3-3 最強超絶パーティーのBランククエスト!? 超激レア素材の採取!

 夢みたいなお買い物デートから2日後。

 僕はいよいよ、ミライさんと次のステップへ進む事を決意した。


「ミライさん、ミライさんっ!」

「なんだい、ベル君?」

「今日は――上級クエストに行ってみたいですっ!」


 ここはアルマーチ街、ギルドさんの掲示板前。

 僕とミライさんはこの2日間、購入した装備を身につけて、今までと同じ薬草採取クエストを受注していた。これはとても大事な事だ。

 強い装備を手に入れたとはしゃいで、慣れない装備でそのまま上級クエストに進み、返ってこなかった冒険者さんは少なくない。


「うむ、ベル君の動きもぎこちなさがなくなっているし、そろそろいいかもしれないね」

「じゃあこの『瞬きすると――」

「待て待て待て待て。これまではCランクだったんだ。Bランククエストからに決まっているだろう?」


 ミライさんは呆れたように肩をすくめる。

 言われてみれば、僕も無謀だった。ミライさんとならどんな事でもできそうで、気が大きくなっていたのかもしれない。……反省しないと。


「それにいきなり討伐というのもな……最初は素材採取クエストを選ぶものだ」

「採取でもいいんですか? ミライさん、強い敵と出会うために修行が必要なんじゃ……?」

「キミは私をそんな戦闘狂だと思っていたのかい……?」


 それなら良かった。

 本音を言うと僕も、討伐クエストより素材採取の方が好きなのだ。僕、戦闘では役に立ってないし……。


「素材採取クエストといっても、Bランクともなれば、向かう場所はこれまでのような鳥のさえずる森とは違う。凶暴なモンスターが出現する事だってある!」

「……凶暴…………ごくり」

「安心したまえ、キミが危険に晒されたらミライお姉さんが全力で守ってやろう!」

「はいっ! ミライお姉さんっ!」

「というわけで、ベル君! いい感じのクエストを見繕ってくれたまえ!」

「はい!!」


 このようにミライさんは、ある程度の条件の中で、僕にクエストを選ばせてくれる。


 なんでもミライさんが自分でクエストを選ぶと、何故かランクに見合わない困難が降りかかったり、依頼者が報酬を払わず逃げたりするのだという。

 僕が勇者様のパーティーでクエストを選んでいたときは、大抵は期待以上の成果があがり、数ランク上と同等の報酬を受け取っていた。


「うーん、どれにしましょうか……」


 ミライさんのため、良いクエストを探してあげたい。

 とはいえ、幸運値9999999の僕だ。気に入ったものを直感で選ぶのが、いい結果に繋がる。


「あっ、じゃあこれやってみたいです!」

「どれどれ?」


 僕はひとつのクエスト依頼を指差す。

 ミライさんは、ひょいと指の先を覗き込んだ。



 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪


 汎用防犯置物の老朽更新

 ランク:Bランク

 種別:素材収集と加工

 依頼主:アルマーチギルド

 報酬:220ゴールド

 説明:新品の汎用防犯置物が必要です。

 素材を収集し、完成したアイテムを納品してください。


 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪―≪



 汎用防犯置物は、ギルドさんや宿屋さんに置いてある木彫りの置物だ。コボルトさんやビッグベアさん、珍しいものでは、オークさんやゴブリンさん、スライムさんの形をしているものまである。悪人が近づくと、吠えて教えてくれるのだ。

 受付さんにあるコボルト像を見ると、確かに古くなっているようだ。


「材料や作り方は書いていないようだが……」

「『サケーブの木』という木をモンスターさんの形に削って乾かすんです。それからお腹に魔法陣を書けば完成ですよ」

「ほほう、詳しいんだな」


 感心したように僕を見つめるミライさん。

 えへへ……ちょっと照れるな……。


「僕、前に居た村でこういうの作った事あるんです。『サケーブの木』の生息地も、おおよそわかりますし」

「だいたいの場所がわかれば、ベル君の幸運で辿り着けるというわけか。――よし! ならばこの依頼を引き受けよう!」


 僕の意見に賛成してくれたミライさん。

 掲示板の依頼書を剥がすと、受付係さんに提出してクエストを受注する。

 いよいよだ。ミライさんとパーティーを組んで初の、Bランククエスト!


「出発前にお互いの役割をおさらいしておこうか。武器と防具があるとはいえ、それは万が一の装備だ。戦闘は私が担当する」

「はい、頼りにしてますっ!」

「ベル君にはいつも通り道案内と危機察知と健康管理と素材を見分けるのと採取、今回はそれに加えて、アイテムへの加工もやってもらう――できるね?」

「勿論です! 僕、頑張りますっ!」


 明確に仕事を割り振られると、不思議と自信も湧いてくる。

 勇者様のパーティーだと『お前は役立たずなんだから、戦闘以外の雑用全部やれよ』って言われてたからなあ……。


「本当に……心強いよ。…………もうショシンシャーノ森で一週間も迷わなくて済むんだなあ…………」


 小さな声で、しみじみと呟くミライさん。

 ミライさんもミライさんで苦労してたんだな……ミライさんのためにも、頑張らないと。


「では、いざ出発!」

「はいっ!」


 ギルドの扉を開き、ぬるまった空気を肌に浴びる。いつもと同じ空気なのに、少しだけピリリと違ったように感じた。

 僕は気合いを入れるため、拳をグッと突き上げる。


「超絶最強パーティー! おーっ!」

「えっ」

「ミライさんも! おーっ!」

「……ち、超絶最強パーティー……おーっ!」



 ――――

 ――



 サケーブノ森。

 アルマーチ街から、馬車さんで30分ほど離れた場所にある薄暗い森だ。


 どこからともなく、モンスターさんや冒険者さんの叫びが聞こえるという森。その叫びに誘われて、森深くに迷い込む冒険者さんは後を絶たない。


「――この叫びの元になっているのが、今回のターゲットでもある『サケーブの木』なんですよ」


 耳をすませば、ウオオン……。と泣き叫ぶ声が聞こえてくる。通常は声を避けるべきだが、今回は声の主さんがターゲットのため、そちらに向かって歩を進める。


「でも人が近づくと叫ばなくなるから、見つけづらいそうです。叫びを聞いたモンスターさんもたくさん呼び寄せられるから、採取が難しいんです」

「詳しいんだね、ベル君」

「昨日、サケーブノ森についての本を見かけたんですっ!」

「勤勉な仲間を持ってありがたいよ」

「いえ、たまたまです! 運がよかっただけですよっ!」

「アッハッハ! キミの場合、その言い方は謙虚なのか自慢なのかよくわからんな!」

「え、ええっ!?」


 僕が返答に困ってしまうと、ミライさんは僕の頭とクマ耳をくしゃくしゃと撫でてくれる。

 だんだん撫で方が上手くなってきたのか、気持ちがいい……。


「すまんすまん、からかってみただけだ! 少しは自慢しても良いと思うぞ? ここは初めて訪れた森だが、ベル君が居ると迷う気がしないしな!」

「僕も初めてです!」


 ガサガサと木々が揺れ、モンスターさんが顔をあらわす。コボルトさんだ! 牙を剥き、襲いかかってくる!


「ぎゃうぎゃう!!」

「私の名は見習い騎士ミライ――てい!!」

「ギャンっ!!」


 ミライさんの剣に爪を弾かれ、コボルトさんは逃げていった。今日はコボルトさんの素材は狙っていないため、可能な限りは殺さないようにする。逃しても、経験値はちゃんと入るのだ。


「なんとなくですけど、無闇矢鱈に殺さない方がいい気がするんです。……勇者様は聞き入れてくれませんでしたけど」

「ベル君は優しいな。実際のところ、死体は病気の温床になるし、他のモンスターを呼び寄せることもある。一度実力差を示せば、相手は襲ってこないしな」


 ベル君は直感でそういうコトが分かるのかもしれないな、とミライさんは納得してくれた。そうなのかな? ……意識した事はなかったけど。


 ウオオン……。

 ウオオオオオン……!


「だいぶ近いな」

「ええ。……それに、他のモンスターさん達の声もします」


 ギャンギャン!!

 グルルルルッ……!!


「――念の為、ベル君も剣を構えておいてくれ……」

「――はい」


 僕もミライさんも、自然と小声になる。

 歩幅も狭く、慎重になる。


「――そろそろ、だと思います」

「――うむ」


 剣を持つ手に力が入る。

 汗で滑りそうな手を、服で拭う。

 僕とミライさんは、草木をかき分け、ついに『危険地帯』へと踏み入った。


「「!!!」」


 そこで僕達が見たのは、夥しい鮮血と、倒れているモンスターさん達。モンスターさん同士で争ったのだろう。

 生き残っているのは一匹だけのようだ。


「手負いのビッグベアが一匹か。……これは、運がいい方に入るのかな……?」

「比較的……本には、乱闘になる事が多いって書いてありしたから……」

「なるほど……ベル君、『サケーブの木』は?」

「あのビッグベアさんの後ろのかなって……」


 ビッグベアさんは、木の根本あたりでコボルトさんをムシャムシャと食べている。

 食べ終わってどこかへ行くのを待っていては、また他のモンスターさん達が寄ってきてしまうだろう。


「――向こうもコチラに気づいたようだ」


 ビッグベアさんの動きが止まった。

 咥えていたコボルトさんのお肉を離し立ち上がると、僕達に向かって腕を広げる。


 背の高さはミライさんの2倍ほど。

 腕は丸太みたいだ。

 爪も牙も、石のように硬そうだ。


「私の側を離れるなよ、ベル君!」

「はいっ!」

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