6/30(火) 小鳥遊知実②

 夏の暑さは夕方でも容赦なく体力を奪いにくる。校門前に立っていると、見知った顔が歩いてきた。



「あら?」

「凛々姉ー。よお」



 彼女は俺の前で足を止めた。



「勉強がんばってるそうじゃないの。今日も詩織待ち?」



 凛々姉はきょろきょろと周りを見ているが、残念ながら、俺ひとり。



「音和、かな。今日は勉強会やめてもらったんだ……」

「なによさっそくサボリ? 情けないなーチュン太」



 そしていつものように、バンバンと背中を叩かれる。

 たったそれだけのことなのに俺にとってはもうダメだった。

 眉間がギリギリときしみ、目の前が白くなる。足から崩れてうずくまった。



「ど、どうしたの!? そんなに強く叩いてないわよ!? 大丈夫なの、ちょっと!!」

「うー……」



 めまいがひどい。言葉がうまく出ない。



「体調悪いの? どこがつらい!?」



 凛々姉が隣にしゃがみ込み、背中をさすってくれた。下校中の学生は俺たちを横目で見ながら通り過ぎていく。校門前で恥ずかしいけど、動けない……。どうしよ……。



「小鳥遊くん! 小鳥遊くんっ!!」



 どこか遠くから名前を呼ばれた。そして誰かが走ってくる足音が聞こえる。



「えっ、ちょっと詩織っ!?」



 凛々姉の言葉を疑うわけではなかったけど、その目で確かめたくてゆっくりと顔を上げた。

 おーー、なんだと。上履きのままこの炎天下を、走ってくる葛西先輩が見える。これは幻覚?



「っはあ、はあ、はあ……」



 いや、幻覚じゃない。俺たちの側で彼女は立ち止まった。



「と、と、部田さん。っはあ、はあ、はあ……。ほ、けんっしつに……たかな…っし、はあ、くんを!」



 って、呼吸の乱れ方が尋常じゃない!? どんだけ走ってきたんだよ。

 頭が痛くて割れそうだしまぶたが重いはずなのに、どうしても心配で、様子を見ていないとって思って目を開いてしまう。



「わかってる。でも詩織、あんたもよ」



 凛々姉は葛西先輩がふらつくのを支えた。逆の手で俺の腕を引いて立たせてくれる。



「あんたも歩ける?」

「うん、なんとか……」



 ちょっと座っていたら落ち着いたので、俺もゆっくりと立ち上がった。

 音和来なかったな。あとでメッセージしとくか。

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