル君をここに? まあ、どのみち顔は出すつもりでしたが……」

「うむ。まだ宿屋が決まっておらんじゃろうと思ってな。そち達が良ければ、ここに泊まっていくがよかろう」


 にかっと笑うお師匠さん。


「宿代は相場よりうんと負けてやるぞ?」


 あ、一応お金はとるんだ。


「どうするベル君?」

「ありがたいと思いますっ、商店街から少し離れて静かですし、景色もいいですし!」

「では師匠、お邪魔します!」


 僕とミライさんは、お師匠さんに向かってペコリと頭を下げた。


「かっかっか、そうかしこまらんで良い! ――あ。ところで二人とも」

「「なんですか?」」

「ベッドはひとつでいいかの?」

「「……………………」」


 数秒の沈黙が答えになったらしい。

 ……うん。

 今までもひとつのベッドでは寝てたけどさ。

 そんなハッキリ言わなくても。


 お師匠さんはポンポンと手を叩き、口元を綻ばせている。


「さて、ではワシは愛の巣の準備に取り掛かろうかの! そち達もいい子で待って――」

「……おばあちゃん、おばあちゃん…………」


 ひとりの可愛らしい少女さんが、お師匠さんの服の裾を引っ張っていた。どことなく不安そうな顔だ。


「ん? どうしたんじゃヨージョちゃん?」


 お師匠さんにそう尋ねられたヨージョちゃんは、柵の方を指差す。


「……怖い顔のおじちゃん、また来た……」

「……なんじゃと……」


 眉をひそめるお師匠さん。

 ……怖い顔のおじちゃん?


 ヨージョちゃんの指の先を見ると、この場には似つかわしくない、豪勢な身なりの三人組の男が歩いてくるのが見えた。


「ぐーしゃぐしゃぐしゃぐしゃ! いい加減に立ち退きの準備は済んだであるか、老いぼれシスター殿!」


 来客したのは、成金趣味の鎧に、整った髭と大きな顎。下品な笑いの人。


「ぐひっぐひっ!」

「ぐふっぐへへっ!」


 二人のおともの方も、嫌味な笑いを浮かべている。正直、ミライさんやお師匠さんの方が、10倍くらい強そうに見える。


 ……まあ、僕は……この中で、多分一番レベルが低いと思うけど……。


「……フン。しつこいぞグシャード、そちにこの土地を渡す気は永遠に無いわ!」

「ぐしゃしゃ、くたばりぞこないが!」


 睨み合うお師匠さんとグシャードさん。

 子どもさん達は、怖がって教会さんの中に引っ込んでいった。賢明な子達だ。


「ミライさん、この人達はいったい……?」

「…………そんな…………」

「…………ミライさん?」

「ど、どうして…………この男が、ここに…………」


 ……どうしたんだろう?

 この男が現れてからというもの、ミライさんは真っ青な顔で立ち尽くしている。ビッグベアさんと闘ったときだって、ミライさんはここまで怖がってはいなかった。


「ン?? 誰かと思えば騎士試験に落第したミライ殿ではないか! ぐしゃしゃしゃっ! こんな偶然もあるのだなあ!」

「ぐふっぐふっ」

「ぐひっぐひっ」


 やっぱり、ミライさんの事を知っているんだ。

 もしかして、騎士団の関係の人なのかな?


「……………………こ、この教会をどうするつもりなんだ……」


 グシャードさんを睨みつけるミライさん。だが、いつもの覇気はない。

 ……心配だ。


「どうもさせん! ミライ、そちは教会の中に下がっておれ!」

「し、しかし――」

「……アベル坊。ミライを頼めるかの」

「は、はい……行きますよミライさん」


 僕はおろおろとするミライさんの手を引いて、教会さんの中へ入っていった。



 お師匠さんとグシャードさんはしばらくの間言い争っていたが、やがてグシャードさん達は去り、お師匠さんは怒り心頭といった様子で戻ってきた。


「くそっ、グシャードめ! 勝手な事をぬかしおって!!」

「……し、師匠っ!」


 ミライさんはお師匠さんのもとに駆け寄る。

 お師匠さんは、目を逸らして肩を落とす。


「……もはや隠してはおけんか。そうじゃ。この教会はあの男によって取り潰されようとしておるのじゃ」

「ええええっ!?」


 衝撃の展開に、僕は驚き飛び上がる。


「な、なんでそんな酷いこと……!?」

「…………すまない。多分、私のせいで……」

「えっ」


 沈んだ声のミライさん。どうしてミライさんのせいでこの教会が狙われるんだろう……?


「ミライ、そちのせいではない」

「しかしグシャードは、私の事を恨んでいる! こんな平穏な場所にある教会を壊そうとする理由なんて、他に無いではないか!!」

「………………」


 取り乱すミライさん。

 お師匠さんは何も答えない。


「何故、何故教えてくださらなかったんです!! そうすれば、私も――!!」

「…………ミライ、そちは少し部屋で待っておれ。ワシも考えを整理する時間が欲しい」

「…………わかりました」


 先程までとはうって変わった、重苦しい空気が立ち込めていた。僕はミライさんを宥めながら、一度部屋に戻る事にした。

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