落雷

一瞬だったのに体感では何秒にも感じられた。

手元を見ると彼は小さいビニール袋一つしか持っていない。傘は?差さないタイプの人なのか?いやそんな人でもこんなに降ってるとさすがに差すんじゃないのか?それともお金が足りないのか?

一気に色んなことを考えてる間に彼は視界から消えていた。


 その瞬間、本能で外へ飛び出していた。

ぬるくなったお茶もまだ水滴一つついてない傘の存在も忘れて。


この一瞬でどこに行ったんだ…右を見ても左を見ても見当たらない。もう濡れる事なんて全く気にならなかった。この感情は一体何なのか。鳴り止まない鼓動の理由は何か。

駆け足で確認したコンビニの駐車場の裏に彼は居た。


 『...どうしたの?』

 あぁ、声まで綺麗なのか。

初めて聞いた声なのに何の違和感もなく、幼い頃の母の子守唄のように心地よくむしろ高揚さえするように透き通っている。世界の音が一瞬止まったようにはっきりとその声だけが僕に聞こえた。

 何か話さなければ…そう思うのだが声が出てこない。

 『……大丈夫?』

 唇以外一ミリも動かない表情がまるで造り物みたいに綺麗で思わず一歩退いた。

 『あっ…えっと傘は?』

 僕がそう聞くと彼は少し目を見開き

『そう言う君こそ傘…差さなくていいの?』

 俺より濡れてると思うよ。そう言って僕を見つめる三白眼と少し上がった口角からクックッと小さな笑い声が漏れた。それを見た瞬間に僕は悟ってしまった。


まるで雷が落ちたように、名前も知らない彼に僕は愛に堕ちた、と。

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