5-1 オーキー街に到着! ミライの師匠、セイクリッド登場!?
お昼過ぎ。
オーキー街。
冒険者ギルドさん。
「ほんとうに助かりました、冒険者様方」
「いえいえ! 僕達も楽しかったですっ!」
「アッハッハ! またいつでも頼ってくれたまえ!」
アルマーチ街を旅立って2日後。
僕達は、大きな事故なども起こらず、無事に目的地に到着する事ができた。予定よりも早く到着できたため、僕達は多めの報酬を受け取ってしまった。
パーティーを組んではじめての護衛クエストは、大成功だ。
「ええ、貴方達のようなパーティーなら、是非またお願いしたいです。ありがとうございました」
「はい、お気をつけて!」
僕はミライさんと二人、お礼を言う商人さんを見送った。僕達の事、気に入ってもらえたみたいで嬉しいな。
「じゃあミライさん。ご飯もさっきいただきましたし、この街のクエストも見てみましょうか!」
「待て待て待て」
掲示板の方に向かう僕の首根っこを、ミライさんは『むんず』と掴む。
「ふきゅっ!? な、なんですか?」
「先ずは宿探し、それに、お風呂だろう。馬車でゆっくりさせてもらったとはいえ、疲労が溜まっているはずだからね」
「あっ、そうですね!」
ミライさんの提案に、僕はコクコクと頷く。どうやら先走ってしまったようだ。
宿屋さん選びは重要だ。疲れも取れるし、冒険の拠点にもなる。ただ、いい宿屋さんほど人気が高く、埋まってしまっている事が多い。
「今日はクエストを受けるのは止めにして、ゆっくり休憩しようじゃないか」
「わかりました!」
「いいお返事だ」
ミライさんにぽんぽんと頭を撫でられる。
子ども扱いされてるのはわかるけど、悔しさより気持ち良さが勝ってしまう。
僕とミライさんは、宿屋さんを求めて商店街の雑踏を歩き始めた。
「……変わっていないな、この街は……」
立ち並ぶ店を見比べ、また家の屋根を見上げて、感慨深く呟くミライさん。
「もしかしてご実家ですか?」
「いや、私のちょっとした知り合いがここに住んでいてね。色々と世話になっていたのさ」
ふうっ。と、細長い息を吐き出すミライさん。
「そう、あれは11年前。よく覚えている、雪の降る寒い日だった。誕生日のお祝いにと両親に連れられてこの街を訪れた私は、とある運命的な出会いを――」
「捕まえてェエええええええッ!! 盗っ人よオォおおおッ!!」
「「!!」」
長くなりそうな回想シーンをぶった切って、女の人の悲鳴が雑踏に轟いた。
振り返れば地面に膝をついたおばあさんと、周りの人達を突き飛ばしながらこちらに向かってくる男の人。
男の手には女物のバッグ。
ひったくりさんだ。
「と、止まって! 止まってくださいいっ!」
「ベル君下がって! ここは私が!」
若干目を輝かせながら前に出るミライさん。こういうシチュエーション大好きなんだろうな……知ってたけど。
「ケチな盗人よ! 神妙にしないと、この剣の錆にしてしまうぞ!」
腰の剣に手をかけ、大声でひったくりさんを威圧するミライさん。かっこいい。
しかしひったくりさんはミライさんに気がついても、足を止める素振りを見せない。懐から短剣を取り出し、無我夢中で振り回す。
「あっちいけオラァアアアアアぁあああああああ!!!!!」
「……やむをえまい。少々痛い目を見るぞ」
修行用の木刀を上段に構えるミライさん。
これくらいの相手なら、ミライさんの敵じゃないだろう。
だが、僕とミライさんの思惑は脆くも崩れ去った。ひったくりさんがミライさんの間合いに入ろうとした、まさにそのとき――
「セイクリッドキィィイイイイック!!!」
「ぐへえっ!?」
ドゴォオオオオオオッ!!
ミライさんが剣を振り下ろすより先に、ひったくりさんは、5メートルほど脇に吹っ飛んで壁に激突した。幸いな事に、怪我人はいないようだ。
何が起こったかわからず立ち尽くしている僕の正面から、女の子の声が聞こえた。
「フン、口ほどにも無いヤツなのじゃ。ペッ!!」
ミライさんの足元に、小さな女の子が立っている。ちまっこい……僕と同じくらいの身長じゃないだろうか。
青い修道服に金髪――ちびっ子のシスターさんだ。
この子が、あのひったくりさんを蹴っ飛ばしたのだろうか……? とてもそうは見えないけど……。
そのちびっ子シスターさんはツカツカとひったくりさんに近づくと、落ちていたバッグを拾いあげ、金貨を10枚ほど抜き取りポケットに入れていた。
「あの子……すごいパワーですね、ミライさん……」
小さな声でミライさんに耳打ちする。
ミライさんは目の前の少女さんの方を見てから、口をあんぐりと開き硬直していた。
「しっ、しし――」
「…………し?」
「――師匠ぉおおおおおおおおっ!!!」
ミライさんはちびっ子シスターさんに駆け寄り、膝をついた。
「む? ――おおお、なんじゃミライか!! かっかっか! 立派になったのう!」
ミライさんに気が付き、ぱあっと顔を綻ばせるちびっ子シスターさん。
「――って、ミライさんのお師匠さん!?!? その小さい子が!?!?」
「言うに事欠いて小さい子とは失礼な!! そちも似たようなものではないか!?」
ぷんぷんと頬を膨らませるお師匠さん。
「ワシは聖女セイクリッド。オーキー教会でシスターをやっておるものじゃ」
――――
――
その後、僕はミライさんとお師匠さんから、二人の関係についてみっちりと教えてもらった。お師匠さんはミライさんの才能を見抜き、剣技を教えていたのだという。
どう見ても僕と同い年くらいのお師匠さんは、実際は40を超えているらしい。なんでも、エルフさんの血が入っているとか。
そんな話をしているうちに、ひったくりをされた女の方が追いついてきた。お師匠さんは、持っていたバッグをサッと女性に差し出す。
「本当に、本当にありがとうございます……!」
「かーっかっかっか! なに、礼には及ばん、当然の事をしたまでじゃ!」
高らかに笑うお師匠さん。ミライさんの性格はこの方の影響が大きいのかも知れないな。
そんな事を考えていると、当のミライさんはお師匠さんの肩にポンと手を置いた。
「師匠」
「な、なんじゃ?」
「……ポケットに入れた硬貨も、ちゃんと返しましょうね?」
「――――うぐっ。」
ちょろまかした金貨を、渋々と返すお師匠さん。女の人は少し呆気にとられていたが、最終的にはお礼を言って去っていった。
ミライさんは眉間を指で摘み、特大の溜息をつく。
「師匠は強くて立派な方なのに……どうしてこう昔から……残念なんですか……?」
昔からネコババしてるんだ……聖職者なのに……。
「そちもそちじゃろ。ワシは悲しいぞ、ミライ! こんな未成年の男児に手を出すなど――」
「僕は13歳ですし、まだ手は出されていませんっ!」
「なんじゃ成人しておったのか! かっかっかっ、人は見かけによらんのうー!」
それをこの人が言っていいんだろうか……?
「からかわないでください、師匠! ベル君が困っているじゃありませんか!」
「なんじゃなんじゃ、まんざらでもなさそうじゃがの? こんなプリティーボーイ、どこでひっかけたんじゃ?」
うりゅっ。うりゅっ。
お師匠さんは肘の先で、赤くなった僕の頬っぺたをぐりぐりといじめる。ミライさんは仕方なく、僕達が出会ってからこの街に来るまでの経緯を話した。
お師匠さんは、うんうんと頷きながら、時に眉を絞め、時に頬を緩ませていた。
「……そちも苦労したんじゃのう……」
ポンポンと僕の熊耳を撫でるお師匠さん。不思議と心が暖かくなる。こういうとこは、ミライさんに似てるなあ。
「そしてミライ、そちの不幸体質も相変わらずなんじゃのう……」
「アッハッハ! ベル君が居なければ今頃野垂れ死んでいましたよ!」
「かっかっか! まったくその通りじゃの!」
「「…………はぁ」」
二人仲良く溜息を溢すと、お師匠さんは僕の方に向き直る。
「――アベル坊や」
「は、はいっ」
「ワシの弟子を護ってくれて、ありがたく思う。礼をせねばならんの」
――ひょいっ。
僕の身体が宙に浮かび上がった。
いや、お師匠さんに片手で持ち上げられた……!?
「ちょ、師匠!? ベル君を何処へ連れて行く気ですかっ!?」
「かっかっか、なにをいうておる! シスターが向かう先などひとつに決まっておろうが!」
にんまりと笑みを浮かべると、ものすごい勢いで走り出すお師匠さん。負けじとミライさんも追いかける。
「み、ミライさぁああんっ!!」
「待っ、ベル君んんんんんっ!!」
「かーっかっか! 久々に追いかけっこじゃ、ミライ!」
3人の声が、真昼の商店街に響き渡った。
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