2-2 私のために争わないで!? アベルとカマッセ、決闘開始《デュエルスタンバイ》!

 ミライさんとのパーティー申請に、突然ひとりの男が割り込んで来た。その名もカマッセ・ベイブさん。ミライさんとパーティーを組みたがってるみたいだけど……。


「ブゥひっひっひっ! み、み、ミライた?ん?」

「ミライさん。あの方、お知り合いなんですか?」

「…………カマッセ・ベイブ。昔、魔獣に襲われているところを助けてやったんだ」


 苦々しげにいうミライさん。

「まあ助けた事自体は良かったんだが、その後が最悪でな。私の行く先々に現れては『惚れたからパーティーを組んでくれ』としつこくて」

「組んであげなかったんですか?」

「……風呂を覗いたり、下着を盗んだりするような奴なんだ。とても背中を預ける気にはなれないよ」


 確かに、それなら納得だ。

 少しでもカマッセさんを気の毒に思ったのが間違いだった。

 ミライさんは悪くない。


 で、当のカマッセさんは自分が責められているというのに、ニヤニヤと他人事のように笑っている。


「ぼ、僕様とパーティー組んでくれたら、もうそんな事は、し、しないんだな! だ、だってパーティーって事は、毎日、お風呂にも一緒に入るし、べ、ベッドも同じだし……ぐひひっ」


 あのひと、パーティーを何か勘違いしてるんじゃないのか?


「そ、それに、僕様は、ベイブ王国の王族のご親戚――なんだな! 将来も、あ、安泰だし……こ、子供も幸せなんだな!」

「貴族の人なのに冒険者をやってるんですか?」

「たまに居るんだよ、暇つぶしに冒険者の真似事をしたがる貴族が……ぬるま湯のような環境で生きているから、無駄に刺激を求めているのだろう」


 と、ひときわ大きな溜息と共に頭を抱えるミライさん。

 カマッセさんには悪いけど、ミライさんとは絶対に合いそうにないな。


「ぱ、パーティー名も、か、考えてあるんだな……『カマッセとミライたんの未来超絶ラブラぶパーティー』……ぐふっ」

「あ、被った」

「え!!!!? どこが被ったんだいベル君!!!?」

「僕も『未来』と『超絶』ってのは入れようと思ってて……えへへ」


 やっぱりみんな考えることは一緒なんだなあ。


「ベル君。パーティー名はやっぱり私も一緒に考えるとするよ」

「な、なにおう!? ミライたんは、ぼ、僕様と一緒に、『瞬きすると高速で近づいて首を折ってくるゴーレムの確保のクエスト』に、いくんだな!」


 え、あれ人気のクエストなの。


「カマッセ。私はこの少年とパーティーを組みたいんだ。だからキミの希望には応えられないんだよ」

「そ、そんな弱っちいそうなのに、み、ミライたんは任せられないんだな!! ブヒ!!」

「うぅ……」


 返す言葉も無い。

 僕のステータスはミライさんに比べてあまりにも貧弱だ。恐らく、肉体のスペックはカマッセさんにすら劣るだろう。

 ミライさんはキッとカマッセさんを睨みつける。


「キミのような奴がベル君を馬鹿にするんじゃない! 彼はキミなんかより、ずっと優秀な少年だ!」

「ミライさん……」


 お世辞だろうけど、ハッキリ言われると照れるな。


「ぶ、ぶひぃいい……!! ぶひひひひぃいい……!! 認めない!! 僕様は認めないんだなあ!!」


 カマッセさんは手袋を脱ぎ捨てると、床に叩きつける。

 べちょっ。


「ち、ちっこいの! ぼ、ぼ、僕様と……け、けっと――――――あ。ちょっとステータス見せるブヒ……ぶひぶひ、大丈夫そう――――決闘ブヒ!!!」

「え……えええええええええええっ!?」



 ――――

 ――



 数分後。

 ギルドさんの前の広場には、冒険者さんの人だかりができていた。半径15歩くらいの人の輪の中央に、僕と、カマッセと、ちょび髭のおじさんが立っていた。


「それでは、我らがカマッセ・ベイブ様と、どこぞの熊の骨アベル・ダービーの決闘を開始する!」

「「「うおおおお?????ッッッ!!!」」」


 ちょび髭のおじさんが叫び、観客さん達ギャラリーが沸き立つ。このおじさんは、名門ベイブ家の使用人さんらしい。見渡すと、同じような服のおじさんが何人か居た。


「あはは、熊の骨だって。うまいこといいますね」

「ベル君、怒っていいんだぞ」


 最初はミライさんと猛反対していた。

 しかし、僕は『決闘の申し出を受けたい』と頼んだ。こんなところで逃げてしまうようでは、どの道、ミライさんとパーティーを組んだところで足を引っ張るだけだ。


 ミライさんは、僕が怪我をしないようにルールを定める事を条件に、渋々承諾した。


「すまない、ベル君。……私のせいで、こんな事に巻き込んでしまって……」

「いえ! 僕、もっと怖いモンスターさんに会った事もあるし! へっちゃらですよ!」


 ミライさんは不安そうな顔だ。

 カマッセさんと僕の体格は、ゆうに5倍以上はありそうだ。まともに打ち合えば、ひとたまりもないだろう。


「ルールは単純明快! 気分爽快! 正々堂々! この『水魔法剣』で、相手に先に触れた方の勝利とします! スキルの使用は不可!!」

「ぶひひぃ、ぼ、僕様の優しさなんだなあ」


 水魔法剣は、魔法で作られた水の剣だ。

 今回は、相手の身体に触れた時点で水に変わるような術式が組んである。ミライさんが何度も確認したから間違いない。

 これなら、お互い怪我をする事も無いはずだ。


「そしてこの勝負の敗者が、金輪際ミライ様との接触を断つ事!」


 この条件は、僕から提案した。

 カマッセさんは最初、『勝った方がミライさんとのパーティーを組む』というルールにしようとしていたが、それはあまりにもミライさんの意思を蔑ろにしているように思えたからだ。


「僕、絶対に勝ちます! それで、ミライさんと、胸を張ってパーティーを組みます!」

「ぶひょほほほほほほ! ぼ、僕様も勝って、ミライたんの、お、お胸を揉んで、パンティーを貰うんだな……!」


 カマッセさん、お耳が悪いのかな。


「――お二人とも、準備はよろしいですね?」


 使用人さんが右手を高く掲げる。

 僕とカマッセさんは、互いに向き合い、水魔法剣を構える。


「…………えーと、よろしくお願いしますっ!」

「ぶひょほほ! ……よ、よろしくされるいわれなど、ないんだな!」


「それでは――はじめ!」


 激闘の幕が、切って落とされた!!



「――ぬゅううぅううううううんっ!!!」

 どすんどすんどっすんどっすん。


 カマッセさんは大振りで剣を振り回しながら突撃してくる。ギルドさんで僕を吹き飛ばした大技だ。


「かわせベル君っ!」

「うわわわわわっ!」

 たかたかたかたかたか。


 だけどこんなの、来るとわかっていれば走って躱せる。オークさん達の突進攻撃に比べたら、どうってことない。


「チャンスだベル君! 後ろに回り込んで攻撃だ!」


 ……ミライさん。

 応援してくれるのはありがたいんだけど、召喚獣さんじゃないんだから。


「ブヒギィいいいいっ!! み、ミライたんに応援されるなんて、ゆ、ゆるさないんだなあ!! ムッキーッ!!」


 カマッセさんは頭に血がのぼった状態で、僕の動きを追い掛ける。僕は自慢の俊敏115(冒険者さん達の平均よりちょっとすごい)で、カマッセさんの回りをぐるぐると走って撹乱する。


「ぶひ!? ぶ、ぶひぃい!?」


 カマッセさんは必死に僕を捕まえようとするが、うまくいかない。巨体のパワー型は、小さな獲物を追うには向いていないのだ。


 ビュンッ!!

「ぶひ!?」

「ああ、惜しい!」


 僕の剣がカマッセさんの飛び出たお腹を掠める。


 剣先が一瞬でも相手に触れれば勝ちのルール。カマッセさんは気づいていなかったが、最初から、小回りの効く僕に有利だったのだ。


「うおお! あのチビ意外とやるじゃねえか!」

「いいぞー! そんな豚やっつけちゃえ!」


 観客さん達から拍手を浴びせられる。

 カマッセさん、他の冒険者さん達にも迷惑かけてたのかな……?


「ぶひっ、ぶひぃいいっ……」


 案外、アッサリ勝てるかもしれない。

 このときの僕は、そう、油断していたのだ。

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