第三十六話 トムとサム

僕がリッチモンド侵略軍の捕虜から話を聞く為に、リッチモンド近くの収容所に行ったのは、アメリカ合衆国軍のリッチモンド攻撃から2日後のことだった。


何で、そんな所に来たのかだって。

それは、もともとアメリカ連合国ジョン・ブルック中佐からの依頼だったんだよ。

僕の見て聞いたことをアメリカ連合国が発表したいって言ってね。

前にワシントン無差別攻撃の時に取材して書いたのと同じ感じかな。

著名な君の文章で世界に真実を伝えたいとか言ってね。

そんなこと言ったって、僕の書いた文章の内、アメリカ連合国に都合の悪いところは削除するんだろうに。

ワシントン無差別攻撃の時も、そんな感じだったからさ。

もう、諦めているんだけど。


僕だって、色々考えて文章を書いているんだから、せめて、ここを削って貰えませんでしょうかとか言ってくれば良いのに。

勝手に文章削って、勝手に書き換えるから、おかしな文章になることが多いんだよ。

だから、まあ、今回の文章に変なところがあったら、僕の所為じゃないのは判ってくれよ。


え?そんなんだったら、話を聞いて文章を書く意味なんてないんじゃないかって?

その気持ちは解るよ。

実際、ワシントン無差別攻撃の文章を読んだ時は、本当に頭に来て、書くんじゃなかったと僕も思ったから。

でも、今回の戦いは未曾有の大戦果。

10数万の侵略軍に対し数万の兵士が、ほとんど犠牲もなしに、敵を壊滅状態にして勝利したんだよ。

その上で騎馬兵は壊滅。合衆国の大砲を大量に鹵獲。

凄いよね。

そんな凄い戦果なら、実際に何が起きたか知りたいという気持ちが大きくて。

それで、この仕事を引き受けたって訳さ。


収容所に行く前に、ブルック中佐の紹介でリー将軍とかにも会ったんだけどね。

軍事機密で教えて貰えないことも多くて。

だから、今回、戦場を実際に見て来た捕虜の目から見た状況に凄く興味があったんだ。


仮設の捕虜収容所に着くと、僕は何人かの捕虜に会ってきたんだけど、その中に彼はいた。

僕は、彼に会うと、他の捕虜に対してと同じ様に、自己紹介して、握手の為に手を指し伸ばす。

彼は、他の捕虜と同じように少し驚いたようだったが、すぐに手を差し出し、握手に応じてくれる。


「初めまして。僕はサミュエル・クレメンズ。サムと呼んでくれ」


僕が名乗ると彼は少し首を捻り尋ねる。


「サミュエル・クレメンズ?もしかして、日本遊覧記を書いたマーク・トウェイン先生ですか?」


僕は思いがけない言葉に少し嬉しくなって、声を上げる。


「ああ、そのマーク・トウェインだよ。

君は、僕の日本遊覧記を読んでくれたのかい?」


「ええ、先生の文章は、難しい文法や単語も使いません。

それなのに、読むのと楽しくて、美しい情景が浮かんで来る。

僕は先生の書くものが大好きです」


「先生はやめてくれ。

サムで良いよ。

だけど、最高の誉め言葉だな。

君は、前から英語が読めたのかい?」


僕がそう尋ねると、彼は少し口ごもる。

それで、僕はピンと来ちゃったんだ。


「なるほど、僕の本は、君が英語の読み書きを覚える為の教材の一つだったという訳か」


イタズラを見つけたような気分でそう言うと、彼は苦笑を浮かべて応える。


「その通りです。

参ったな。

でも、あなたの本が好きなのは、本当ですからね。

気を悪くしないで欲しいな」


「気を悪くする?

とんでもない。

どんな形であろうと、僕の本を読んで、気に入ってくれた人は大事な僕の読者さ。

僕の本が君の読み書きの勉強の役に立ったなら、それも嬉しい位でね。

だけど、君はどうして、読み書きなんて勉強したんだい?」


「黒人が読み書きを学ぶなんて、おかしいと思いますか?」


彼がそう尋ねると、僕は正直に答える。


「いや、僕の実家にも黒人奴隷はいてね。

奴隷の子供もいたから、彼らは遊び友達で。

だけど、僕の友達で、積極的に読み書きを覚えようとする奴なんて誰もいなかったんだ。

女中のジェニーは、まあ、僕の二番目の母さんみたいなもんだったんだけど、そんな僕に、遊んでばかりいないで、勉強しろ、読み書きを覚えろと叱ってきたけどね。

自分も英語の読み書きなんて出来ないのに。

だから、純粋に不思議だったんだよ。

どうして、君が読み書き出来るように勉強したんだろうって」


僕がそう答えると、彼は口元を緩める。


「なるほど、あなたには、黒人の遊び友達がいたのか。

だから、こういう態度な訳か」


彼は納得した様に頷くと、僕の質問に答える。


「南部にいる奴隷が読み書きの勉強をしないのは、生きる上で必要がないからですよ。

中には、それでも、好奇心から勉強したいと思う変わり者はいるかもしれませんが。

読み書き出来なくても、南部では食べられる物の量は変わらない。

仕事の量も内容も、ほとんど変わらない。

それなら、勉強したいと思う者は多くないでしょう」


「南部は、って言うと北部では違うと言うの?」


「ええ、全然違いますよ。

読み書き出来ると出来ないでは、給料が全然違う。

単純作業だけじゃ、南部にいた時よりも、黒人は白人よりも食べられない。

それなら、勉強するしかないでしょ」


「北部は奴隷を解放すると言っているけど」


「奴隷を解放すると言っても、あなたの様に、黒人を白人と同じように扱うとは言ってませんからね」


そう言うと彼は肩を竦める。


「この辺が、南部の人たちが私から聞きたいことなんでしょ?」


彼がそう言うと、今度は僕が苦笑する。

確かに、アメリカ連合国の指導者、ブルック中佐辺りは良い宣伝材料と考えるかもな。

それとも、リンタローかな?

ブルック中佐の隣に、日本で会ったリンタローが従者として着いてきていたのには本当に驚いたよ。

彼は日本で僕が会って話した中でも、飛び切りの切れ者の一人だったからね。


「逆に、私も不思議なんですよ。

サム、あなたは、大英帝国艦隊のワシントン襲撃の時には、大英帝国艦隊のワシントン市民への攻撃を非難する文章を、アメリカ合衆国から出していませんでしたか?

それなのに、どうして、今回はここにいるんです?

あなたは、アメリカ合衆国を支持していたんじゃありませんか」


彼の言葉を聞いて感心する。

やはり彼は賢いな。

この状況で、僕と自分の立ち位置をちゃんと理解している。

他の連中も、この半分も賢ければ、良かったんだけど。


「さっきの話で分かったと思うけど、僕は元々南部のテネシー州の出身なんだよ。

日本旅行の頃から合衆国政府と縁が出来て、ワシントンに残っていたんだけどね。

そんな時に、この戦争が起こってしまって。

で、リー将軍の様に、僕も故郷に帰って従軍しようかなと思った時に、起こったのがワシントン無差別攻撃だったんだよ。

勘違いしないで欲しいけど。

僕が、ワシントン無差別攻撃を非難したのも、嘘じゃないからね。

やっぱり、外国の力を借りて、アメリカ市民を無差別攻撃するのは間違っていると思うよ」


僕がそう言うと、彼が尋ねる。


「しかし、それなら、そのまま、合衆国に残っても良かったのではありませんか?」


「いや、やっぱり僕の故郷はアメリカ連合国にあるからね。

家族も連合国に住んでいるし。

ワシントンの仕返しで、南部を火の海にしてやれ、なんて声を聞くと、やっぱり、南部を守りたいと思っちゃって」


「なるほど、それで、ここに来たという訳ですか」


彼が納得した様なので、僕は本来の目的を話すことにする。


「そう。最初は、兄さんたちみたいに、アメリカ連合国軍に従軍するつもりだったんだけどね。

僕は従軍するより、文書を書いた方が連合国の役に立つと言われて。

今回、僕は、この戦いで何が起きたか知りたくてやってきたんだ。

僕は真実を知って、それを皆に伝えたい。

だから、アメリカ連合国の軍の悪口も自由に言って貰っても構わないよ。

僕は、本当のところ、何が起きたか知りたいんだ」


僕がそう言うと彼はため息を吐いて、尋ねる。


「しかし、私が言ったことは軍に報告されるのでは?

それでは、結局南軍に都合の悪いことを言ったとして、待遇が悪くなるのではありませんか?」


僕は、その一言で、益々彼が気に入ったんだ。

やはり、彼は中々に冷静で思慮深い。

僕は、これまでに何人かの捕虜とも面談をしていたんだけど、何を言っても大丈夫だと言うと、すぐに恨み言を言い始める連中が多かったんだ。

その上、言う事は、感情的で、どうも客観性に欠ける話ばかり。

罠に掛けて卑怯だとか、檻に閉じ込めて何百丁もの銃で撃たれたとかね。

リー将軍から作戦の内容を聞いていた僕から見ると、あんまりにも現実が見えていない感想ばかりでね。

それに比べると、彼の冷静なこと。

僕は、彼からならば、この戦いの真実が知れると思い、何としてでも彼を口説き落とし、この戦闘の真実を明らかにしたいと思ったんだ。


「まず、捕虜にした時に約束した通り、君はアメリカ合衆国の捕虜として扱うよ。

元奴隷として、元の持ち主の元に戻したりはしない。

その上で、連合国をどんなに非難しても、その待遇を悪くすることはない」


そう言うと、僕はブルック中佐から貰った念書の写しを彼に渡す。


「字が読めるなら確認出来るだろう?

あの奴隷人権宣言を書いたと言うブルック中佐の署名だ。

ここに書いてある通り、君が何を話そうと君の待遇が悪くなることはない。

それに、僕は君と友達になりたいと思っている。

僕は、友達を裏切るようなことはしないよ。

それは、僕のファンなら、解ってくれると思うけど」


僕がそう言うと、僕の差し出した文書を確認した上で口元を緩める。


「確かに、そう書いてありますね。

その上で、友達の保証ですか。

でも、サムは合衆国を裏切って、連合国に来ているからな」


彼の口元が緩んでいるのを見て、僕は彼が益々好きになる。

ふざけて、からかって来ているんだ。

僕も、面白くなって、大げさに振舞って見せる。


「いやいや、さっき言った通り、僕は、元々南部の人間だから。

ワシントンを裏切って、こっちに来た訳じゃないよ。

そもそも、ワシントンの連中が僕の文章に勝手に手を入れて、頭に来た位なんだから。

先に裏切ったのは連中の方だって」


そう言うと、僕は手を上げて宣誓する。


「僕は君の友達として、作家マーク・トウェインの名に懸けて誓う。

君が何を言おうと、僕は君を守って見せる」


僕がそう言うと彼は苦笑して、答える。


「わかったよ。

ファンとして、あなたを信頼しましょう。

だけど、僕は正直に何でも話ますよ。

アメリカ合衆国だけでなく、アメリカ連合国に都合の悪いことも。

その為に、せめて、私の名前は隠しておいて欲しいんだけど」


彼がそう言うと、僕は暫く考えてから応える。


「わかった。

君の名前を隠そう。

そうだな、君のことはトムと呼んで良いかな。

アンクルトムの小屋のトムと同じ名前。

なかなか、皮肉が効いていて良いだろう」


僕の提案に彼は苦笑して、頷いてくれる。


「わかった。

じゃあ、私のことはトムと呼んでくれ、サム。

で、何から聞きたいんだい?」


こうして、トムからの取材が始まったんだ。


「じゃあ、まず、トムが従軍した理由を聞かせて欲しい」


僕がそう聞くと、トムはため息を吐いて応える。


「奴隷を解放する為。

黒人の自由と平等を確保する為の信じている仲間は結構大勢いますよ」


「その言い方だと、君は信じていないみたいだね」


「黒人と白人が平等なんて夢物語でしょ?

守られるあてのない約束の為に、命を懸けるなんて、正直したくありませんよ」


「どうして、そう思うの?」


「自由州(アメリカ北部のこと)では、戦争が起こる前から、サムみたいに、黒人を対等の友達だと思う白人は少ないんですよ。

金持ちは黒人は白人よりも安く扱き使える労働力だとしか思っていない。

貧しい白人は、黒人は自分たちの仕事を奪う敵だと思ってる。

関係ない白人の多くも、黒人は貧しくて汚い犯罪者予備軍だと思っている。

そりゃ、貧しくて生活に困れば犯罪に手を染める奴もいるかもしれませんが。

黒人だから、犯罪者って訳じゃないでしょ。

戦争のない状況でこれですからね。

奴隷を解放したところで、その待遇が変わるとは思えませんよ」


トムの言葉に僕は首を捻って尋ねる。


「それなら、何で、軍に志願したんだい?

戦っても、戦わなくても同じだと思うなら、戦場に来ない方が良さそうだと思うけど」


「黒人の解放の為に、白人が戦い血を流しているのに、お前たち黒人は何もしないのかという無言の圧力があったからですよ。

あのまま、工場で働き続けようとしても、雇い主に首にされたかもしれない。

同じ工場で働く白人にリンチにあったかもしれない。

そう思って、まあ仕方なく志願したんですよ」


やっぱりトムは賢いな。

と言うか、賢くて、周りが見え過ぎて、生きづらいんじゃないかと心配になるレベルだよ。

まあ、この辺は、アメリカ連合国のお偉いさんも世界に伝えたいところだろうから、もう少し聞いておくか。


「それで、軍に入ってどうだった?」


「予想通りの差別待遇でしたよ。

アメリカ合衆国有色軍というのが用意されていて、黒人、原住民は全部そこに配属。

一応、名目上、給料は白人と同じということになっているんですが。

白人には無料で装備が配布されるのに、黒人が装備を欲しければ料金を払ってお願いするしかない。

で、その料金のおかげで、黒人の給料は実質白人の半分。

おまけに、料金を取るのに、配布される装備は中古品ばかり。

その上、料金を払っても、物資不足から、銃どころか、軍靴も配布されない者も結構いて」


「予想以上に酷いな。

僕も北部にいたけど、、そんなことになっているとは、気が付かなかったよ」


「さあ、国の方針として、そう決まっている訳ではないかもしれませんね。

でも、多くの白人は黒人を見下している。

それは、南部でも変わりませんが。

黒人は白人よりも劣る者。

だから、白人と同じ待遇なんて、とんでもないと感じている白人が多く、こんな待遇になっているんでしょうね」


悲し気にトムが呟く。

黒人の友達もいたし、日本に行って確信したけど、優秀かどうかなんて肌の色と何の関係もないんだよな。

白人にもバカな奴はいる。

黒人や東洋人にも優秀な奴はいる。

トムは、間違いなく、優秀だっていうのに。


「じゃあ、今回のリッチモンド侵略軍で黒人の犠牲が多かったのは、その差別待遇の所為なのかい?」


「まあ、そうでしょうね。

黒人は白人よりも、兵としても劣っていると白人たちは考えている。

黒人が白人と戦っても勝てないと考えている。

だから、斥候とか危険だけど戦力とは関係ない任務が主な任務になりますから。

今回は、リッチモンドを囲う柵を破る最前線に、有色軍は配置されたんですよ」


黒人解放を謳いながら、黒人のことを解っていない合衆国の連中はなんて馬鹿なんだろう。

遊び友達との経験だけど、黒人の体力は、絶対に僕ら白人より凄いよ。

だから、兵士としたって、強いに決まっているのに。


「それで、最前線で柵を破っていったから、アメリカ連合国の一斉攻撃で多数の犠牲が出たって訳か」


「まあ、そうですね。

私は最前線で撃たれるんじゃないかと冷や冷やしながら、柵の陰とかに隠れていましたが」


そこでトムは不服そうに言う。


「だけど、柵を何枚も破らせて奥まで引き込んでからの一斉攻撃って、あまりにも残酷じゃありませんか。

戦争だから仕方ないのは解りますが。

もっと早くから攻撃してくれれば、もっと犠牲少なく、合衆国軍は逃げることが出来たでしょうに。

あんな攻撃手段があると判れば、合衆国軍だって、もっと早く攻撃は諦めたと思うんですが」


「その事に関してはリー将軍も後悔されていたよ。

元々、何重もの柵でリッチモンドを囲ったのは、合衆国軍にリッチモンド侵略を諦めさせる為だったらしいんだ。

それなのに、諦めずに柵を破りにきて。

これ以上、前に進まれたら、困るというところで一斉攻撃を開始したら、想像以上の犠牲が出てしまったというんだ。

だから、リー将軍は、途中で一斉攻撃を止めさせたと仰っていたよ。

もし、一斉攻撃をやめさせなければ、合衆国軍は、今回の3割どころか、5割の犠牲は出ただろうとも」


トムは僕の言葉に嫌な顔をする。

まあ、信じないよね。

僕だって、信じていない。

でも、連合国の公式の見解は、そうだってことなんだろうな。


「ですが、あの一斉攻撃は異常です。

何十発もの弾が一斉に飛んで来るようでした。

あれは一体どうやったんですか」


「マシンガンという新兵器だそうだ。

詳しくは軍事機密とかで、実物は僕も見せて貰えなかったんだけど。

その新兵器の圧倒的な性能を解っていなかったのも、犠牲が増えた理由だとも」


想像以上の新兵器。

その性能のおかげで、攻撃力も判らずに犠牲が増えてしまった。

実際のところ、どうなんだろう。

そんな新兵器は、やはり大英帝国辺りから入手した物なのだろうか。

大英帝国は新兵器の実験場として、このアメリカを利用しているんだろうか。

そんな中、僕はふと疑問に思ったことをトムに聞く。


「そんな恐ろしい兵器の攻撃の中、トムはどうやって生き残ったんだい?」


トムは淡々と応える。


「一斉攻撃が参加された時点で、誰もが破って入ってきた柵から出て逃げようとしました。

だけど、振り返って見ると、その出口に攻撃が集中。

しかも、足の高さに弾が集中し、足を撃たれた人が次々と倒れ、その後に止めの一撃が飛んでくる恐ろしい状況。

足の高さの弾は飛ぶことが出来ない人間にとって、避けるには致命的です。

その上、攻撃は柵の外まで届いているように見えました。

だから、私は柵の外を目指すのではなく、柵に沿って逃げようと思ったんですよ。

私一人の為に、一斉攻撃の攻撃先が動くとは思えない。

それならば、撃たれない内に戦場から離れた辺りで柵を支える柱の陰に隠れておいて、夜になったら脱出しようと思ったんですが」


「うまくいかなかった?」


「だから、捕虜になっているんですよ」


「何が起きたの?」


「私の場所に関しては、攻撃せずとも、リッチモンド防衛軍には見えてはいたみたいなんですよね。

だから、隠れたつもりでも見ていた者がいたみたいで。

武器を持たない黒人奴隷が、武器を捨てれば、捕虜として扱うから投降しろとやってきて。

私は生きる為とはいえ、さすがに、武器を持たない人間を撃つほど、悪人じゃないし。

そもそも、居場所がバレているなら、投降を拒否して攻撃したら、次は撃たれる可能性もある訳で。

投降するしかなかったんですよ」


「アメリカ連合国は、黒人奴隷を兵士としては使わないからね。

武器は持たせず、救護や兵站などの任務しか与えていない。

僕から見ると、不合理極まりないんだけど。

多分、トムのところに行った奴隷も、そういう感じだったんじゃないかな」


「なるほど、奴隷人権宣言はきちんと守られているということですか」


「まあ、名目上はね。

武器なしで兵士のところに行かせるんだから、結構過酷だとも思うけど。

でも、今回の戦闘での合衆国兵士の救護に行ったのは、ほとんど、その黒人奴隷だったらしいよ。

おかげで、合衆国軍が見捨てていった合衆国の負傷兵が、随分救われたとか」


僕の言葉にトムは苦笑する。


「解放するはずだった黒人奴隷の方が良い待遇で、見捨てられた負傷兵を助けてくれたのですか」


「ああ、本当に非肉なもんさ。

トムは、正直、合衆国の自由も、もう信じていないみたいだけど、南部にいれば良かったと思う時はない?」


僕がそう尋ねるとトムはニヤリと笑って答える。


「確かに、南部に残っていれば明日の宿や食事の心配もせずに生きられたかもしれない。

だけど、奴隷は、白人のご主人様の都合で何処に売られるかわからない。

どんな環境に放り込まれるかわからない。

そんな状況は、もうゴメンだよ。

たとえ、腹ペコでも、私は、自由に生きられる方を選びたいな」


トムの言葉に、僕の胸は敬意で一杯になる。

何と賢く誇り高いんだろう。

本当に彼と友達になれて良かった。

そう思い、僕は最後の質問をする。


「じゃあ、トム。

君は捕虜から解放されたら、どうしたい?

もう一度、武器を取って、僕らと戦いたいと思うかい?

まあ、元々、戦いたいとは思っていなかったみたいだけど」


「うーん、出来れば西部に行ってみたいかな。

西部では原住民たち有色人種が、白人と対等にやっているという噂も聞いたし。

ともかく、こんなロクでもない戦いは早く終わってほしいとは思うけど」


こうして、僕のインタビューは幕を閉じたんだ。

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