第24話勇者との模擬戦

 ミナエル学園の選抜戦、見事にボクは個人優勝。

 現役勇者と模擬戦の権利を得る。


「レイチェル先生の胸を借りたいと思います。よろしくお願いします、先生!」


 観客席にいたレイチェル=ライザールに、視線を向ける。

 これから模擬戦を行う相手に、因縁の相手を指名したのだ。


「ほほう? まさかアタシを指名するとはね。そうきたか、ライン一回生」


 レイチェル=ライザールは少し驚いた表情。

 まさか研究生になったボクが、対戦相手に指名するとは、思っていなかったのだろう。


「実に面白い実験になりそうね、これも」


 だがすぐに不敵な笑みを浮かべる。

 二階の観客席から白衣をなびかせながら、すうっ、と闘技場に降りてくる。


 その動きを見ただけで分かる。

 この女は魔法が得意なだけの、鈍重な魔術師ではない。

 体術や近接戦闘も行える《大賢者》なのだ。


「バーナード先生よりも格段と上……いったところか。面白い」


 ボクも思わず心の中で、不敵な笑みを浮かべてしまう。

 前回のバーナード=ナックルは、あまりにも簡単に相手が罠にかかってくれた。


 だが今回のレイチェル=ライザールは、未だに底が見えない相手。

 模擬戦に自信をもって参加してくれたのだ。


「では、いくぞ。ライン一回生」


「ライザール先生。その恰好で……武器や杖は装備しなくても、よろしいんですか?」


 レイチェル=ライザールは無手であった。

 白衣にハイヒール、ミニスカートと戦う者の格好ではない。


「ええ、生徒相手に……候補生相手には、このくらいが丁度良いハンデだよ」


「分かりました」


 なるほど、そう答えてきた。

 あくまでも勇者としてハンデ戦として、模擬戦を戦うつもりなのだろう。


 一方でボクの方も密かに、ハンディキャップを背負っている。

性質創造リ・クリエイト】で勇者候補ライトに、今は身体を変革していた。


 この姿では《七大地獄セブンス・ヘル》で得した七つの特殊能力と、《七魔剣セブンス・ソード》を使うことは出来ない。


 戦闘能力を比較したら、全能力解放時の十分の一も出せないだろう。


 だが《七大地獄セブンス・ヘル》を突破した素の戦闘経験は、しっかりと魂に蓄積されている。


 今回の戦いでは勇者候補として、表の力を全て出しきってみる。


 ……「それでは模擬戦、スタート!」


 審判の合図がある。


「いきます!」


 まず先に動いたのは、ボクの方。

 模擬剣を構えながら、一気に間合いを詰めていく。


 レイチェル=ライザールは接近戦も出来るであろうが、所詮は後衛タイプの《大賢者》。

 厄介な魔法を発動される前に、連撃で押し込む作戦だ。


「ふう……【疾風乱舞斬り】!」


 勇者候補としての剣術スキルを発動。

 無数の斬撃で、相手に連撃を加えていく。


「ん?」


 ――――直後、違和感があった。


 ビュン……


 ボクの連撃は全て空を切る。

 当たったと思ったら直後、相手の姿が消えていたのだ。


「あっち……か」


 後方に気配が出現していた。

 視線を向けると、レイチェル=ライザールの姿は瞬時に移動している。


 ボクの後方に何事もなかったように、いつの間にか瞬間移動していたのだ。


 ……『おっと、ライザール先生の得意の幻術魔法でしょうか? 見事に回避しました!』


 司会の生徒のアナウンスが、会場に響きわたる。

 どうやら今の回避を、幻術魔法だと思っているようだ。


(いや……違うな)


 今のは幻術魔法などという、生易しい回避方法ではない。


 ボクの斬撃は確かに、レイチェル=ライザールの身体を捉えていた。

 だが違和感があった瞬間、“相手の存在そのもの”が瞬時に移動していたのだ。


(転移の魔法か? いや、術を発動した形跡はない)


 レイチェル=ライザールは何かの術を、発動したフリしていた。

 だが実際には発動はしていない。


 あくまでも観客やボクに、『自分は魔法を使って回避した』と巧妙に思わせていたのだ。


(今のは幻影魔法でも、勇者魔法でもない。もしや……?)


 先ほどの違和感を思い出す。

“アレ”はボクにとっては身近な存在。

 だが、あまりにも予想外すぎて、気がつくのが遅くなってしまった。


(まさかレイチェル=ライザールは……)


 ――――“魔族の特殊能力”を使ったのだ。


 それなら全て納得がいく。

 ボクの感じた違和感と、先ほどの見たことがない現象。

 何かの魔族の力を発動したのだ。


(レイチェル=ライザールは勇者でありながら、“魔族の力”を取り込んだのか⁉)


 こうして《大賢者》と呼ばれる勇者の狂気と、ハンディキャップを背負ったボクは対峙するのであった。

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