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 ◆勇者パーティー◆



 夕方、アベル達が宿屋に辿り着くよりも前。

 ホカノ街の宿屋に、6人組の勇者パーティーが辿り着いた。


「それじゃあアベル君のこれからの活躍と健闘を願って、乾杯!」

「「「乾杯ィ!!」」」


 宿屋のダイニングを囲み、酒を酌み交わす6人。

 アベルを森で捨てた後、誰かが『せっかくならあいつの送別会をやろう』と言い出したのだ。


 これは決して、かつての仲間であるアベルを思い遣っての事ではない。彼らは、酒を飲んで騒げればなんでもいいのだ。送別会というのも、悪趣味なジョークだ。


「一番アソービ、アベルのモノマネやります! 『みなしゃん、この宿屋は悪い気配があるので泊まっちゃ駄目でしゅ?』」

「ぎゃはははは! 似てる似てる!!」

「うぇい!!」


 甲高い声で悪意たっぷりのモノマネをする遊び人アソービ。勇者パーティーの連中は、猿みたいに笑い転げながら手を打ち鳴らす。


「あ笑った笑った! アベルのヤツ、最後までインチキ占い師だったよなあ! あ、店員さん、山盛り揚げジャガイひと皿」

「ああやって、さもそれっぽく意味深な事を言うだけで、報酬が貰えていた時代は終わったのです。目に見える成果を重ねなければ、評価はされません。薬草サラダひとつ」

「こらこらみんな! 送別会の主役に失礼だろ? ――ここには居ないけどな! エールお代わり!」

「ウケる!! 山盛り揚げジャガイモひと皿くださ?い」

「それさっき俺頼んだ」

「え、ごめん」


 一応送別会という名目なので、アベルの話題で盛り上がるパーティーメンバー。といっても、彼の今迄の頑張りを嘲笑い、馬鹿にしているだけだ。


「アイツの最後に言ってた道も、ゴブリンとコボルトしか出なかったしよ!」

「楽勝だったわよね! ノーダメ瞬殺?!」


 イキり散らす勇者パーティー。

 周りの宿泊客達も、迷惑そうな目線を送る。


「つかよ、さっきからモゾモゾ何してんだよ! 背中痒いのか?」

「帰り道で蚊に刺されたのよ、最悪」


 女白魔導士シロマは背中をポリポリとかいている。

 彼女の背の真ん中に、ホクロ大ほどの、赤い腫れができていた。


「そんエロい格好してるからだっての! 蚊も誘ってると思ったんだろうぜ!」

「それがアベル君のイヤな予感というわけですかあ……たいしたものですねえ彼は!」

「ちょ、待って……び、微妙に届かない……」

「ヒャハハハ! 掻いてやろうか!?」

「触らないで」

「え、ごめん」


 シロマは立ち上がり、掻きづらそうに背中に手を回す。


「『たいへんでしゅ! ほっといたら死んじゃいまひゅよ?!』」

「いひひひひ! や、やめて! それツボだわ」

「へへへ、あっ綺麗なお姉さん。山盛り揚げジャガイモひと皿ください」

「それさっき私とユーシアが頼んだ」

「え、ごめん」


 運ばれてくる山盛り揚げジャガイモ3皿。

 カロリーの暴力。


「無駄遣いですよ、まったく……」

「いいじゃないまたクエストでガンガン稼げば!」

「シロマのいう通りだぜ、金も余ってるしな!!」


 彼等は気づいていない。


 自分本位で行き当たりばったりの彼等の旅が、なぜ今までうまくいっていたのか。

 そして――これから、どうなるのか。


 彼等は気づいていない。


 幸運値9999999の少年を無下に追放した結果、自分達の身に、何が起こるのか。



 ――――

 ――



 午後11時30分


「けーんじ……」

「…………ん…………」

「ねえ、起きて……ケンジ……」


 男賢者ケンジは、寝苦しさと自分を呼ぶ声に目を覚ました。深夜、ひとり部屋のベッドの上、酔いで頭もクラクラしている。


「……どなたですか、こんな時間に……?」

「私よ。シロマよ、ケンジ……」


 鼻を抜ける淫靡な声。吐息が顔にかかり、ケンジは身体を起こそうとする。だがケンジの身体は、金縛りのように動かなかった。


「ケンジ、一緒に寝ましょ……」

「はあ? シロマさん、貴方、何を酔っ払って――――!?」


 ギョッとして言葉に詰まるケンジ。

 ケンジの上に跨るシロマは、いわゆる『生まれたままの姿』であった。

 シロマは、そのまま身体をくの字に折り、唇を近づけてくる。


「けーんじ」

「や――やめなさい! 私は、初めての相手はママと決めているのです!!」


 目を瞑り、必死に抵抗するケンジ。

 だが、ケンジを待ち受けていたのは――予想もしない展開だった。


「ゴボボボボボボボボボボボぼぼぼぼ」

「――――――ッッッ!!?」


 異音に瞼を開くケンジ。


 吐いたのか。

 いや、吐かれた方が遥かにマシだった。


「ゴボボボボボボボボボボボぼぼぼぼ」

「あ………………あ、あ………………!?」


 目の前のシロマには、顔が無かった。

 頭の先からドロドロとスライムのように溶けていた。



「うぎゃああああああぁぁぁあああああああああああああ!!!!」



 ――――

 ――



「――――あああああぁぁぁあああ………………って、…………ゆ、夢……??」


 ケンジは、部屋のベッドの上で目覚めた。


 全身に汗をびっしょりとかいている。

 心臓はバクバクと煩く打っている。

 女白魔導士シロマの姿など、あるわけもない。


「とんだ悪夢ですね。飲み過ぎでしょうか……? ……………………よし。これくらいなら漏らしてない範疇ですね……………………って、もうこんな時間!?」


 魔時計を見ると、昼の11時。

 太陽は高く昇っていた。

 ケンジは大慌てで身支度を済ませると、部屋を飛び出し、ダイニングに向かう。


「ケンジ!! 遅えぞクソが!!」

「ええ。……すみませんみなさん、お揃いですか?」

「シロマちゃんがまだ来て無いみたいだぜ」

「……シロマさんが……?」


 珍しい事もあるものだと思うケンジ。シロマは普段、早起きな方だ。昼まで寝ている事など、あまりない。


「しかし困りましたね。12時までに部屋を引き払わないと、延長料金を取られてしまいます」

「テメエもギリギリだろうがカス!! ――くそッ、叩き起こしてやるシロマのやつ!!」


 ユーシアはケンジを押し退けると、宿泊部屋の並ぶ廊下をズンズンと進んでいく。他の者は立ち上がろうとしないので、ケンジも渋々引き返し、ユーシアの後を追う。


 二人は『4号室』という札の下げられた部屋の前に着いた。シロマの泊まっている部屋だ。


「オラいつまで寝てんだシロマ! この怠けモンが!!! さっさと起きろコラボケ!!」


 木製の扉をバンバンと蹴り、ノブを力任せにガチャガチャ回す。天井からパラパラと埃や木片が落ちてくる。


(嫌な悪夢を見て、寝覚めが悪いというのに……この声量は鼓膜に響く……)


 ケンジは気づかれないように舌打ちをする。

 あまりにうるさかったので、他の宿泊客が、なんだなんだと部屋から顔を覗かせる。


 ――そのとき、ケンジが気付いた。


「…………なんか、部屋の中から変な匂いしません?」

「ああ゛!?」


 ユーシアが振り返る。


「変な臭いって……なんのだよ!?」

「ウンコかゲロみたいな……」

「ギャハハハハ!! 漏らして外に出れねえのかあ!?」


 ドカッ!!! バキッ!!! ズドン!!

 ユーシアによって扉が蹴り壊され、内側に倒れる。


「あーあ、壊れてしまった」

「弁償すりゃいいだろ!? このボロ宿屋がよ!!」


 悪態をつきながら部屋の中に入るユーシア。


「「う゛グッ!?」」


 鼻をつく臭いにえづく二人。

 酸えたような、焦げたような、言い知れぬ不快な臭いが部屋中に立ち込めている。


「臭え、臭えくせえっ!?」

「く……なんの匂いですかいったい」


 ベッドの上に、シロマの姿は見つからなかった。

 代わりに部屋の至る所に、汚物のようなものが撒き散らされている。壁や天井には、焦げ跡が残っている。


 流石のユーシアとケンジも、その光景に絶句した。


「……は? …………おい、な、なんだよ…………これ……?」

「わわわかりません。論理的に考えて、何かあったのでしょう……」

「何かって、なんだよ……!?」

「論理的に考えて……」

「……考えて……?」

「………………ウンコに爆裂系の魔法を撃ち込んだ、とか……?」

「……。」


 ユーシアは何も言い返せなかった。

 荒唐無稽なケンジの言葉に呆れたわけではない。


 むしろ、納得してしまったのだ。

 ふざけて汚物を爆発でもさせなければ、部屋がこんな惨状になるわけがない。


「思ったよりひどい事になって、逃げた、ってのか……??」

「さあ…………」


 ユーシアとケンジは首をかしげる。


「うわ、臭っ!?」

「この部屋、ドアが壊れてるぞ!」

「お客様ー、どうかされましたか?」


 扉の外のギャラリーも臭いに気づき、騒ぎ始めた。ケンジは扉の方に戻ると、宿の従業員に説明を始める。


「あ、宿屋の方。すみません、我々にも何が起きているのか」

「――おいケンジ!! ベッドの横んとこに、シロマの服が捨ててあるぞ!?」

「なんですって?」

「それに、腐った糞の袋みたいな、黒い塊がある。臭え、なんだこれ、スライムの死骸?」


 部屋の奥、ベッドと窓の間の隙間。

 シロマの服の残骸と、焦げたベッドシーツと、悪臭を放つドロドロした生ゴミのようなものが落ちていた。

 ユーシアは、恐る恐るそれ・・に近づく。


「――――う……っ」


 そしてそれ・・の正体に気づいたユーシアは




「うぎゃぁぁあああぁあああああああああああああああああああああああ゛あごおお゛おぉお゛え゛え゛えぇえええええええぇええビチャビチャビチャ!!」




 胃の中の山盛り揚げジャガイモを、ぶち撒けた。

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