3-1 幸運は最強のスキルなのか!? 薬草採取クエストで驚きの鑑定結果が!

 アルマーチ街の冒険者ギルドさん。

 受付カウンター。


「――はい。依頼達成ですね。お疲れ様でした」

「ああ。労いありがとう!」

「こちら報酬の10ゴールドと、追加ボーナスの200ゴールドです」

「助かるよ」


 ミライさんは、受付係さんからずっしりと重い金貨の袋を受け取る。ついでに周りの冒険者さん達の羨望の眼差しも堂々と受けとめる。

 やっぱり凄いなあミライさん……僕だったら絶対に萎縮してしまうもの……。


「アッハッハ! ベル君と居ると、調子がいいな!」

「そんな、僕はなにもしてないですよ」


 頭を振る僕のクマ耳を、ミライさんはギュッと掴む。


「ふわっ!?」

「なにを言ってるんだ! 私はベル君と組むまで、薬草採取のクエストで成功報酬を貰った事が無いんだぞ!」

「えっと、その…………それは多分探し方に問題が…………」

「そう。それに気づかせてくれたのはベル君なのだ」


 わしゃわしゃとミライさんに頭を撫でられ、僕は少し頬が熱くなる。



 ――カマッセ・ベイブさんとの決闘から、一週間が経った。僕はあの後、改めてミライさんにパーティーの申請をし、ミライさんは快く受け入れてくれた。


「アッハッハ! やはり私とベル君の相性は最高のようだな!」

「は、はい! えへへ……なんたって僕ら『最強超絶パーティー』ですからね!」

「うん……まあ、うむ………………そうだな! アッハッハ!」


 僕が提案した『最強無敵超絶未来ジャスティスパーティー』というのは、長過ぎて呼び辛いという理由でミライさんに却下された。

 ミライさんの意見を取り入れつつ紆余曲折あって、この『最強超絶パーティー』というパーティー名に落ち着いたのだ。


「しかし『ナンデモナオール草』というのは、私も初めて聞いたぞ。よく見つけたな、ベル君」

「たまたまですよ。草の根元がなんとなく気になって、掘ってみただけで……」

「そのたまたまのお陰で追加報酬も受け取れたしな。誇りに思っていいんだぞ、ベル君」


 追加報酬というのは、依頼に対し期待以上の結果を出した場合にギルドさんから支払われる報酬の事だ。


 今回受けた依頼は『キズナオール草』という薬草の採取だ。モンスターさんに受けた軽い傷などを治す、傷薬の材料になる。『キズナオール草』は初心者向けダンジョンの入口あたりに多く生息するため、報酬も安い。


 しかし僕はその過程で『ナンデモナオール草』という薬草を見つけた。この草は怪我も病気もたちどころに治す万能薬エリクサーの材料になるため、より高値で取引される。

『ナンデモナオール草』は非常に見つけ辛いレア素材のひとつだ。その茎や葉はよくある雑草とまったく同じであり、違いは根っこのみなので、掘ってみないとわからないからだ。


「今日は遅くなったし、宿に戻ってゆっくり休もうか!」

「はいっ!」



 ――――

 ――



 アルマーチ街の宿屋さん。


「「ただいま!」」


 何日もお世話になった部屋だと、愛着が湧いてか、思わず挨拶をしてしまう。

 ミライさんと僕は交代でお風呂に入ると、ベッドに入った。


 二人分の部屋を取れるくらいには稼いでいるが、節約の為に相部屋を使っていた。最初は少し気恥ずかしかったが、慣れてくると、いまさら倍の値段を払うのも馬鹿らしく思えるものだ。


「連日ベッドで安眠できるのはいいものだな! 財布を落としたり盗まれたり、道に迷ったりで、屋根のある夜と星空の見える夜を繰り返していたからな!」

「ミライさん……苦労してたんですね……」


 ……ミライさんの不幸体質を考えると、一人にするのは心配だしね……。


「それに今は、私専用の抱き枕もあるしな!」

「うわわっ!」


 ミライさんに抱きしめられて、僕はまた顔が熱くなる。抱き枕も扱いされても、不思議と嫌な気持ちは起こらない。

 まあ……男として見られていないって事なんだけどね……。


「――ときにベル君」

「はい、なんですかミライさん?」

「私達――もう少し、進展してもいいと思うんだ」

「え!!? 進展!!? 今からですか!!?」


 いくらなんでも急過ぎる!?

 まだ心の準備が


「アッハッハ! 気が早いなあベル君は! 明日からに決まっているじゃないか!」

「あ、明日……そういうものなんですね……?」


 明日かあ


「ああ! 前に、もっと高難易度のクエストも受けてみたいと言っていただろう?」


 そっちかあ


「……ん? なんだ? 少し耳がしんなりしたような……」

「いえっ! そんな事ありません!」

「そうか? ならいいんだが……」

「ええ、行きましょう! 高難易度のクエストに!」


 ミライさんと一緒に『最強超絶パーティー』に居られれば、どんなクエストでも楽しい。少なくとも、勇者パーティーに居た頃よりも。それに僕の幸運ステータスがあれば、薬草採取だけでも楽に暮らせるだけの額は稼げるだろう。

 けど、僕だって冒険者のはしくれだ。一生を薬草採取に捧げるつもりはない。

 それにミライさんだって、女騎士になるための修行をしているのだ。今は僕に合わせてくれているが、本当は強敵と剣を交えたくてウズウズしている事だろう。


「どのクエストですか? 『瞬きすると高速で近づいて首を折ってくるゴーレムさん』の確保ですか? 『どんなダメージからも即時回復する不死身のリザードさん』の討伐ですか!?」

「いきなり飛ばし過ぎじゃないかい!? なにはともあれ、まずは買い物からだよ。ベル君の装備を整えないとな!」

「あ…………そうでしたね……」


 僕の装備は、勇者パーティーさん達に取り上げられてしまったのだ。薬草採取だけなら問題ないが、上のクエストを狙うなら僕も丸裸というわけにはいかない。


「おかいもの……お買い物かあ……」

「……あまり乗り気じゃなさそうだな?」

「勇者さんのパーティーにいたときは、荷物持ちばかりやらされてましたから……」


 懐かしい、苦い思い出だ。

 シロマさんやクロナさんは必要ない服を沢山買うし、ユーシアさんとブドウンさんとアソービさんはお酒ばっかり買うし、ケンジさんは難しい本をたくさん買うし……。

 ………………僕が居なくなったら、あの荷物、誰が持つつもりだったんだろう……?


「そうか……よし! ならば明日は1日、ベル君にお買い物の楽しみを知ってもらおう!」

「クエストはいいんですか?」

「いいじゃないか、偶にはゆっくりと休息も必要だ! 頑張り過ぎは体に良くないぞ!」

「わかりました、明日は装備を整える日にしましょう!」

「ああ! それじゃあ計画を立てるとしようか」


 ミライさんはするすると街の地図を取り出すと、机の上に広げる。ランプの灯りに照らされた地図には、マルやバツ、サンカクのような記号がつけられていた。


「ミライさん、なんですかこのマーク?」

「この街には何度か来たことがあってね! サービスや品質の優れた店を記録してあるのさ!」


 流石ミライさん! 行き当たりばったりで見つけた店に入っていた僕とは違う。


「ベル君、甘いものは好きかい?」

「大好きです!」

「それは良かった! 美味しい小麦菓子を焼いてくれる店があってね、少し寄って行こう!」

「はいっ!」


 ミライさんは地図のマルのマークの上に、もうひとつクルリとマルをつける。


「装備品はどこで買うんですか?」

「武器や防具は問題ない。私が買ったのと同じ店に小さい子用のも売っていた筈だ!」

「わぁい……ん? 小さい子用の……?」


 次々と、明日の足取りが決まっていく。僕はミライさんの手際のよさに、感心してしまう。


「それからこのレストラン、予約しておこうか」

「予約魔法ですね」


 宿屋さんの部屋には水晶が設置されていて、街のご飯屋さんの予約が取れるようになっている。ご飯屋さんによっては、お料理を部屋まで運んでくれるサービスもあったりする。


「名前からして、お洒落で高そうなご飯屋さんですけど……」

「いいじゃないか、記念だよ。さ、さい……『最強超絶パーティー』の、一週間記念だ!」

「……!! はいっ!」


 一週間記念という言葉に、心が熱くなる。

 ミライさん、僕とパーティー結成した日の事、大切に覚えてくれてるんだ……!


「ディナーでいいかな?」

「はい、もちろんです!」


 ディナー……なんかオトナだ……オトナな響きだ……!


「とすると、今のボロ服じゃ入店を断られてしまうかもしれないな。午前中は、衣服を仕立ててもらおうか!」

「早起きしなきゃいけませんね!」


 クエストが無いとはいえ、思ったよりハードスケジュールみたいだ。

 ミライさんとお洋服を買いに行って、お菓子を食べて、装備やお財布を買って、お洒落なご飯屋さんでおいしいお料理を食べて、パーティー結成記念を祝って――



 ん?


 あれ……。



 …………これって…………。



「で、で、で――――デートじゃないですかっ!?」

「アッハッハ! おませだなベル君?」


 ――その夜。

 なかなか寝付けない僕は、ミライさんに無理矢理布団に包まれて子守唄まで聞かされてしまった。


 くっ……!

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