3-? アイテム図鑑:No.666_スクラッチ・ベア
特記事項:
現在、本アイテムはこの世界から失われています。万が一発見した場合は直ちに王国警備隊に早馬を飛ばし、異世界転移処理を申請してください。
本アイテムを意図的に作成しようとする試みや、本アイテムはの模造品を作成する事は、国家法にて禁止されています。違反者には終身刑もしくは極刑が定められています。
アイテム概要:
本アイテムは、全長15センチ程度の木彫りのビッグベア像です。
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本アイテムはアルマーチ街にあるアルマーチギルドのクエストにて、冒険者によって製造されました。(本クエストの記録は紛失してしまったらしく、受注した冒険者の名前は確認できませんでした。)
本アイテムは、ごく一般的な『汎用防犯置物』を製造する過程で偶然生み出されたもので、『汎用防犯置物』の上位互換と思われていました。
クエストの結果にアルマーチギルドは大変満足し、依頼達成者に10倍の額の報酬を支払い、本アイテムを受付デスクに配置していました。
本アイテムと『汎用防犯置物』が異なっている点は、以下の鑑定結果を参照ください。
鑑定結果―1:
アイテム名:汎用防犯置物
ランク:Cランク
効果:強い悪意を感じると叫びをあげる
鑑定結果―2:
アイテム名:超性能防犯置物
ランク:SSSランク
効果:悪意を感じると叫びをあげる
追加効果:叫びによって悪の心を削り取り、悪人を善人に変える
使用記録―1:
被験者:アソービ(男性・遊び人)
アルマーチギルドの受付係の女性と会話中に、本アイテムの叫びに曝露しました。会話の内容が侮辱的で不誠実だったため、本アイテムが悪人と認識したものと思われます。
叫びは受付係の女性や周囲の冒険者にも聞こえていましたが、失神したのはアソービのみでした。
曝露による失神から目覚めたアソービは別人のように更生し、これまでの非礼を受付係の女性に詫びだそうです。
今はアルマーチギルドの雑用や、人のやりたがらない仕事を、それも無償でこなしているとのことです。
彼の仕事は非常にハイレベルで、また、昼も夜も休む事は無いそうです。
使用記録―2:
被験者:クソザーコ(男性・盗賊)
アルマーチギルドに押し入って暴れていたところ、本アイテムの叫びに曝露しました。防犯アイテムの役目を正しく果たしたと言えます。
クソザーコは失神から覚めると、自分が暴れて壊した机や椅子を修繕したそうです。修繕された机や椅子は元の状態よりも頑丈になっていたそうです。
彼はその後、今まで盗んだ物を元の場所に返して回っているようです。
使用記録―3:
被験者:クイニーゲ(男性・剣士)
アルマーチギルド内にある料理店で料理が不味いと難癖をつけ、代金を払わずに退店しようとしたところ、本アイテムの叫びに曝露しました。
今の彼は優秀な街の掃除屋です。調子はどうかと尋ねると、にこやかに挨拶を返してくれました。
この頃から本アイテムは、『アルマーチギルドの守り神』と噂されるようになったそうです。
使用記録―4:
被験者:デレーヌ監獄に収容されている複数の死刑囚
噂を聞きつけたデレーヌ監獄の看守長が、本アイテムを通常の1000倍の額で購入しました。アルマーチギルドが取引に応じたのは、アソービを警備担当に任命したためです。
監獄に収容されている死刑囚数名に本アイテムの効果を試したところ、罪を悔い労働に励む模範囚となりました。
彼らは口々に『私達は生まれ変わった』と嬉しそうに言ったそうです。
また、このとき居眠りをしていた看守がひとり叫びに巻き込まれ曝露したようです。仕事をサボらない働き者になったと、彼の同僚は喜んでいました。
使用記録―5:
被験者:クソガッキー(男性・少年)
育児に悩むデレーヌ監獄の女性職員が、更生させたいと連れてきた、未成年の少年です。
ワガママが治らず、親に暴力を振るうような少年だったそうです。叫びに曝露させたところ、親の言いつけを守る善良な少年になりました。
使用記録―6:
被験者:ドクマーザ(女性・監獄職員)
使用記録―5とは異なるデレーヌ監獄の女性職員が、頭を良くしたいと6歳の息子を連れてきたところ、自身が叫びに曝露しました。
彼女は息子に行き過ぎた躾をする事で有名でしたが、失神から目覚めてからは、息子を思い遣る態度が見られました。
ドクマーザは『この人はお母さんじゃない!』と泣き叫ぶ息子を宥めながら、彼の手を引いて退出しました。
使用記録―7:
被験者:ゴソーチュ(男性・違法奴隷商人)
デレーヌ監獄への護送中の馬車の中で、突如、耳を塞ぎ、泡を吹いて失神しました。起き上がった彼は過去の過ちを涙ながらに悔い、大人しく刑に服すと語ったそうです。
本アイテムを保管している倉庫の鍵番に確認したところ、本アイテムの叫びを聞いたと証言しました。
この使用記録―7の事例から、本アイテムの効果範囲は限定的な空間ではなく、非常に広域に渡って及ぼされる事があると判明しました。
さらに本アイテムは、悪人が接近していなくとも叫び出す事があり、効果の発動を完璧に制御できるわけではないという事もわかりました。
閲覧時留意事項:
これより先の閲覧危険度は20と定められています。非常に刺激の強い内容となっているため、閲覧者の精神衛生を著しく悪化させてしまう危険があります。
過去に黒魔法等による強い精神ダメ―ジを負った経験のある者、精神防壁の未発達な者、また、未成年に対しても本記録を公開してはいけません。
使用記録―8:
被験者:コローシャ(男性・死刑囚)
本アイテムによって善化した被験者の多くが、以前よりも思考や態度が穏やかになったのみならず、社会奉仕時に非常に高パフォーマンスを発揮していました。
その事実から『本アイテムは悪人を改心させるだけでなく、同時にステータスの向上も期待できるのでは?』と期待されました。
この事実を確認するべく、死刑囚のひとりに本アイテムを使用し、ステータスの変化を確かめる実験が行われました。
被験者として選ばれたのは、貴族5人を殺害したコロ―シャという男でした。以下は、アイテム使用前の彼のステータスです。
―≪―≪―≪―≪―≪―≪
コローシャ
種族 人間
年齢 57
レベル 31
状態 普通
耐久 400
魔力 15
攻撃 930
防御 120
俊敏 680
幸運 55
―≪―≪―≪―≪―≪―≪
本アイテムに接触させたところ、やはり本アイテムは叫び声をあげ、彼は失神しました。
曝露後の彼のステータスを鑑定用水晶にて確認したところ、ステータスは向上しているどころか、明らかな異常値を示していました。
実験は失敗しました。
以下は、叫びに曝露した後の彼のステータスです。
―≪―≪―≪―≪―≪―≪
コロくまくまくシャ
種族 おにく
享年 57
レベル なくなった
状態 死んじゃった
たいきゅう いたいぃ
魔力 0000000
攻げき 0
防ぎょ がお―
俊敏 たすけて
幸 たすけけててたすけ て
―≪―≪―≪―≪―≪―≪
大至急、医師連盟の研究者が収集され、調査が行われました。解剖調査の結果、被験者の脳の複数箇所に、やすりで削りとられたような痕跡が見つかりました。
すぐに国家最高機関により、本アイテムの使用は禁止と定められました。本アイテムの複製生産計画や、教育機関での活用計画も白紙に戻されました。
その後の経緯:
使用記録―7で明らかになった本アイテムの特性から、世界中のどこにいようと、『悪人』と判断されれば誰でも脳を削り取られる可能性があります。
さらに『悪人』かどうかの基準は曖昧で、どうやら本アイテムの主観によって決められているようだとわかりました。
本アイテムをこのまま放置するのは非常に危険とされ、本アイテムの破壊もしくは完全な封印が要請されました。
しかし、本アイテムを破壊する試みは、すべて失敗に終わりました。あらゆる上級魔法攻撃、上級物理攻撃を行使しましたが、本アイテムには傷ひとつ、焦げ跡ひとつ、付ける事ができませんでした。
また、本アイテム自体の封印は成功したのですが、『叫び』の効果はあらゆる魔法障壁や封印を貫通する事がわかったため、封印は無意味と結論付けられました。
最終手段として、国家最高機関の魔導師達により転移魔法の陣が組まれ、本アイテムは異世界へと転移処理されました。
※本アイテムの最終処理に関しては、事実関係を知る多くの者から反対意見が提示されました。
その殆どは『この素晴らしいアイテムを手放す必要は無い。もっともっと悪人の脳を削りとってしまえばいい。そうして世界をより良いものに導くべきだ』といったものでした。
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