第六話 天才とメルル
奴隷契約を済ませた俺は適当な服屋へ行き、メルルにいい感じの服を適当に選んでもらうよう店員に頼み、言われるがまま服を購入した。薄汚れた少女と道を歩くのも俺も良い気持ちではないし、周りからの目線も決して良いものではない。
俺も流石にスーツしかないと不安だったので、適当に俺に似合いそうな服を見繕ってもらおうかと思った。
……だが女性服店だった。
スカートをはいて街中を歩く趣味はない。当分はクリーニングしながらスーツを使いまわすしかないようだ。
「こ、ここは……。ご主人様の部屋ですか?」
最初この部屋に入ったとき、俺も少なからずそのようなリアクションをしたものだ。
恐らく前世の五つ星ホテルにも負けず劣らずレベルの豪華さだと感じている。
もちろん前世のスイートルームに泊まった経験はないのだが。
「ああ、俺は一旦ここに住んでいる。一時的でしかないがな」
「ご、ご主人様は貴族なのですか? 先ほども色々服を買っていただきましたし……」
「いや、俺は貴族ではない。そうだな……」
本来、学者と名乗るのが正解なのだろうが、老婆の話を聞いたところ『学者』はこの世界では割とタブーなようだ。
ある程度自由度があり、なおかつ人々に変な印象を与えない名乗り方をしたほうが良いだろう。
「……俺は商人だ。多少運が良くてな、臨時ボーナスが入ってきたからスイートルームに泊まってる。ただそれだけだ」
「臨時ボーナスでスイートルーム……?」
「あまり深くは考えなくていい。商人は儲かるときは儲かるのだ」
「へ、へえ……。そうなんですね……」
数千万の臨時ボーナスが入る商人なんて相当ブラックなことをしている感じに聞こえてしまうが、変に異世界から来たことを感づかれて騒ぎになるのもあまり望ましくない。
「で、では早速……」
メルルはおもむろに服の下袖をつかむと上にまくり上げようとする。
白い肌で傷一つない透き通ったわき腹が見えそうになるが、俺は全力で制止した。
「ち、ちょっと待て! ……なぜ君は俺の前で服を脱ぎだすのだ?」
「え? どうせ襲われるのであれば、服が汚れるよりも先に裸になったほうがいいかなと思いまして。高い洋服ですし……」
「はあ……。なぜあの店主を含め、君の脳みそはピンク色に染まっているのだ……。俺は君を襲うつもりはない。俺は純粋に労働力が欲しいから君を買った。ただそれだけだ」
「襲わない……んですか? こんなに若くて柔らかそうな肌なのに……」
メルルは不思議そうに俺を見つめる。
「……君は見た目に反して意外と自信家なのか? 君のおっしゃる通り柔らかそうな肌ではあるが、俺は君を襲わない。君は俺の奴隷だ。君を傷つけて働けなくなったら投資回収が出来なくなる」
「投資回収ですか……」
「ああ、投資回収だ。損をする買い物など、単なるボランティアだ。リザードマンなどのほうが力はあるし、より従順だったかもしれないが、君は安かったから買った。奴隷は初めて買うから、あまり高すぎてもリスクでしかないだろう。別に力仕事をやるつもりもなかったし、一人ですべてをこなすには人手が足りない。であれば、長生きをするエルフを買ったほうが合理的だ」
「なるほど……」
「そうだな、あと……」
「え? 何かおっしゃられましたか?」
「……いや、何でもない」
俺は一瞬口走ろうとしたことを制止した。
ふと色々話してしまうところだったが、ここで話す必要もないだろう。俺は十分すぎるほどしゃべった。
「さて、次は君の番だ。俺は君の質問に答えきった、次は君の番だろう。なぜ君は奴隷になっていた?」
メルルは俺から目線を外すと、涙を浮かべながら語り始める。
「実は……」
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