7/19(日) 小鳥遊知実①
嗚呼。なんという快晴。
パラソルの下に腰をおろして海を眺める。毎日見ても飽きない。でかくていい。ぼんやりできるのがいい。
「知ちゃん! カニ! VS あたし!」
見飽きているだろう音和だって、カニを追いかけて遊んでいる。羽織っている白いパーカから足が2本にょっきり生えている姿は、下が水着なのを想像させた。
「なっちゃん☆ おいっすうう!」
道のほうから声をかけられ振り向くと、いつも通りポニーテールに髪を結んだ七瀬が立っていた。
グレー地にボタニカル柄が入った大きめのラッシュガードを着て、黄色いビーサンを履いている。手には大きな浮き輪。頭にはゴーグルとシュノーケル。
……目立っていた。
「よーなっちゃん。って、おい、パラソルあるじゃん」
そのあとに野中。白Tにピンクのキャップ&海パンで、ユーチューバーみたいな格好だった。
……このクソ田舎ですげえ派手なビジュアルのカップルだな。
よく見るとバッグとは別に、大きなパラソルを抱えている。
「あ、ありがとうってば!」
七瀬が振り返って気まずそうに言い訳してる。
「だってしおりん先輩、日に弱いし。あったほうがいいかなって思ったの!」
「あー詩織のか、なら運ぶのもやぶさかではねーな」
「なにその扱いの違いー!」
プンスコしている七瀬を無視して野中だけ砂浜に降りてきた。
俺の隣で立ち止まるとおもむろに、地面にパラソルのポールを突き立てる。
「しかし晴れて良かったなー」
「な! 手伝おうか?」
「手伝うまでもなしっ」
言い終わる前にパッと、七色の傘が咲いた。
「あ、かいちょー! しおりん先輩!」
俺たちに背を向けて、七瀬が手を振っている。ほどなくして凛々姉と葛西先輩が砂浜の入り口に現れた。3人で歩いて来て、パラソルの前で止まる。
「ご苦労様。今日の保護者はあたしだから。存分に遊び散らかしなさい!」
「保護者って。俺ら年変わんないっす……」
くすくすと笑う葛西先輩は、白いワンピースにパステルブルーの上着を羽織り、黒いレースの傘をさしていた。
「こんにちは、小鳥遊くん」
「先輩ー! 今日のお嬢様コスも最高ですね」
「うふふ。見学組です。小鳥遊くんがいるなら水着も着てみたかったんですけど……」
「俺も先輩の水着なら着てみたかったです!」
って違う! 見惚れていて、脳内の言語処理が追いつかなかった結果がこれである。
隣でバッチリ聞いていた野中からは、「きもい」といわんばかりの視線が突き刺さって痛かった。
「せ、先輩こちらへどーぞっ」
罵倒される前に、さっさとパラソルの下にご案内しておくことにした。
「ところで日野は?」
Tシャツ短パン姿の凛々姉がきょろきょろと辺りを見回す。
「そういえば着替えに行くっていったっきり、帰ってこないな」
たしか水着に着替えてくるとか言って……。
「あ。いた」
音和が立ち上がって指さす場所を目で追うと、海の家の壁に隠れるようにして、こちらを伺っていた。なにやってんだ、あいつ。
「ん」
「「御意ッ」」
それがたとえアゴでの指示であろうともっ! 反応して俊敏に動く凛々姉の犬こと俺と音和! ダッシュで建物に行き、少女の腕をそれぞれ両側からつかんで連行する。
さて、みんなのところまで戻って来たけど、いちごは頬を押さえてしゃがみ込んでしまった。
「なるほど」
なにがなるほどか。しかし上から下までなめるようにして観察している野中の図太さ、見習いたい。
「なんか意外」
野中の隣で音和も首を傾げている。
「ち、ちがうのっ! 学校の水着入れてたのに、なぜかグラビア水着が入っていて。『いちごちゃんガンバ』って手紙つきだったんだけど、たぶん妖精さんの仕業だよー!」
そんな得体もしれない水着、着たんかい……。
うずくまって半泣き状態のいちごを改めて見る。ヒモ部分が細い、シンプルな白いビキニ。見たことあると思ったらそういうことか。
うちの母親がこないだ「勝負水着よ☆」って新しい水着を買ってきて無理やり見せられたの地獄かよと思ってたけど、あれ自分のじゃなかったんだ。……良かった。
さっき一緒にウチで昼飯食ったときに、水着を取り替えたんだな。
……母親GJッ!
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