幸運値9999999は最強のチートステータス!? 勇者パーティーを追放された僕ですが、復讐なんかしなくてもシアワセになっちゃいます!
4-4 謝るときは相手の目を見なさい、人の陰口を言うのはやめなさい、実家の家族とはこまめに連絡をとりなさい。
4-4 謝るときは相手の目を見なさい、人の陰口を言うのはやめなさい、実家の家族とはこまめに連絡をとりなさい。
◆勇者パーティー◆
夜。
アルマーチ街。
「ゆ、赦さない……赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない……!」
足早に裏路地を進む女黒魔道士クロナ。その後を追いかける、男賢者ケンジ。
黒熊の獣人少年アベルに因縁をつけ、女騎士見習いのミライに追い返された二人は、その後もアルマーチ街を徘徊していた。
目的があるわけではない。
しかし、このまま手ぶらでは帰るわけにもいかない。
「絶対にアイツよ、全部アベルがやってるのよ……アイツ、アタシの顔見て一瞬、笑ったもの……間違いないわよ……見間違いじゃない……そうよ、きっとそうよ……」
ブツブツと呪詛を唱えるように怒りを吐き出すクロナ。眼は血走り、唇からは血が滲んでいる。頭の血管は今にもキレそうだ。
アベルを仲間に戻そうという考えは、とっくに無くなっていた。
「アイツがアタシ達の運を吸い取ってるのよ……!! じゃないと説明がつかないじゃない!? だってそうじゃないとおかしいじゃない!!」
クロナは、被害妄想じみた言いががりをつけながら、裏路地をジグザグに歩く。
『一連の事件はアベルのせいである』というのが、もはや彼女の中で変えようのない結論になっていた。
「いや、死にたくない……アタシ死にたくない!! アベルに殺される!! どうすればいいのよ!?」
ヒステリックに叫び、ふと顔を上げると――数十メートル程先に、宿屋があった。
朝、アベル達と揉めた、あの宿屋だ。
「あ………………。」
裏路地を滅茶苦茶に歩き回っているうちに、元の場所に戻ってきてしまったのだ。
「そうよ………………殺される前に…………ころせばいいのよ…………」
ふふっと妖しく笑うクロナ。その瞳には、狂気が宿っていた。
「殺す!! 殺す殺す殺す殺す殺す!! アイツを! ブッ殺してやる!!」
宿屋の窓を睨みつけるクロナ。
クロナ達は、アベル達が借りた部屋を知っていた。
クロナは、立ち去るときに確認したのだ。
宿屋の部屋に戻っていく彼等の姿を。
そしてたまたま、他の冒険者の話を聞いたのだ。
あの二人は、数日前からずっと同じ宿屋の部屋を利用していると。
「その話が本当なら……アベル達は今夜も、あの部屋に泊まっているはず……」
クロナは茂みに隠れ、目を凝らして部屋の様子を伺う。
淡いランプの灯の中、人影が動いていた。
大きいものと小さいもの、二人分。
小さい影の頭の上には、熊耳が見える。
大きい影は、長いサイドテールだ。
「あの二人だ…………焼き殺してやる……焼き殺してやる……」
杖を構え、得意の炎魔法を詠唱しようとするクロナ。
しかし――
「いけません!!!」
バシイッ!!!
クロナの杖が、ケンジの張り手で叩き落とされた。
「は!? な、なにするのよケンジ!? アイツを庇う気!!?」
「いいえ。そんなつもりは毛頭ございません」
「じゃあなんで邪魔するのよ!?!?」
「……やれやれ。仕方ありませんね」
するとケンジは息を大きく吸い、キラリと月に眼鏡を輝かせる。
「……今こそお教えしましょう。予言者として覚醒した、この私の真の能力を……!!」
「は?」
そしてケンジは、これまでのいきさつを語り始めた。
シロマ、ブドウンが死に、アソービがおかしくなる前。ケンジは、彼等の死に様と良く似た夢を見た事。
そして最近は、クロナが焼け死ぬ夢を見ている事。
「私に未来を見通す力があることは確定的に明らかでしょう。そしてこれが予知夢だとしたら――クロナさん。貴女はアベルを炎魔法で攻撃したときに自爆してしまう可能性があります」
「アタシはSランクの黒魔道士よ? そんなヘマするわけ」
「シャラップ!! 貴女がSランクの黒魔道士なら、このケンジはSSSランクの予言者です!!」
「え、調子乗ってる?」
クロナの頬を冷や汗が流れ落ちる。
ケンジの態度に、若干でなくヒいているのだ。
「いいですか。炎魔法ではなく、風魔法を使ってください」
「ば、馬鹿にしてるの? 予言者ってアンタ、アベルみたいな事を――」
「彼はインチキです。今なら理解できる。私こそが真の予言者なのですよ!!」
ずいっ! とクロナに詰め寄るケンジ。
「私の言うことは絶対です!! 死にたくなければ言う通りになさい、いいですね!?」
「わ、わかったわよ……」
クロナはケンジの剣幕に押されて、言い返すのを諦めた。クロナも炎魔法が得意というだけで、風魔法でもアベルを殺害する自信はあった。
「ククク……アベル、君を始末し平和になったら、私はこの力で――世界を掴むのです!!!」
ちょっとヤバい感じのケンジを無視して、クロナは部屋の中の二人に狙いを定める。
(油断はしない……一瞬で仕留めてやる……!!)
深呼吸をし、Sランクの風魔法スキルを唱える。
「引き裂け――絶望の風よ――躍り狂えーー刃の嵐よ――――『インフィニティ・エア・ブレイド』!!」
シュゴォォオオオオオ!!!
宿屋の一室に、赤い旋風が吹き荒れる。
『インフィニティ・エア・ブレイド』は、その名の表す通り、無数の風の刃で斬りつける魔法だ。人間なら数秒でバラバラになる。
威力を調整せずに撃てば宿屋ごと吹き飛ばされていたが、無関係の者を巻き込むのは、流石にクロナも自重したようだ。
シュォオオオオオオオオッ――!!
ターゲットの絶叫や肉を斬る音は、風の渦にのまれて外までは響かない。他の宿泊客が気付く事もない。
(派手に火を燃やすより、結果的にはよかったわね……ケンジのアホに感謝だわ)
シュゥゥゥゥ――――…………。
やがて嵐は収まり、静寂が訪れる。
部屋の中に生物の気配はない。
夜風に、血の匂いが混じる。
――暗殺完了だ。
「……アハハハハはははは!! ザマアミロざまあみろザマアミロざまあみろ!!! 勝った!! 私達は勝ったんだああっ!!!」
「おめでとうございます」
ガッツポーズを決め雄叫びを上げるクロナと、健闘を称え拍手をするケンジ。
下衆二人は、暫くの間、勝利の余韻に酔いしれた。
「――――――ふう。念の為、死体を確認しておきましょ。アイツ、幸運99999999?だし」
「ええ。幸運値など、やはり無意味なステータスだと世界に証明してあげましょう」
クロナ達は意気揚々と窓際に近づくと、部屋の中を覗き込んだ。
「うわ、キョーレツ……」
部屋の中はおびただしい血痕が飛び散り、真っ赤に濡れている。
そしてその至る所に、大きな赤い肉の塊が転がっていた。この部屋の客人だ。ズタズタに刻まれて死んでいる。
「大丈夫よ、間違いなく死んでるわ。アベルのやつ――――――――えっ――――………………???」
部屋の中央に落ちていたものを見て、言葉を詰まらせるクロナ。血溜まりの床に転がった二つの生首が、血涙を流して、クロナとケンジを見上げていた。
だがクロナが声を失ったのは、その光景にショックを受けたからではない。
「………………だ、誰ですか、これ…………??」
唖然とするケンジ。
小さな方の首は、髪を二つの団子に束ねている少女だ。アベルのものではない。
そして、サイドテールの女性。年齢は30後半から40前半といったところか。今朝話した女性は、もっと若かった筈だ。
「馬鹿な、身代わりの術!? あ、アベル君はどこに……!?」
キョロキョロと部屋の中を見渡すケンジ。
対して、クロナはただ、呆然と呟く。
「…………………………お母さん……クロミ………………? え? なに、これ……………………??」
「クロナさん………………?」
「……こ、こんなところに居るはずない…………だってお母さんとクロミはオーキー街のお店に…………だからこんなところに居るはずない…………はずない…………」
苦痛に歪む犠牲者の首に、クロナはよく見覚えがあった。オーキー街で商店を営んでいるクロナの母親と、妹のクロミ。
「お店……? ああ、商品の仕入れに来ていたのではないですか? オーキー街とこのアルマーチ街は商流が盛んですから」
「わたしが、私が、おかあさんとくろみを殺した………………?? う……そ…………うそうそうそうそうそうそ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘うそうそうそ…………違う……あ、う、アタシ……そんなそんなつもりじゃ……」
無神経なケンジの言葉に、クロナは膝から崩れ落ちる。誤って自分の肉親を殺してしまったという事実が、鉛のように彼女にのしかかる。
「……ブツブツブツブツ…………」
「アベル君達はたまたま今日、宿を引き払ったということですか……なんて幸運な……」
「……ブツブツブツブツ…………」
「なんですかクロナさん。さっきからぶつぶつと――?」
――――ゴウウッ!!!
クロナの身体が、勢いよく燃え上がった。
罪の意識に耐えきれず、自ら火を放ったのだ。
「ひっ――ひぃいいいいいいいいいい!?」
ケンジの脳裏に、夢で見た光景がフラッシュバックする。
ケンジは、そこから一目散に逃げ出した。
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