満腹

まぁ予想通りというか、お風呂場も想像以上の広さでまるで大浴場だ。こんな機会なかなか無いが、落ち着かないので早く出た。

 

『あ、おかえり。』

ふんわりとした雰囲気僕に笑いかけるだけで心臓が締め付けられる。重症だ。

『ただいま。....なんか美味しそうな匂いする。』

気づいてくれたのが嬉しそうに琥珀は答える。

『軽くご飯作ったから食べない?俺、誰かと食事するの久しぶりなんだ。』

もちろん断る理由なんて皆無だ。嫌いな物が出てきたとしても喜んで食べよう。

『お腹空いてたんだ、ありがとう』僕のその言葉に彼ははまた八重歯を見せながら笑うんだ。

『オムライスと…これは何のスープ?』

机に並べられた綺麗な形のオムライスに均等にケチャップがかかっている。その横のマグカップに微塵切りされた人参、ピーマン、玉ねぎなどが入っている。優しい香りがする。

『うーんそれはね、僕が適当に味付けしたから特に何のスープってわけでは無いかな。強いて言うなら余り物スープ?』頬を少し掻きながら自信がなさそうにそう喋るその一つ一つの動作でさえ美しくて目を奪われる。

『そっそっか、凄く美味しそう。いただきます。』しっかりと手を合わせ彼の目を見てそう言った。琥珀はただ微笑んで頷いた。

オムライスもスープもびっくりするくらい美味しくて家庭の味、というよりはお店で食べるようなしっかりした味付けで説明するのが難しいけど…と拙い日本語で伝えると琥珀は静かに頷きながら最後まで聞いてくれた。

『…ありがとう。手料理を褒められるとこんなに嬉しいんだね。相手が結人だからかな?』なんて照れながらも少し意地悪な表情で言ってくるから僕が照れた。首まで赤くなってるんじゃないかと思うくらい首から上に血が集まってくるのを感じる。焦って話題を変えた。

『でもこんな広い家に一人暮らしってすごい贅沢だな。こんな生活一度でいいからしてみたいよ。』

『…じゃあ、代わる?』さっきまで魅力的でしかなかった彼の三白眼がヒヤッと背中に悪寒が走るくらい怖かった。


思えばこの時既に様子がおかしかったのに気に留めなかった自分が憎い。

こればっかりは後悔しても遅すぎるのに。

 

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