10/21(水) 日野 苺①
朝、いつものように小鳥遊家の玄関前で待っていると、知実くんが鼻歌を歌いながら出てきた。
「おはよ! あれ、なんだか元気だね?」
「いちごおはよーっす! ちょっと待ってて〜」
そのまま家の隣のスペースへと入り込み、年季の入った自転車を引っ張り出してきた。
「ふふーん。荷物、カゴに入れな」
「? 今日は自転車なの?」
「そ。音和が熱出して休みだから、チャリにしようぜ」
遠慮がちにカバンを手渡すと、前のカゴに入れてくれた。
それから自分のカバンを荷台に置いて、ぎゅっぎゅっと上からつぶしてならす。
「よし。俺のカバンの上に座っていいからね〜」
自分は自転車にまたがって、親指を立てる。
「ヘイガール! カモン!」
ん。……え!?
これはまさか……二人乗りってやつ!
「え、でもあたしこういうことしたこと……」
「俺を信じろ! パンツ見えないようにだけ気をつけくれたらいいから」
「う、うん。じゃあおじゃまします……」
荷台もといカバンの上に腰をおろすと、自転車が動いた。
知実くんの制服の裾を掴んだのを合図にスピードが上がる。荷台の横に揃えて投げ出した両足が、ふわっと浮き上がった。
わあ。
いつもと同じ道なのに、いつもと違う景色に見える、すごい!
でも!
「ね、重くない!?」
前に聞こえるように、少し声を張って尋ねる。
「え!? 羽のように軽いよ、お姫さまっ♪」
不安を吹き飛ばすように、シャコシャコと軽快に自転車を漕いでくれる。
「でも先に謝っとくけど、先生や警察に見つかったら終わるわな!」
「えーーー!!!」
「まあなんとかするから! 俺がニケツ登校やってみたかったんだー! 付き合ってくれてありがとーーー!」
明るくて、楽しそうな声。
「そんなっ」
いつも、付き合ってもらってるのは、全然あたしの方なのに。
「危ないから、もーちょっとくっついてもいいよー!」
危ないという言葉を聞いてとっさに頭を知実くんの背中に預ける。でも、これってどうなの? と、ふと我に返った。
その瞬間、片手が伸びてきて腕を掴まれた。そして、腕を腰の前へと誘導される。
知実くんの腰回りをしっかりと抱きしめる形になって、思わず小さく叫んでしまう。
「よっしゃあ! 行けゲロックス2号! 坂までスピード上っげまあぁあーーっすう!!」
「声、裏返っ!? っきゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
無茶なスピードで自転車がするすると商店街を抜けていき、通行人が驚いてポカンと見送っているのが横目で見えた。
楽しい。楽しいけど。
学校の坂の下でおろされるまで、生きた心地はしなかったよねーーー!
………………
…………
……
「ねえねえ。制服で遊びに行くなら今日かなーって思うんだけど、いちごバイトあったよな? 放課後は無理だから日中に行くことになるけど、授業もないし、いい?」
「……」
「でもさ、昼間に制服で歩いていたら補導されかねないから、王道のショッピングセンターとかカラオケとか、ボーリングみたいなのは無理でしょ。もはや駅前とかじゃない方がいいかもね」
「……」
「そうなるとなー、海は飽きてるじゃん? 制服で山登りもなー。もしかして日中の制服って結構縛りきつい? どー思う?」
「待って待ってよ、知実くん。まず直近の反省をしよ? 思ってた二人乗りと違ったんだけど!」
男女の二人乗りってそりゃあちょっと憧れだったよ?
でも、もっと優雅じゃない? アハハウフフ感ゼロだったし。もー、めちゃくちゃ怖かったし!
まだ少し震えがおさまらない足を引きずりながら二人でロッカーに向かっていると、ちょうど野中くんも校門から歩いて来た。
「おはよー。……あれ、なんで日野、腰抜けてるの?」
「朝から誰かさんのおかげで、腰が砕けましたっ」
「えー、でも俺下手じゃないと思うんだよなぁ。ちょっと速かったのは悪いなとは思うけど、飛ばしてなんぼじゃん、こーいうの」
「それだよ! 知実くんが自信満々だったから、初めてでも安心してまかせたのに、超怖かったー!」
ふくれっ面でぶーたれる知実くんに、ふくれっ面で応戦する。
そばで黙って聞いていた野中くんが、あごを触りながら首を軽くかしげた。
「……朝から熱烈な下ネタはやめてくださる?」
「違うわ!!」
!?!?!?
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