プロローグ2
「だーかーらー! 何度も言ってんだろ! おじさん、頼むよ!」
一人の少年の声が、小さなお店で響く。お店の中には、壷や武器、家具……いろんな物が置かれていた。その店の奥で、一つのテーブルを境に、茶色の髪、青色の瞳をした一人の少年と、椅子に座って新聞を開いているこの店の主であるおじさんが言い争っている。少年の後ろには、金色の長い髪を一つに束ね、少年と同じ青色の瞳をもった少女が一人、暇そうに欠伸をしながら立っていた。
「だから、何度も言ってるだろ。1オーロもまけねえって」
おじさんのその低い声に、少年は顔をしかめる。
「アルマンが欲しいなら、それなりの金を用意してきな。中古でも、アルマンは最低30万オーロ。新品はその十倍」
「ガキにそんな大金だせるかよーっ! 俺はまだぴちぴちの二十歳だし、後ろの妹はプルプルの十四歳だぞ!」
そう駄々をのこねるように言う少年に、店の主は何度目かわからないため息をつく。そして、新聞を閉じ、テーブルに置いた。
「……おめーらが欲しいアルマンを言ってみな」
「そりゃあ、もう、つえーやつ! このアッシャ・ティエラ様にふさわしいやつよ!」
そう胸を張って言う少年の後ろから、さっきまで黙っていた少女が顔を出す。
「そんで、すんごいかっこいいやつ!」
そんな二人を見て、おじさんはため息をつきながら、「ちょっと待ってな」と言って、店の奥へと入って行った。しばらくして、170センチを超えたアルマンを少年達の前へと置いた。
「ここにあるアルマンだと、こいつだな。砲撃機能、レーザー機能、赤外線探知、買い物、掃除、なんでもできる。顔もなかなかだろ」
おじさんの説明を聞き、少女は「いいじゃん! おいくら?」と首を傾げる。
「30万オーロ」
その言葉に、二人は肩を落とす。
「……ったく、お前ら、いくらあんだ。20万オーロくらいか?」
「おいおい、おやじ。なめてもらっちゃあ、困るぜ」
少年はそうフッと笑い、おじさんの顔の前に大きく手のひらを見せる。
「5万オーロだ!」
少年のその言葉に、おじさんは呆れたようにため息を落とす。しかし、その直後「そういえば」と、何かを思い出したかのように、再び店の奥へと入って行き、さっきよりも時間が経った頃に、先ほどのよりも少し大きめのアルマンを置いた。
「こいつなら、5万オーロだ」
置かれたアルマンは、先ほどとは違い、角が多い人形のアルマン。髪もなく、目の下には線が入っていて、服も体も所々汚い。
「……えーぶっさいく」
少女の言葉に、おじさんは「そりゃ、そうだ」とぞうきんでアルマンを拭きながら言葉を続ける。
「なんせこいつは、10年以上前のやつだからな。首の後ろに、年代が書かれてるんだが……ああ、こいつは一番初代だ。1995年だから、12年前に作られたやつだな」
「ふっる!」
少女がそう声をあげ、嫌そうな顔をする。反対に、少年は真面目な顔のまま、じっとアルマンを見つめる。
「だが、こいつはつえーぞ。それに加えて、家事も一通りはできる。欠点は一つだけ。今じゃ、笑ったり会話ができるアルマンが当たり前だが、こいつにはその機能だけが極めて弱い」
「……つまり、会話ができないの? こっちが笑っても、このブサイクは笑わないと?」
「会話はできないわけじゃない。ただ、その機能が弱いだけで、しばらくすれば軽い会話くらいはできるようになるさ。まっ、会話機能は独り身のじじいや、ばばあのためにできた機能だ。お前らには必要ないだろ」
「えーっ! 私はかっこいい人と、会話を楽しみたいの! 私のご機嫌を良くしてくれるアルマンが欲しいのよ?! こいつじゃ、絶対嫌!」
「お前らの金で、買えるのはこいつだけだ」
おじさんがそう言うと、少女は「うっ」と言葉を詰まらせる。
そんな少女に、少年は「いや、ハル」と少女の頭の上に手を乗せた。
「おじさん、このアルマン、買わせてもらう!」
少年の言葉に、少女は「はあああ?!」と、自分の頭に乗せられた手を払い、声を荒げる。
「アッシャ、本気?!」
「おうよ」
「こいつ、喋れないのよ?!」
「んなもん、心で会話できる」
「こいつ笑わないのよ?!」
「俺様は神を超える男だぜ? そんな俺様の目にかかれば、そんなもんはちょちょいのちょいよ」
そう言い張る少年に、少女は呆れたようにため息をつく。そんな少女を見て、少年はニッと笑う。そして、鞄から財布を取り出し、おじさんにお金を渡した。
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