6/30(火) 小鳥遊知実①
「~~テストに出るぞー」
教師がなんか言ってるけど……だめだ、頭に入らない……。
「わ、ちょっと知実くんってば!」
頭を隠すように覆っていた腕を、つんつんとなにかがつつく。少し顔を上げると、斜め前のいちごがなぜか血相を変えていた。
「今のテストに出るって。ちゃんと聞いてたほうがいいよ!」
「むにゃー」
いちごの言葉が外国語みたいに、よく理解できない……。
「あきらめなよ、いっちー。もう起きないよこの人」
「でも……」
「最近しおりん先輩と勉強張り切ってるし、遅くまで起きてたんでしょ。ホントにもー、大事なところで寝るとか超絶バカだねー。どーせあとでノート見せてって騒ぐんだから、あたしたちはよく授業聞いとこっ!」
「そだね、うん!」
いちごの声も七瀬の声も聞こえなくなり、教師の声だけ子守唄のように心地良く耳に届く。
なんでこんな眠いんだろ……。薬飲んだ上に頭使ってるからかなあ。
ぐう。
┛┛┛
ずるずると野中に引っ張られて屋上に到着した。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「ダメかもー」
あくびをしながら答える。寝ても寝ても、物足りなし。
「そこまでして、なっちゃんが虎蛇に固執する理由がわかんねーんだけど」
野中には勉強の理由を話していた。いぶかしげな顔の横で、俺は屋上のフェンスにもたれかかって、うつろな目を空に向ける。寝起きにはまぶしすぎるぜ……。
そりゃ、虎蛇会はただのクラブ感覚ではあるけど。
「野中も言ってくれたよな。俺と“今”を精一杯楽しみたいって。……そーいうことだよ」
来年になるともう、凛々姉も葛西先輩もいない。このメンバーは今だけのものだ。それに、俺にとってもこれが最後なわけだし。
「そうかー」
野中は大きく息を吐くと、眉間のシワを解いた。
「心配もしていたけど、嫉妬もあるかな」
「ははは。お前がいちばんに決まってるだろ貴臣」
笑ってみるが、やっぱ、調子が出ない。
「あ、そーだ。俺のテストがうまくいったら野中にお願いしようと思ってたんだけど」
「珍しいな。なに?」
「虎蛇のメンバーになってよ」
昼メシに誘うように、さらりと声をかける。
「あー……」
気のない返事をして、野中もそのまま空を見上げた。部活だって、自分の時間を取られるのが嫌だといって入ってなかったしな。この反応は予想済みだ。
「……夏休みに合宿を企画しているのだよ」
じりじりと初夏の太陽が俺たちに降り注ぐ。額に浮かぶ汗を手でぬぐって続けた。
「で、男、俺ひとりじゃん。ちょっとそれもどうかと思うからさ。来てほしいなっていうのが正直ある」
「なるほどねー、マジじゃん」
「はは。女子嫌いの野中にはちとキツいか?」
モテすぎるが故の悩みなのだが、うらやましいのと同情の半半だ。
「めんどくせーけど……まあ、そうだな。夏休みヒマだし」
「意外に素直ね。でもそう言うと思ってた」
「へー。なんで?」
「だって、俺が楽しそうだろ?」
ゆっくりと親指を立てる。
「すっげー自信!」
野中は笑った。
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