2-1 夜明けの珈琲は苦くて飲めない!新たなパーティーを結成!?

 朝。

 僕は、ふかふかと柔らかいものに包まれて目を覚ました。


「……なんだろう、ミルク味マシュマロスライムさんかな」

「ん…おはようベル君、いい朝だな」

「ん? ……うわあああっ、み、ミライさん!」


 どうやらミライさんに抱きしめられたままの状態で、寝落ちしてしまったらしい。僕は慌てて、両手に掴んでいた柔らかいものを離す。


「違っ、僕はそういうつもりじゃなくてですね!」

「アッハッハ!わかってるって! キミみたいな純朴な少年が、そんなつもりで人をベッドに誘うものか!」

「うぅ…からかわないでくださいよ…」


 頭の上で、ぺたんとクマ耳が垂れるのを感じる。

 どうもミライさんにはペースを握られっぱなしだな。不思議と嫌な感じはしないけど。


「まずは朝の運動と朝食を済ませてしまおう。それから、ギルドに向かうとしようか!」

「え、ギルドさんですか?」

「忘れているのかい、ベル君? 私達は今、二人揃って無一文なのだぞ?」


 ……。

 忘れてた。


「実家に帰るか、ギルドで資金を稼ぐしかないわけだが…昨晩の話ではベル君の実家はここから遠く離れている。私の家も同様だ。となれば、選択肢はひとつしかない!」

「ギルドさんでクエストをこなして、生きるためのお金を稼がないといけないって事ですね」

「聡い子だ、では出陣! おーっ!」

「お、おーっ…!」


 僕は宿屋さんの裏でミライさんと柔軟体操をした後、サービスの朝食をとった。僕が少食なのもあるが、ひとりで食べきれる量では無かったので、ミライさんにもお裾分けをした。


 それから、僕達はギルドさんに向かったんだ。


 ――だけど僕は、このとき思いもよらなかった。

 まさか、あんな闘いが待ち受けているなんて――



 ――――

 ――



 アルマーチ街の冒険者ギルドさん。


 掲示板には、依頼者さんが持ち込んだクエストが多数貼られている。ギルドの職員さんが設定した難易度のランクと、依頼達成の質に応じて、報酬を受け取る事ができる。


「瞬きすると高速で近づいて首を折ってくるゴーレムさんの確保か…Sランク、報酬は――」

「待ちたまえベル君、いきなりそんなものに手が出せるわけないだろう」

「み、見てるだけですって」

「それにしてもだ」


 ミライさんは親指で、背後の受付カウンターを指差す。


「クエストを眺める前に、パーティーの登録をしなければならないだろう。君は非道な勇者からパーティーを解消されてしまったのだから」

「あ、そっか……そうですよね……」

 冒険者になってからずっと勇者パーティーに居た僕は、ギルドさんに着いたらまず掲示板という意識になっていた。


 いや、違うか。


 捨てられた事に向き合うのが怖くて、ワザと目を逸らしたんだ。


「じゃあ、ソロで登録し直してきますね」

「アッハッハ! 何を言ってるんだベル君は?」

「え、だって…」

「私とパーティーを組むに決まってるじゃないか」

「えええ!? ミライさんと!?」


 驚いて大声をあげてしまい、冒険者さん達の注目に晒される。

 騒がしくしてしまってごめんなさい、という意味を込めて、僕はペコリと頭を下げる。


「イヤなのかい?」


 ミライさんは少しショックを受けた様子だった。


「そんなわけないじゃないですか! でも、僕が居たら修行の邪魔になってしまうんじゃ」


 ミライさんは、騎士さんになるための修行の旅をしていると言っていた。強いモンスターさんや盗賊団さんと戦う事も多いのだろう。

 ちょっと運がいいだけの少年など、お荷物ではないのだろうか?


「僕、戦闘はあまりお役に立てませんし、きっと足を引っ張ってしまいます!」

「なんだそんなことか! 昨日も言ったが、私もベル君には助けられている。モンスターと戦える事だけが強さではないよ」

「でも」

「それに私の方だって、キミに迷惑をかけてしまうかもしれないしね」


 うーん、そうは思えないけど。


「パーティーを組むと、好きなパーティーの名前を登録できるんだ!」

「!!」

「ベル君が考えていいんだぞ」

「申請しましょう」


 悔しいけど男の子回路が反応してしまった。

 そうか…あの『勇者パーティー』って呼び名、勇者ユーシア様がつけてたんだ。

 もっとかっこいいのがいいと思ってたんだよな…『ザ・アルティメット聖剣覇王パーティー・最強極』とか。


 僕はうきうきとした気分で、ミライさんと共に受付デスクに向かう。

 受付係のお姉さんが、輝く営業スマイルで出迎えてくれた。


「冒険者ギルドへようこそ。ご用件は何でしょうか?」

「ああ。新規パーティーの申請をしたくてね」

「ではまず、ステータスの確認をさせていただきますね。ではひとりずつお名前をどうぞ」

「我が名は見習い騎士ミライ。いずれこの王国一の騎士になるため、ひとり修行の旅をしている者だ」

「ミライ様ですね。この水晶に手をかざしてください」

「私は18年前、マズシー村の農家の家で生まれた。幼き頃に母上を不幸で無くし」

「終わりました、ミライ様のステータスはこのようになっております」


 スルースキル高っ。



 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪


 ミライ・セーフィス


 種族 人間

 年齢 18

 レベル 59

 状態 普通


 耐久 6350

 魔力 250

 攻撃 8040

 防御 7230

 俊敏 3190

 幸運 2


 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪



 やっぱり強いなあミライさん。


「アッハッハ、恥ずかしいものを見せてしまったね!」

「え? 恥ずかしいって??」

「幸運値、こればっかりはどうしようもなくてな…」


 すべてのステータスに共通している事実がある。一般的な冒険者さんの平均ステータスが、およそオール100になるということだ。

 そういう意味では、ミライさんのステータスはかなり不運なシロモノといえる。


「さっき『私も迷惑をかける』と言っただろう? 財布を落としたり、試験の日に目覚まし魔法が効かなかったり――なにかとツキの無い女なのさ」

「そんなことありません! ちょっと幸運が少ないだけじゃないですか! 僕、こんなに素晴らしいステータス、みたことないですよ!」

「アッハッハ、ありがとうベル君!」


 少しだけ嘘をついてしまった。

 勇者ユーシア様のステータスは、すべてのパラメータが7000超えというとてつもないものだった。

 ミライさんの屈託のない笑顔に、良心が痛む。


「ではそちらのボク、お名前いえるかな?」

「アベルです! アベル・ダービー」

「元気にお返事できたね、じゃあこのキラキラした水晶に手をかざそうね」

「はーい」


 僕は水晶に手を伸ばす。

 2年間、荷物持ちとかしかしてないけど。少しは強くなってるんだろうか?



 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪


 アベル・ダービー


 種族 黒熊の獣人

 年齢 13

 レベル 13

 状態 普通


 耐久 21

 魔力 62

 攻撃 18

 防御 43

 俊敏 115

 幸運 9999999


 ―≪―≪―≪―≪―≪―≪


 やったやった! 俊敏が30くらい伸びてる!

 戦闘で逃げ回ってたお陰かな。

 ……そう考えると、少し情けなくなってくるな…。


「申し訳ございませんアベル様。てっきり8つくらいの少年かと…」

「あ、大丈夫です。慣れてますので」


 受付係さんが申し訳なさそうにしている。

 気にしてないのに。


「メンバーはお二方のみですか?」

「ああ。そのつもりだ」

「ではこちら、パーティーの申請用紙になります。こちらにパーティーの『通称』とお二人の署名を――」


 そう言って受付係さんが、羊皮紙を渡してくれた。

 パーティー名、どうしようかな…!

 せっかくのミライさんとのパーティー、カッコいい名前にしないと…!

 ――そんな事を考えていたときだった。

 僕達の身に、厄災が降りかかったのは。


「ブッヒィイッ! ちょちょちょ、ちょっと待つんだなぁああああっ!!!」

「うわっ!?」

 ドッシンッ


「ベル君っ!?」


 僕は巨大な肉の塊に、壁際まで吹っ飛ばされた。

 うう…なんなんだよ…目がチカチカする…。


「大丈夫かい!? ベル君っ!!」

「はい、なんとか…」


 見上げると、脂ぎった禿頭の巨漢さんが、肩を大きく上下させていた。


「フヒー、フヒー…そ、そのパーティー結成、ま、待つんだなぁ!!」

「お、オークさんッ!? なんでギルドさんにオークさんが――!?」

「落ち着けベル君、アレは人間だ…一応」


 ギリギリと歯ぎしりをするミライさん。

 その表情には、今まで見せたことの無いような、嫌悪感が現れていた。


「カマッセ・ベイヴ、何故キミがここに居るんだ!?」

「ふ、フヒフヒフヒ? みみみ、ミライたんの後を尾行させたんだよぉ?ん?」


 ミライさんに睨まれて、何故か嬉しそうにぐしゅぐしゅと涎を垂らす、大男さん。


「みみみっ、ミライたんとパーティーを組むのはぁこの僕様だぁあああ?!! ブッヒー!!」

「な、なんだって!!?」

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