いざ、情熱と風花の舞!

「さて、やりましょうか」


 既に撮影は開始している。メニューから選んで動画撮影を開始すると、どこからか空飛ぶカメラのような物が現れて私を写しはじめた。どうやら戦闘中はカメラに攻撃が当たらないよう、自動的に移動しながら空撮してくれるらしい。


 カメラはすぐさま透明になったので、オン、オフするとき以外は見えない仕様なのかな。自分がイエーイと手を振れば空間が歪んでなんとなく私を真正面から映せる位置に移動したのが分かる。配信自体は問題なさそうだ。


 場所は相変わらず草原。しかし目の前にはグレイウルフの群れがやってきており、爛々とした視線をこちらに向けてくる。黒いオーラの中、暗闇に溶けて沈みこむ赤い瞳が特徴的だ。まさに闇落ちした感じの雰囲気である。


「私、『ケイカのブリーダーチャンネル』へようこそ。今からするのは、あのグレイウルフの群れを相手にした効率的な『撃退』の仕方となります。不殺プレイの参考程度にしていただければ幸いですね」


 群れを発見してから数十分。マークしつつ、別の魔獣相手に戦闘の練習をして、いざ本番! 今回は動画であって配信ではないのでいくらか緊張はほぐれているが、やはり人に見せるものとなると多少の緊張がある。ほっぺた引きつってないかな? 


「いざ、参る」


 大型犬よりもなお大きくなったオボロに跨り、腕の中に閉じ込めたアカツキを撫でる。そうして睨み合っていたグレイウルフの一匹が動き出したことで均衡が崩れ、群れが一斉に襲いかかってきた。


「【緋扇の舞】……アカツキ、行って」


 オボロの上で舞うように鉄扇を動かす。実はこのスキル、舞とはついているが『扇子』を使う舞のスキルなのでステップなどは省略していても、ちゃんと扇子さえ動かしていれば発動するのである。


 炎のように揺らめく燐光がアカツキとオボロに宿り、二匹の力がアップ。

 先鋒で向かったアカツキはグレイウルフ達の【ウルファング】をものともせずに火の粉を纏った緋色の翼で受け流し、火の粉を纏ったまま回転しながらの【足蹴り】や【飛び蹴り】を脳天に叩き込む! 


 グレイウルフはどうやら進化先のスノウホワイト・ウルフと同じく属性が『雪』であるらしく、属性『晴』の効果が乗った蹴りが大ダメージとなるのだ。


「ガウッ」

「ケェーッ!」


 攻撃を防ぎ、受け流すたびに緋色の燐光が舞う。相殺された技のエフェクトが、太陽にキラキラと反射してとても綺麗だった。


「グアゥ!」


 群れのリーダーらしきグレイウルフが大口を開ける。


「オボロ」

「ウォン!」


 一拍遅れてグレイウルフの口から放たれた雪属性ブレスの目の前に踊り出す。


「んん……」


 オボロの毛皮に沈み込んだ着物が擦れて、少しだけ声を漏らした。器用値があるとはいえ、この体勢辛いな……。練習している間に【騎乗】スキルも手に入れたのだが、それとこれとは別らしい。


「アオオオオオン!」


 グレイウルフの雪属性ブレスと同じく雪属性のオボロの【風花の調べ】がぶつかり、途中で淡い水色のエネルギーの燐光となって相殺される。そこにすぐさま頭から突っ込んでいき、【スカウト】効果の乗った白く光る鉄扇でグレイウルフの頭をひと撫で。攻撃しないのがポイントだ。

 なにせ、【スカウト】効果の乗った物で接触するだけでいいわけなのだから。


 地面に足をついてまた跳ねるオボロ。そうして次々にグレイウルフの群れの中を攻撃を受け流し、相殺しながら浮島を渡るようにして接触を繰り返しつつ飛び跳ねながら移動した。

 アカツキが転倒状態にさせたグレイウルフには【スカウト】効果と【送り狼】のスキルを乗せたオボロの体で接触・軽い体当たりを行う。


 こうして全てのグレイウルフに接触した頃には、全体の六割程から黒曜石のような宝玉が転がり落ち、四割は頭を下げてからすたこらさっさと逃げていくのだった。


 逃げていくグレイウルフは追わずに「ばいばい……です」と言いながら手を振って別れる。ここで仲間にならなかった魔獣相手に追い討ちをするプレイヤーもいるが、私は不殺プレイをしているのでそれはしない。


 残った六割程のグレイウルフの宝玉を集めて、動画撮影中という文字の入った空中に浮かぶカメラに見せる。


「はい、戦闘開始から十分程でどっさりです。弱らせていると宝玉が出やすいので、聖獣と協力して手加減しながら【スカウト】していくと効率が良いと思われます。なにかの参考になりましたら嬉しいです」


 軽く微笑んで宝玉をオボロにかざす。

 同じ魔獣の宝玉は一匹目が聖獣として仲間になったあとは、二匹目を仲間にするか、同じスキルを持つ聖獣に使ってスキルレベルを上げる経験値にするか、もしくは宝玉ひとつにつきステータスポイントを二取得するか選べるらしい。同系統ならば、こちらが進化していても使えるのだ。


 宝玉は魔獣の落とす涙のようなものなので、こうして消費しても魔獣を殺して経験値にするわけではない。仲間にはならないが、しばらくは心が癒されてシステム的に人を襲わなくなる……という名の雲隠れをするらしい。どこへ行くのかは不明。いつのまにか消えている。


 しかし公式の攻略法にはこれでも不殺扱いになると書いてあったので問題はない。


「群れは二十匹いましたから、十二個分の宝玉ですね。きらきらとしていて綺麗でしょう? 私達の戦闘も楽しんでいただけましたか? これからも、こうして不殺の状態で魅せプレイをしていきます。自称ブリーダーのケイカでした」


 カメラに向かってご挨拶。


「よかったらチャンネル登録、してくださいね」


 精一杯のウインクをして撮影を切る。

 どっと疲れたが、楽しい時間だった。

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