第26話作戦実行へ

 選抜戦の後、《大賢者》レイチェル=ライザールと模擬戦と行う。

 ボクはワザと負けて、選抜戦は幕を閉じる。


 選抜戦から数日が経つ。

 あの日からボクの環境は、少し変わっていた。


「ライン君、良かった、私たちとランチをしません?」

「オレたちと魔術の勉強を一緒にしないか、ライン君?」


 同級生にやたら声をかけられるようになったのだ。


 理由は選抜戦での、ボクの快進撃による優勝だろう。

 一年生の誰もが、ボクのことを一目置くようになっていたのだ。


「すみませんが、ボクは用事があるので、失礼します」


 だがボクは全ての誘いを断る。

 何故なら学園には、“勇者候補生ごっこ”をしに来た訳ではない。

 本来の大事な目的は別にあるのだ。


 だから放課後は真っ直ぐに、教室から出ていくようにしていた。


「ん? ベルフェか?」


 そんな放課後、《怠惰たいだベルフェ》の義体が近づいてきた。

 何やら意味深な表情をしている。


「はい。ライン様の指示していた“準備”が、全て終わりました」


「そうか、ご苦労。では、さっそく今日の夜にでも、実行に移すぞ。レヴィにも伝えておけ」


「はっ」


 選抜戦からボクたち三人は、色々と準備をしてきた。

 ようやく全ての準備が完成したのだ。


「さて、いよいよ二人目の勇者への復讐の時間か。心が躍るな」


 こうしてボクは優等生のふりをして、レイチェル=ライザールの研究室に向かう。


 ◇


「ふむ、よい研究成果だな、ライン一回生。褒めてつかわそう」


「はい、光栄です、レイチェル先生」


 研究室での成果を、レイチェル=ライザールに褒められる。

 選抜戦で対戦相手に指名したが、関係は特に悪化していない。


 むしろ対戦したボクの心意気を評価。

 レイチェル=ライザールは前以上にボクのことを買ってくれていたのだ。


「ふむ。時間か。それでは全員、寮に戻れ」


 この研究室では夜の二十時を過ぎると、研究生は帰宅の時間となる。

 研究生はレイチェル=ライザールによって、洗脳に近い状態に陥っている。


 だが基本的に彼らも勇者候補生。

 寮の消灯時間前には、毎日帰宅させられるのだ。

 研究室から生徒たちが地上に戻っていく。


「レイチェル先生、少しお時間がよろしいですか。研究のことで相談があります?」


 そんなタイミングを見計らい、レイチェル=ライザールに声をかける。

 二十分ほどの時間で相談をしたいと、申し出る。

 寮の門限は二十一時だから、ギリギリ間に合う時間帯だ。


「ふむ、よろしい。それなら奥の魔族研究室で聞こう。私も仕事があるので」


「はい、ありがとうございます!」


 レイチェル=ライザールと二人で研究室の最深部。例の魔族のホルマリン漬けがある部屋にいく。

 作業しながら、ボクの相談を聞いてくれるという。


(周囲には誰もいないか……)


 研究室の周囲を確認する。ボクたち二人以外は誰もいない。

 あるのは物言わぬホルマリン漬けの魔族の死骸だけだ。


「さて、相談を聞こうか、ライン一回生」


「はい、では……」


 いよいよ本題に入る時がきた。

 後ろ姿を見せているレイチェル=ライザールに、ボクは足音を消して近づいていく。


「あっ、そうだ。その前に、貴様にプレゼントしてやろう、ライン一回生」


「プレゼントですか?」


 レイチェル=ライザールが突拍子もない話をするのは、いつものこと。

 ボクは冷静さを保ち対応する。


「ああ、そうだ。貴様にお似合いのアクセサリーさ……【魔族拘束デーモン・アクセサリー】!」


 いきなりレイチェル=ライザールは“何かの術”を発動してきた。


 ガッ、シャーーン!


 直後、ボクの足ともから、銀色の鎖が出現。ボクの手足を拘束してきた。


「こ、これは……どういうことですか、レイチェル先生?」


 ボクは冷静さを保ちつつ訊ねる。

 レイチェル=ライザールは普通の思考の持ち主ではない。

 だが今までこんな不条理は、今まで一度もなかった。


「これは心外だな、ライン一回生……いや、ライン。貴様は一体“何者”だ? 勇者候補生のフリをして、何を目論んでいる?」


「せ、先生の言っている意味が、よく分かりません。ボクはパルマ村から来た、普通の生徒ですが」


「そう答えると思っていたよ。それなら貴様が答えたくなるまで、ゲームをしようじゃないか。ゲームの道具は沢山あるからな」


 そう言い放ち、レイチェル=ライザールは勇者魔法の【収納】を発動。

 ボクの目の前に、大量の道具を出す。


「せ、先生……これは何かの冗談ですよね?」


 出された道具は、明らかに拷問器具。

 しかも人に使う種類ではない。

 人に使ったら即死する大きさと、狂気さのものなのだ。


「いやアタシは常に真面目だよ、ライン。これは私の愛用している“魔族専用の拷問器具”さ。さて、貴様はどこまで白を切れるか、期待しているよ」


「なっ……」


「あと、その拘束具とこの部屋には、魔族の力を完全に封じ込める術式を展開してある。だから無駄な足掻きも頑張りたまえ、ライン!」


「くっ……」


 こうして魔族としての力を全て封じ込められたボクは、狂気の勇者の罠に逆にハマってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る