第6話
朝日が窓から差し込む。眩しい光が、シャハルの顔へと降り注ぎ、シャハルはゆっくりと体を起こして、そっと目をあける。部屋にニグムの姿はなく、シャハルは目を擦る。すると、下からトントンと音がきこえ、少し首を傾げ、重い足取りでベッドから降り、部屋をでる。すると、今度は何かを焼く音がきこえた。
(もしかして……)
そっとリビングのドアを開くと、ニグムは台所で料理をしていた。
「……私、何も食べないよ」
「……」
静まった部屋に、コンコンと玄関のドアを叩く音がきこえた。その音に、シャハルの背筋は凍る。息を飲み、「火、消して」とニグムに言い、ニグムは言われた通り火を消す。音をたてないよう、シャハルは玄関へと向かい、静かに横の棚から銃を取り出す。銃を構え、ドアへと近づくと、「あのーギルドの者ですー」と明るい声がきこえてきた。
(ギルド……?)
シャハルは、警戒しながら、ゆっくりとドアをあける。すると、そこには糸目の男が一人と、メガネをかけた女性が立っていた。男の方は、茶色の短髪で、腰に剣をぶら下げており、女の方は黒髪の一つ結びで三つ編みでまとめていて、肩には銃をかけていた。そして、その後ろには、嫌な匂いを放つ樽が一つ。その匂いに、シャハルは眉をひそめる。
「……あの、何か用が?」
「そんなに警戒しないでよ〜。人殺しみたいに、荒らしにきたわけじゃないんだから〜」
「ちょっと、ニータ」
男の言葉に、女が男の肩をポンと叩く。
「……なんで、知って」
「ギルドの情報網、甘く見ない方がいいよ」
シャハルの言葉を遮るように、男ははっきりと口にする。
「とりあえず、中に入れてくれないかな?」
そう、鋭い目に、うっすらと笑みを浮かべた男に、シャハルは何も言い返せず、ギュッと唇を噛み締めた。
*
二人を家に通し、荒らされたリビングへと案内する。
「おーおー、見事な荒れっぷりですなあ」
「……そっちの、食卓に座ってください」
シャハルはそう言って、キッチンにいるニグムへと近づく。
「あの人達、ギルドの人なんだって。お茶、出してあげて」
「……わか、った」
ニグムがそう言葉を発すると、男は「あー!!」と大きな声をだした。
「君が、ここのアルマンか!! おー! 情報通り、型が古いねー!」
(情報……?)
男のその言葉に、シャハルは目を鋭くする。そんなシャハルを見て、男はニッコリと笑ってみせた。
「まあ、アルマンくんがお茶入れてくれてる間に、座って少し話しましょ」
女の人の言葉に、シャハルは息をのみ、「はい」と頷いた。椅子に腰を下し、ごくりと息を飲む。
「まずは自己紹介しようか。俺は、ニータ。んで、こっちが、サラ」
「よろしくね、シャハルちゃん」
「……どうも。あの、なんで名前を……」
「さっきも言ったろ? ギルドの情報をなめんな」
「……」
ニータの言葉に、シャハルは顔をしかめる。そんなシャハルを見て、サラは「えっとね」と少し言いづらそうに話した。
「昨日、人殺しに襲われたでしょ。人殺しには、私らギルドも警戒してて、情報収集は欠かさない。それで、昨日のことを耳にしたから、知ってるのよ」
「それで、そんな私たちにを嘲笑いに?」
そんなシャハルの言葉に、ニータとサラは目をまん丸にした。そして、ニータはケラケラと笑い出す。
「いいねえ! やっぱ、お前、いいよ!」
「は?」
「残念だが、俺等は笑いにきたわけじゃない。勧誘しに来たんだ」
「……勧、誘?」
首を傾げるシャハルに、サラはクスリと笑う。
「前から、私たちギルドは、あなたに目をつけてたの。とても腕のいい弓使いだって。銃もいい腕してるらしいし」
「……どうも」
「前にも来た事あるんだけど、君のお兄さんに追い返されちゃってね。でも、今なら狩りも難しくなるし、私たちの力が必要だと思ってくれるんじゃないかって」
そう優しく話すサラに、ニグムは後ろから「どう、ぞ」とテーブルにお茶を置く。
「このアルマンも、強いしな!」
「……お褒めの言葉、ありがとうございます。ですが、私たちにはギルドに入るお金はありません」
「お金ねえ! うんうん、大事! とっても大事!」
ニータは、何度も頷きながらそう話す。そんなニータを見て、シャハルは顔をさっきよりもしかめる。
「でも、その金は志望者、つまり自分からギルドに入りたいって言った人が払うんだ。勧誘を受けた人からはとらないんだ」
「……なるほど、無償でギルドに。それは本当に良い話で」
シャハルの言葉に、ニータは目を細める。
「その話をもし断ったら……どうなるんでしょう?」
「……断る理由があるのか?」
「それよりも私は、ガソリンが入ったあの樽が気になるんです」
そのシャハルの言葉に、サラは肩をすくめた。
「……流石ね。お察しの通り、ギルドから私たちはこの家を焼くように言われてるわ」
「それは、勧誘とは言いませんよね。あなた達がやっているのは」
「ああ、脅しだ」と、シャハルの言葉を遮るようにニータが口にする。その言葉に、シャハルは目を鋭くする。
「まあ、脅しってよりは、オススメしに……とでもいうか」
「……は?」
首を傾げるシャハルに、サラは「あのね」と優しい声で話始める。
「私とニータも、勧誘……脅されて入ったのよ。お金は1オーロも払ってないわ」
「悪い話じゃないはずだぜ? 無償で守られ、食い物にも困らない」
その言葉に、シャハルはギュッと拳を握る。
(たしかに、この人の言う事は正しい……。でも……)
シャハルは、チラリとニグムへと視線を移す。そして昨晩、ニグムが言った言葉を思い出す。
『……おれ、ここ、にいる。ここ、好き』
シャハルは、ギュッと唇を噛み締める。そんなシャハルを見て、ニータは目を細める。
「なんでだ?」
「え?」
「悩む必要がどこにある? あんた、このままで過ごしていくとして、いつまで生きていけると思ってる?」
「……っ!」
「あんた、一年前は兄との二人で狩りをやっていたんだろ? 二人できつくなって、アルマンを買ったみたいだけど、また二人に元通り。この話を断って、生きていけるのか?」
(……生きていけるか、だって)
シャハルは、ギュッと拳を握る。そして、「……私は」と、震える声。しかし、その瞬間──外が赤く光った。そしてすぐさまに、爆発音が響く。
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