1-? 死亡記録:シロマ(女性・享年28・白魔導士)

 閲覧時留意事項:

 本記録の閲覧危険度は20と定められています。非常に刺激の強い内容となっているため、閲覧者の精神衛生を著しく悪化させてしまう危険があります。

 過去に黒魔法等による強い精神ダメージを負った経験のある者、精神防壁の未発達な者、また、未成年に対しても本記録を公開してはいけません。



























日付:魔導世紀 5年10月7日

故人:シロマ(女性・享年28・白魔導士)と思われます※

死因:失血死と思われます※


※ほぼ間違いないが、遺体の損壊が極めて酷いため、このような書き方になっています。



状況:

 ホカノ街宿屋の4号室のベッドと壁の隙間にできたどす暗い血溜まりの中で、無残な姿の遺体が発見されました。


 遺体は全身の組織がスライム状に溶けて炭化しており、その流れ出た体液が床を腐食し穴だらけにしていました。

 部屋の至る所に焦げた肉片や血糊が付着していたが、これは対象が劇痛でのたうちまわった際に飛び散ったものと考えられます。

 遺留品や証言などから、この迷惑な遺体が、勇者パーティーの白魔導士シロナのものであると断定するに至りました。


 何故、彼女がこれほどまでに凄惨な死を遂げたのかは、以下で説明します。


 遺されていたシロマの血液を慎重に採取し、解析アナライズスキルを使ったところ、彼女を死に至らしめたのは、黒魔術でもモンスターの毒液でもなく、『純血病』であったと発覚しました。



純血病について:

 純血病は、コボルトの糞便から生まれた細菌が、ゴブリンの体内で変異したものによって引き起こされる、感染症の一種です。

 有効な治療法は存在しませんが、今後も研究のための予算が合議される事はないでしょう(理由は後述します)


 この細菌が何らかの経路で血管に侵入すると、血中のアルカリ性物質等と結びつきながら増殖します。また増殖の際には、純度の高い酸性の物質が発生します。

 結果、感染者の体内を巡っている血液は、徐々にバジリスクの毒液をも凌ぐ超強酸の液体に置き換わっていきます。


 感染者は、この世の地獄を味わうことにる、と言われています。


 全身の血管が穴だらけになり、滲み出た強酸性の血液が、内側から筋肉や骨を焦がし溶かしていきます。

 激痛に叫ぼうにも喉は焦げ、身体を掻き毟ればに指先は溶け、眼球は腐食されて無くなり、毛細血管から滲み出た血液が脳の機能をじわじわ破壊します。


 純血病を発見した研究者は、この症状について

『自らの肉が溶けて無くなっていく恐怖と劇痛は、まるで悪夢だろう。世界に現存する、最も苦痛を伴う死に方のひとつだ』

 と語りました。



 これほどまでに凶悪でありながら一般にあまり知られていないのは、この純血病を引き起こす細菌は生命力が著しく弱く、感染症でありながら感染力がほぼ皆無であるためです。


 まず、この細菌は発生確率が非常に低いです。巣穴いっぱいのコボルトの糞便を一匹のゴブリンが喰らい尽くして、漸く発生するかどうかというところです。

 更にここから感染を拡大するとなると、さらに門は狭くなります。純血病のホストとなったゴブリンはおよそ5時間以内には死に至りますが、このとき流れ出た血中の細菌はすべて死滅します。つまり、死骸は感染源となり得ません。

 媒介者の寿命は更に短いです。媒介者となるのはゴブリンの血を吸う種の蚊などが該当しますが、純血病の血を体内に取り込んだ蚊は同じく純血病に侵され、1分と持たずに溶けて死んでしまうためです。


 以上の事実から、純血病に感染するためには、『コボルトの糞便を食して運悪く純血病のホストとなったゴブリンから5時間以内に吸血した蚊によって1分以内に刺される』必要があります。


 よって人間への純血病の感染確率は天文学的数字にまで上るため、危険視する必要はまったく無いというのが、王国医師連盟の総意でした。



緊急調査:

『純血病』のヒト属への感染は過去に例が無く、白魔導士と医師連盟により特別隊が組まれ、至急調査がなされました。


 一週間あまりの調査の結果、ホストとなったであろうゴブリンと、シロマを刺した蚊の溶けた死骸が発見されました。しかしその他には、感染者であろう生物や死体は発見に至りませんでした。

 今回のシロマへの感染は偶発的なものであり、感染拡大の懸念は不要である事が明らかにされました。


 彼女は『非常に運が悪かった』のでしょう。

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