第25話模擬戦の結末

 選抜戦の後、《大賢者》レイチェル=ライザールと模擬戦を行うことに。


(まさかレイチェル=ライザールは勇者でありながら、“魔族の力”を取り込んだのか⁉)


 戦いながら違和感があった。

 相手が魔族の力を発動した、可能性があったのだ。


 思わず心の中で、危険な考えを浮べてしまう。

 相手の勇者魔法に、ボク思考を感知されてしまう危険性がある。


(いや、今は大丈夫だ。“魔族の力”を発動しながら、勇者魔法など使えないからな)


 だがボクは思考を正常に戻す。

 原理は分からないが、レイチェル=ライザールは魔族の力を発動している。

 つまり心を読まれる危険性は、今はないのだ。


(だが、どういう原理だ? たとえ勇者でも、“普通の人”は魔族の力が使えないはずだ……)


 魔族の力は魔法とは違う。

 いくら修練しても、人は会得することが出来ないのだ。


 唯一の例外は半魔であるボクのような存在。

 体内と魂に魔族が混じっているからこそ、ボクは魔族の力を《七大地獄セブンス・ヘル》で会得できたのだ。


(つまりレイチェル=ライザールは“何かカラクリ”があるのか。あの狂気の研究者に……)


 相手は魔族の解剖や研究を、専門にする者。

 おそらく研究の過程で“何か”を発見。魔族の力を会得したのだろう。


 ――――勇者でありながら魔族の力を発動できる。


 敵対する者として、これ以上の恐ろしい存在はいない。


(ふっ……だが……)


 心の中で笑みを浮かべて、ボクは動き出す。

 剣を構えて、レイチェル=ライザールに斬りかかっていく。


「いくぞ! 【疾風乱舞斬り】!」


 先ほど同じく勇者候補としての、剣術スキルを発動。

 無数の斬撃で、相手に連撃を加えていく。


「無駄なことを、ライン一回生!」


 だがレイチェル=ライザールに余裕で回避されてしまう。

 先ほどと同じ“謎の回避”をされてしまったのだ。


「それでは反撃といくぞ。こちらかも」


 直後、凄まじい攻撃魔法が、ボクに襲いかかってきた。

 死角からの完全なる奇襲。


「うわぁああ!」


 耐え切ることができず、ボクは場外に吹き飛んでしまう。


 ……『勝者! ライザール先生!』

 心配の合図を共に、司会のアナウンスが響き渡る。


「「「うぉお!」」」


 観客席から大歓声が起こる。

 圧倒的に勝利した、頼もしい勇者レイチェル=ライザールに対して。

 そして果敢に挑んでいった、候補生ラインに対する歓声と拍手だった。


(ふむ。我ながら“良い感じ”で負けられたな)


 だが場外に吹き飛んだボクには、そんな称賛の拍手は聞こえていなかった。


 何故ならボクは無傷であった。

 勝負を早く終わらせるため、先ほどはワザと攻撃を喰らって、自然な感じで場外に吹き飛んだのだ。


 観客はもちろんのこと、相手のレイチェル=ライザールですら、ボクの迫真の演技には気が付いていない。


(さて欲しい情報が得られた、余興も終わりだ。これからは本物の復讐パーティーの時間といこうじゃないか!)


 対峙したボクには、レイチェル=ライザールの本質が見えかけていた。

 あとは“本番”で見極めていくだけ。


 こうして二人目の勇者への、復讐の時がやってきたのだった。

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