Rainy One Day
無名
4/17
2020年4月17日、雨が降る夜。
男はベランダでイヤホンをし音楽を聴きながらただ、街をぼーっと見ていた。
「ピピッ」
時計と携帯のアラームが同時に23:00の時刻を知らせる。
「もうそんな時間か……」
男はため息混じりに呟き、部屋に戻ろうとしたその瞬間、
「まだしごと行くの?」
どこからか声がした。
男はひょこっと仕切り板から顔を出し答えた。
「ま〜だ起きてんのか、いい加減寝たらどうよ…」
女の子が答える。
「ずっと学校お休みだし、お昼にたくさん寝たからねむくないんだぁ…」
「そういや、今そんな状況だったっけな。」
「おじさんは?まだしごと休みにならないの??」
「俺の仕事はちょっと変だからさ、そういうの関係ないんだ。」
「そんなにがんばってたら、体壊しちゃうよ?」
「ふふっ…心配してくれるのはヒナちゃんだけだよ笑」
「だって夜におしごと行ってるし!しかも休みないし!」
「そりゃそうだなぁ、こんな大人にはなるなよ。」
「うん!ならない!」
「(間髪入れず答えるんだな)まあ、それでいい…」
「だって大人になったらおじさんみたいに大変なことをしてる人を助ける人になるんだもん!」
「俺が死ぬまでにその“助ける人”ってのになってくれよ」
「うん!」
本当は嬉しかったはずなのに、素直に感謝を伝えれなかった。
たった一言、“ありがとう”って言うだけなのに…
2020年4月18日 08:32
鍵を開け、いつもより疲れた顔をした男が帰ってきた。
男はいつものようにベランダで音楽を聴きながら神妙な顔をしながら物思いに耽ていた。
「おじさん、今帰ってきたの??」
「ああ…今帰ったよ。」
「今日も疲れた?」
「色々なぁ……」
「今日の夜も…またしごと??」
「まあ………そうだな」
「ほんとうに大変だったらしごと、休んでもいいんだよ…?」
「そか、なら今度やる仕事が終わったらしばらく休むことにするよ。」
「ほんと!?ぜったいね!約束ね!!!」
呆れつつも、何も言えない自分がいた。
どんだけ大変でもこの子と喋ってれば大抵の疲れは軽減する。
自分の事だけを考えて、他者を蹴落としてまででも己の利益のためにしか動かない人間しかこの世界には居ないと思っていた。
だが以前からこの子と話してからその考えは徐々に覆っていった、この優しさに、暖かさに徐々に俺の心が解凍されていく感じがしていた。
だからこそ俺みたいになってほしくない、待っている“夢”に誇りを持ってほしい、そして叶えてほしい。
時刻は23:00
今日も仕事に向かう。
「まだしごと行くの…?」
「そうだよ、ヒナちゃんにも“寝る”って仕事があるんじゃねぇのか?」
「今日はしごと休みなの、だから寝ない!」
「口は達者だな笑、もしかしたら今日が最後の仕事になるかもしれないから」
「ほんと!?なら帰ってきたらお祝いしないと!」
「本当面白いな笑、なら…行ってきます。」
男はベランダを後にした。
男には帰ってくるつもりは無かった。
依頼された内容が完全に無謀だったからだ。
男はその依頼内容で“自分はこの組織に必要ない”と悟った、でもやるしかなかった。
とある港にある倉庫。
男は傷だらけになりながらも敵組織の人間から走って逃げている。
「そろそろ…はぁ…はぁ…、っ色々潮時か………」
物陰に隠れながら目を閉じ、全てを諦めようとした。
だか、幸か不幸か数時間前の記憶が蘇る。
「なら帰ってきたらお祝いしないと!!!」
男はそれをふと思い出し、
「はぁ…………」
と深くため息を吐く。
「“しごと”、頑張らないとな」
男は残り少ない新品の弾倉を確認し、敵組織の奴らと対峙した・・・・・
2020年4月19日 02:46
「ガチャン!バン!ドンドタタタン!」
息を切らしながら玄関のドアを開け、ベランダに倒れ込むように壁に寄りかかった。
血だらけの手でイヤホンを耳にかけ、携帯で音楽を再生する。
「タッタッタッ、ガラガラバンッ!」
隣の部屋の窓が開く音がした。
「おじさん?!ねえ!おじさんなの??」
か細い声で答える。
「はぁ…はぁ…ふぅっ、あぁ……っ痛痛、、、」
「ねぇ!おじさん大丈夫?!?!」
「ぁあ…当たり前ぇよ……」
そう言いつつも血が仕切り板の隙間から隣の部屋に流れていっていた。
仕切り板の向こうから特に返事が無い。
「最後に声聞けただけでも大きい…か……」
そうボソッと呟いた瞬間、手元に何か感触があった。
「これ……つかって…??」
そう言って仕切り板の隙間から可愛いポケモンのデザインがされた絆創膏を渡してきた。
「ははっ………そりゃ反則だろ…笑」
「なんで??1枚じゃ足りない?もう1枚あったほうがいい??」
「いや……これで全然充分さ、“助かった”よ…」
そう言って男は部屋に戻り、誰かに電話をかけ始めた。
2020年4月19日 23:00
今日はアラームが鳴らない。
だが男は音楽を聴きながら街をぼーっと眺めている。
「まだしごと行くの…?」
あの子が声をかける。
「いや、今日からしばらく休みだよ」
「ほんとに!?!?やっとお休み!?」
「まあ、そんなもんよ」
「なら今日はお祝いだぁ〜〜!!!」
純粋過ぎる祝福だった、だがそれが心に沁みた。
絆創膏を貰ったおかげで組織の医療班を呼ぶ最後の力を振り絞れた。
努力の甲斐もあり、しばらくの休みを貰えた。
休みのはずなのにやはり夜には目が醒める、この癖は治したいがヒナちゃんと喋れなくなるのなら治したくはない。
「ねぇ、ヒナちゃん。」
「ん?」
「夜中だったのに助けてくれて、ありがとね」
「ううん!全然!おじさんが『行ってきます』なんて今まで言わなかったから、ちょっとだけ嫌なよかんがして」
「そか笑、っいてて……」
「大丈夫??」
「まだ傷が痛くてね、、、」
「横になってないとダメだよ!」
「お前が言うな笑」
「えへへ笑、そういえばおじさんって何でいつも音楽きいてるの?」
「そういえば言ってなかったっけか、
実は俺ね、仕事のせいで病気になっちゃって寝てる時も脳と身体が緊張して休まってない状態なんだ、そのせいで寝ても夢が見れない。
寝ても覚めても落ち着けない、だから起きてる時はずっと音楽を聴いてるんだ。
何故なら夢の中じゃくつろげないからね。」
「なんか…ムズかしいね……」
「ふふっ、いつか分かる。」
「そうなんだ…分かったらおじさんに言うね!」
「笑、なあヒナちゃん」
「うん?」
「ヒナちゃんの夢、絶対叶うよ。」
日付が変わり2020年4月20日
ポツポツ降り始めた音をBGMに2人は眠りにつく街を眺めながら眠れぬ夜を過ごした。
Rainy One Day 無名 @a_stro7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます