10/21(水) 日野 苺②
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制服で遊びに行こうの会は午後より開催することになり、お昼休みを虎蛇で過ごしてから学校の外に出た。
他の学級は授業をしているし、校門から堂々と出ても拍子抜けするほど誰にも見つからなかった。
「コンビニでなんか買って、公園でも行くかねー」
学校前の坂を下りながら野中くんが提案すると、知実くんが脇道を見ながら、
「そういえば旧商店街に、おばーちゃんがやってる駄菓子屋があったはず。そっちでお菓子買わない?」
「わー、駄菓子屋懐かしいね、行きたい!!」
「なっちゃん地元なだけあって詳しいな」
全員大賛成で、脇道へと進行方向を変える。
道をしばらく進むと、町の肉屋さんを見つけた。
「ねえねえ、コロッケ揚げたて作りますだって! 1個80円だよー!」
「修学旅行生かよ。よっしゃ、男気じゃんけんしようぜー!」
言い出しっぺでじゃん負けした知実くんが買ってくれた田舎コロッケとかぼちゃコロッケを、みんなで回して食べながら駄菓子屋さんへと向かった。
駄菓子屋さんでは知実くんがしゃがんでお菓子を選んでいる間、あたしはスーパーボールくじを引き、野中くんは店前にあった10円ゲームを真剣にやって、思い思いに時間を過ごした。
なんだか小学生みたいな遊びを真面目にやってるのおもしろいなと思って、自然に頬が緩んだ。
駄菓子屋を出ると、今度こそコンビニで飲み物を買ってあとは公園に向かうだけ。
なのに、知実くんと野中くんはコンビニを出てからずっと、世界一どうでもいい言い争いをしている。
「あーあ、野中には失望だわ」
「いやいや、普通にたけのこの里一択だろ。きのこの存在意義がわからん」
「バカだな。きのこの山はね、手が汚れないんだよ? たけのこみたいな野蛮人種とは違うの。銀座マダムの食べ物なの!」
「銀座のマダムは食わねえわw つか野蛮ってなんだよ、きのこなんかモロで下ネタみたいな形しやがって」
「はあぁ? ふっざけんなよw おま、もう食えねえじゃん! つかたけのこも大概だからな!?」
ちょっと歩いているだけで下ネタだよ。ふざけんなはどっちもだよ。
「至高はきのこだっつの薄らハゲ!」
「はぁあ!? んじゃ日野はどっちだと思う?」
「ひえっ!?」
急に知実くんの向こう側にいた野中くんに話を振られて、飛び上がりそうになるくらい驚いてしまった。
「えっ……と、大丈夫だよ知実くん、そんなハゲてないと思うよ?」
「そっちの話じゃねーよ! って、“そんな”ってなに!! え、マジで!?」
「ぶはは!!」
「え、えー!?」
そのうち二人は顔を見合わせて、お腹を抱えて笑った。
「あーあ、日野って天然だよなー」
野中くんが指で目尻をぬぐい、知実くんは横っ腹を押さえて笑っていた。
「あははは。でもさ、最初はやべー人が来たって思ったけど、いちごって意外と良識はあるっていうか。いい意味で普通だよなー」
「ふ、普通!?」
思わず手で口元を覆ってしまった。
「だいたい、虎蛇が変なやつ多すぎだろ」
「そう。あの中にいると、いちごがいちばんまともで普通っていうか?」
「影薄いっていうか?」
「! それはばかにしてない!? あたしだってみんなみたいに、ボケてツッコめる!」
「ほう?」
むくれていると二人があたしを囲んで、わざと上から下までニヤニヤしながら舐めるように見てきた。
「じゃあいちご、お前の手できのこたけのこ戦争に終止符を打ってくれよ」
「自分だけ手を汚さないってわけ、ないよな?」
「そ、そんな大役をあたしが?」
無茶振りという、圧! こんないじわるある!?
うぅ〜〜〜。がんばれあたしっ。
「お…………お互いちょこっと歩み寄るべし! チョコだけに!?」
突如、あたしたちの間を突風が通り抜けた気がした。
「なんかごめんな……」
「これはひどい……」
「どうだった? 終止符打てた? うまかったよね? あっ、チョコだけに、うまい!!」
ワードセンスばりばりなところを見せつけたのに、なぜか目を合わせてくれなかった。
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