4-2 かつての仲間との再開! そしてミライの怒り!?

 ◆勇者パーティー◆



 アルマーチ街。

 早朝。

 宿屋の扉前。


「……どうなってるのよ……シロマ、ブドウン……それにアソービまで……」


 女黒魔道士クロナは、ガタガタと震えながら、何度も同じ事を呟いていた。その横では、男賢者ケンジが彼女を慰めている。勇者ユーシアの姿は無い。

 クロナとケンジは、ふらりと出て行った遊び人アソービを探しに来ていた。アソービのコミュ力は、脳味噌が下半身にある女に対して並外れている。故に、パーティーに連れ戻そうとしたのだ。

 しかしアソービの居る街は分からず、ユーシアとは二手に分かれて探す事になった。


「……ユーシアに……な、なんて言えばいいのよ……」

「……ありのまま伝えるしか、無いでしょうね……」

「でっ、できるわけないでしょ!? ならアンタが伝えなさいよ!?」

「…………。」


 遊び人アソービは、アルマーチ街のギルドで働いて居る所を目撃した。ゴミ処理や掃除といった、およそアソービのイメージとは結びつかない姿に最初は他人の空似かと思ったが、


『ケンジ様、クロナ様。お久しぶりでございます』


 ――と声をかけられて、本人と判明したのだ。


『私は心を入れ替え、善人として社会に奉仕する事にしたのです』


 そう言って柔和に微笑むアソービを不審に思ったケンジが、洗脳魔法でも掛けられているのではないかと、解析スキルでステータスを確認した。



 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪


 アあああがぶがぶくまくま熊


 種族 おにく

 享年 3さいくらい?

 レベル たすけてたすけてて

 状態 死にたくない死にたくない死にたくない


 耐久 0000 0

 まほう わすれちゃ??た

 攻げき 0

 防御 いたいいたいたすけて

 しゅんそく 逃がさない

 こううん かわいそう


 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪



 目の前に立つアソービが、人間ではない『なにかおぞましいもの』に変えられてしまったと察した二人は、猛ダッシュでその場を離れた。

 街で冒険者に聞いた話では、防犯用の熊の置物に吠えられてからああなったらしい。皆、彼の変化を喜んでいるそうだ。

 その日は夜も遅かったので宿屋に泊まったが、クロナは一睡もできなかった。


「や、やっぱりアベルの呪いなのよ……! アイツの幸運値は、出まかせじゃなかった……だってそうじゃない!? 森でアイツを捨ててから、なにもかもおかしくなった!!」

「…………。」


 ケンジは答えない。

 以前のケンジであれば、非論理的と一蹴していただろう。しかし彼もまた内心で、『そういったものの存在』を認めつつあった。


『予知夢』だ。


 ケンジは、女白魔導シロマが溶ける夢を見た。

 その日の夜、シロマは『純血病』で全身が溶けて死んだ。


 武闘家のブドウンが窓から引きずり落とされる夢を見た。

 数日後、ブドウンは窓から転倒し窒息死した。


 遊び人アソービはケンジの夢の中で、ビッグベアに頭から喰い殺され、脳味噌を啜られた。

 アソービは喰い殺されていなかったが、熊の置物に吠えられてから別人になってしまった。


(そして、次は――――)


 ケンジは今、別の悪夢にうなされている。

 自分の真横にいる黒魔道士の少女クロナ。


 クロナが炎に巻かれ、炭のように黒焦げになって焼け死ぬ夢だ。


(本人に『あなた焼け死にますよ』言うわけにもいかない……せめて火元に近づけさせないよう、気をつけねば……)


 ケンジはそれほど仲間を思いやるタイプではない。しかし、つい考えてしまうのだ。

 少し前まで7人居た勇者パーティーが、今は3人。


 クロナが死んでしまったら、次は誰の番・・・・・なのだろうかと。


「な、なにぼんやりしてるのよ!? ちゃんとアタシの話、聞いてるの!?」


 ケンジは、ガッと胸ぐらを掴まれる。


「…………すみません考え事を……」


 平謝りするケンジ。

 しかし、クロナはケンジの事を見てはいなかった。ケンジの向こう側、宿屋の裏を凝視し、金魚のように口をパクパクとさせている。


「あ……あ…………あああ…………」


 そしてケンジは、彼女の口から信じられない名前を聞いた。


「アベル…………!?」



 ――――

 ――



「お、お久しぶりです……ケンジさん、それに、クロナさん……」


 ビクビクオドオドと震え、ミライの影に隠れようとするアベル。まるで、初めてミライに会った頃のかれのようだ。

 見習い女騎士のミライは、すっと前に出る。


「私の名は見習い騎士ミライ。いずれこの王国一の騎士になるため、ベル君とふたり修行の旅をしている者だ。私は18年前、マズシー村の農家の家で生まれた。幼き頃に母上を不幸で無くし――」

「アベル、た、助けて! 助けてアベル!!」


 ミライの自己紹介は、いつものように無視された。女黒魔道士クロナはアベルの足元に縋り付くと、堰を切ったように喚き始める。


「ごめんなさい、ごめんなさい!! アタシ達が悪かったの!! お願いします許してくださいなんでもしますから!!」

「え? え?? え???」

「死にたくない!! アタシまだ死にたくないよお!!!」

「少し落ちつきたまえ! ベル君が戸惑っているだろう!」


 ミライは狂乱するクロナの肩を掴んで引き離す。クロナは、顔を押さえて啜り泣き始めた。


「あの、ケンジさん。何かあったんですか……?」

「率直に言いましょう、アベルさん。私達のパーティーに戻って来てください」


 賢者ケンジは、慇懃無礼に頭を下げる。


「やはり思い直したのです。貴方の力は、我々にとってなくてはならないものだったと」

「え……また荷物買いすぎたんですか…………?」

「いや荷物持ちとしてではなく」


 コホン。と咳払いをするケンジ。

 ただ呆気に取られた表情のアベルの横で、ミライは怒りを滲ませていた。


「随分と勝手じゃあないか。キミ達はベル君を森で切り捨てたのだろう? それを今更連れ戻したいなどと……!」

「だってしょうがないじゃない!! アベルが居なきゃアタシ達、死んじゃうのよ!?」


 ヒステリックに泣き叫ぶクロナ。

 クロナの態度に、ミライは首を傾げる。


(ベル君の有能さは私も認めてはいるが……『居なければ死ぬ』と言う程だろうか……? 確かにベル君無しの生活などもう考えられないが……)


「あ、アンタが居なくなってから! 死んでるのよ!! 仲間が! 次々に!!」

「………………えっ…………」

「シロマはドロドロに溶けて死んだ!! ブドウンは窒息して苦しんで死んだの!!」

「そ、そんな……シロマさんとブドウンさんが……!?」


 クロナの言葉に、アベルは蒼ざめる。

 この二人の戦闘力はかなりのものだ。簡単に死ぬような冒険者ではない。


「それにアソービも!! 別人みたいに真面目になって!!」

「…………………………それはいい事なんじゃ………………???」

「ちっともよくないわよっ!!!」


 クロナは鬼の剣幕でアベルを睨みつけると、指を突きつけて糾弾する。


「ぜ、全部アンタが殺ったんでしょ!? アタシ達なんか死ねばいいと思ってるんでしょ!? だからその通りになったんでしょ!?」

「ぼ、僕は、そんなこと……」

「じゃあ赦してよ!! 助けてよ!!? そのための幸運値なんでしょ!?」


「――――いい加減にしたまえ!!」


 パシン!!


 と、乾いた音が鳴り響く。

 ミライが、クロナの頬に平手打ちを見舞ったのだ。クロナは吹っ飛んで地面に倒れ込む。


「さっきから聞いていれば、なんなんだキミ達は!! 自分達がした事を微塵も反省せず、ベル君にそちらの都合ばかり押しつけて!!」

「な、なんでよ……アタシ、謝ってるじゃない!? ちゃんと謝ってるじゃない……!?」

「キミは心からベル君に悪い事をしたと思って、謝罪をしているわけではない!! キミ達に追放されたベル君が、どんな思いをしたかわかっているのか!?」


 アベルは動けなかった。

 女騎士見習いのミライのここまで怒った表情を見たのは、アベルにとって初めてだった。


「帰って頭を冷やしたまえ!!」

「――い、いや……死にたくない……!!」

「それくらいで死ぬわけがないだろう!! まともに謝る気がないのなら帰りたまえ!!」


 ミライに凄まれて、ケンジとクロナは逃げるように去っていった。

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