3-4 大熊と小熊!? ビッグベアとの激闘、そしてアイテム作り!

 サケーブノ森。

 僕とミライさんは、クエストのためにサケーブの木を探していた。木を見つけたまではよかったけど、そこにはビッグベアさんが待ち構えていた!


 ――グルルルル……!!


「大きくて血の毛も多そうだ。同じ熊でも、ベル君とはえらい違いだな……」

「……どうせ僕は小さいですけど……」

「アッハッハ! すまない、そういう意味ではないよ!」


 ――グルアアアアアアアアアア!!!


 ミライさんの笑い声に反応したのか、ビッグベアさんが襲いかかってきた!


「うわわわわわわ!!」

「私の名は見習い騎士ミライ――おっと!」


 ビッグベアさんの重い爪の一撃を、なんなく受け止めるミライさん。軽く名乗りを上げながら。


「すごい! ビッグベアさんと戦った事があるんですかっ!?」

「ああ。……こんなに大きいのは初めてだがな」


 ――グルオオオオオオオオオ!!!

 ガキン! ガキン!! ガキン!!!


「……っと! あまり余裕をかましてもいられないな……!」


 ビッグベアさんの猛攻が続き、ミライさんは防戦一方だ。最初の調子はどこへやら、頬を冷や汗が流れている。

 無理もない、これだけの連続攻撃を、一本の剣だけで弾いているのだから。


「くっ……なかなか、隙をつけないな……!!」


 ――ガキッ!! ガッ!!


「……み、ミライさん……ううっ……!!」


 ハラハラとした展開に、僕は手に汗を握る。


 勇者様のパーティーとは違う。後衛すら居ない。今ミライさんは、僕を護りながら、たったひとりで剣を振るっているのだ。


 闘いは範疇外とはいえ、何もできない自分がもどかしいと感じたのは初めての事だった。いざとなれば、ミライさんを助けられるのは、僕しかいないのだ。


 ――ガキインッ!!

「うわっ!!!」


 ビッグベアさんの一撃が剣にクリーンヒットし、耐え兼ねたミライさんが尻餅をつく。


「ミライさんっ!?」


 このままじゃミライさんが――!!

 僕は両手で剣を握り、ビッグベアさんの前に出ようとする。


「駄目だベル君っ! 後ろにいたまえ!!」

「でも…………!!」


 ミライさんに制止される。

 僕が立ち止まった刹那――鼻先をビッグベアさんの爪が通過した。


「ひゅいっ!?」

 グルルヴヴヴヴヴアアアアア!!

「――――――――はああっ!!」


 振り抜かれたビッグベアさんの腕に、座ったまま、下から打ち上げた剣を合わせるミライさん。カウンターだ。


 ズバッッッ!!!

 ――グアアアアアアアアア!!!


 ミライさんの剣は、ビッグベアさんの腕を斬り飛ばした。ビッグベアさんは痛そうに呻きながら、森の奥へと逃げていった。


「――危ないところだった……」

「ミライさんっ! 良かった……お怪我はありませんかっ!?」


 僕はすぐに、ミライさんに向かって手を差し出した。ミライさんはすっと僕の手を取って立ち上がる。


「ああ。ベル君こそ大丈夫だったかい?」

「は、はい……」


 あんなすごい闘いをしたというのに、自分の心配より僕の心配してくれるのか……男としては少し情けない気持ちになったりもする。


「よっと。ありがとうベル君! クマ耳が元気ないようだが……」

「い、いえ! 気にしないでください……」

「……そうか。それじゃあ、他のモンスターが集まってくる前に、素材を手に入れてずらかるとしようか!」

「はいっ!」


 落ち込んでばかりもいられない。

 僕達はすぐにサケーブの木から材木を切り出すと、森を駆け抜け、ギルドさんへと戻った。



 ――――

 ――



 アルマーチ街。

 冒険者ギルドさん。


「――では、鑑定しますね」

「どきどき……」

「アッハッハ、口に出てるぞベル君!」


 アルマーチ街に戻った後、僕は採取したサケーブの木片から、汎用防犯置物を制作した。ギルドさんの中には自由に使える小さな工房があり、アイテムの加工や装備の手入れをする事ができる。


「しかしベル君の手先の器用さには驚かされたな。木彫りのビッグベア像を、こんなに短時間で仕上げてしまうなんて」

「えへへ……サケーブの木は加工しやすい事で有名なんですっ!」


 モンスターさんの形はどんなものでもいいのだが、僕はビッグベアさんを選んだ。本物と闘ったばかりでイメージしやすかったのと、昔、村で作っていた工芸品も熊さんの形だったので、作りやすいと思ったのだ。


「ビッグベア……手強い相手だったが、ベル君が作ったと思うと途端に可愛らしく見えるな」

「つ、強そうに見えるように頑張ったんですけど……?」

「アッハッハ! ちゃんと強そうにも見えるから安心したまえ!」


 むう。それなら良かったけど……。


「――鑑定の結果が出ました」


 ことり。

 受付係さんが、木彫りの像をカウンターに置く。


「どうだい? 見事な『汎用防犯置物』だろう?」

「いいえ。これは『汎用防犯置物』ではありません」


 受付係さんが首を振る。

 ……『汎用防犯置物』を作ったと思うんだけど、どういう事だろう……?


「…………つ、作り方が拙かったですか? ちゃんとサケーブの木を削ったんですが……」

「いいえ。そもそもこれは――『サケーブの木』ですらありません」

「「――――え゛ッ!!?」」


 まさかの回答に、僕もミライさんも面食らった。そんな、間違えた……!?


「お二人とも、いったいこれを何処で――」

「よ、よく確かめてくれっ! ベル君があんなに頑張ったのに!!」

「そうですよ! ミライさんがあんなに頑張ってくれたのに!!」

「ちょ、ちょ、落ち着いてください」


 僕とミライさんは、カウンターから身を乗り出す。受付係さんはたじたじと半歩ほど下がり、宥めるように手を前に出す。


「ご……ごめんなさい……」

「すまない……つい興奮してしまって……」

「いえ。それよりもこのアイテムの事ですが――」


 ぺこぺこと繰り返し頭を下げる僕達を遮って、受付係さんは木彫りの熊さんを指差す。


「でも、サケーブの木では無かったのだろう?」

「はい。――これはサケーブの木より更に見つけにくい、『レアサケーブの木』でできています」

「「ええっ!!?」」

「気づかなくても無理はありません。1000年に一度、生えるかどうかという樹木ですから……」


 僕とミライさんは顔を見合わせる。二人とも、そんなレアリティの高い木が存在している事すら知らなかった。

 周りで話を聞きつけた冒険者さん達も、驚いた様子だった。


「それなら、もっと切って持ってくれば良かったかな……?」

「また案内しましょうか……?」

「ええ。是非お願いします――それと、本題ですが……貴方達の作ってくれたこのアイテムを鑑定したところ、凄まじい追加効果があると判明しました」


 そう言って受付係さんは、鑑定シートを見せてくれた。



 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪


 アイテム名:超性能防犯置物

 ランク:SSSランク

 効果:悪意を感じると叫びをあげる

 追加効果:叫びによって悪の心を削り取り、悪人を善人に変える


 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪



 アイテムの効果というものは基本的には種類によって一様だ。が、素材や作り方によっては、稀に追加効果が生まれる事がある。

 この追加効果の付与には偶然や運の要素が大きい。同じ環境で同じ人間が同じ素材から同じアイテムを作っても、追加効果を再現するのは困難と言われている。


 当然だが、追加効果とレアリティが高いアイテムほどランクも高くなり、価値も上がる。


「悪人を見つけるだけでなく改心までさせられるなんて、防犯アイテムとして非の打ちどころがありません。もしよろしければこちらのアイテム、当ギルドで買い取らせていただきたいのですが……」

「ええ! もちろんですっ! 最初からそのつもりでしたし! いいですよね、ミライさん」

「あ、ああ。他に売る当ても無いしな」

「ありがとうございます!」


 立ち上がり、深々と頭を下げる受付係さん。

 頭は下げなくていいんだけど……でも、そんなに喜んでくれたのなら、頑張った甲斐があったな。


「今、報酬をご用意しますね」


 そういうと受付係さんは、奥の部屋に引っ込む。どうやら、お金を取りに行ったみたいだ。


「……SSSランクの報酬っていくらくらいなんだ? 私には想像もつかないのだが……」

「換金はいつも勇者様がやってたんですが、1000ゴールドくらいだって言ってましたね」

「わりといい額じゃないか! またデートできてしまうな!」

「えへへ……」


「――お待たせしました」


 ドンっ。

 戻ってきた受付係さんは、大きな布包みをカウンターに乗せた。


「基本報酬の220ゴールドと、追加ボーナスの9500ゴールドです。お確かめください」


 一瞬で固まる僕とミライさん。


 ……勇者様……。

 ……報酬、中抜きしてたんですね……。

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