第23話勇者候補としての魔人

 レイチェル=ライザールの本質を知るために、《勇者杯ミナエル学園選抜戦》に参加。

 ボクは準決勝まで楽勝で進出する。


「ふっふっふ……ライン様との再戦、心から嫉妬しながら、待っていました!」


 だが準決勝の相手はレヴィ。

 ボクと再戦するために、こっそり参加していたのだ。


 いや、ちょっと待って。

 身内同士で戦って、どうするのだ、レヴィよ⁉


「準決勝戦、はじめ!」


 だが審判の合図で、試合が開幕してしまう。


「いくわよ、ライン様ぁ! はぁあああ!」


 歓喜の叫び声と共に、レヴィが斬り込んでくる。

 蛇の形を模した双剣による、左右からの挟撃だ。


「くっ、速い!」


 バックステップで緊急回避。

 さすがは七大魔人の一人、《嫉妬しっとのレヴィ》だ。


 魔人の力を使わなくても、今までの対戦相手とは比べ物にならない戦闘力。

 ボクも片手間で勝てる相手ではない。


「ふっ……それなら“少しだけ”本気を出すとするか!」


 今回の選抜戦は基本的に余興。

 ボクもポケットから手を出して、レヴィに斬りかかっていく。


「くっ⁉ やりますね、さすがライン様!」


 ほほう、今の一撃を受け止めたか。流石レヴィだ。


「だが、これはどうだ⁉ 【疾風乱舞斬り】!」


 ボクは“勇者候補としての剣技”を発動。

 無数の剣戟をレヴィに加えていく。


「ぐっ……ぐはっ⁉」


 連撃に耐え切れず、レヴィが吹き飛んでいく。


「場外! そこまで!」


 選抜戦は場外になった者は負け。

 レヴィはまだ動けるが、あえて場外にしたのだ。


 場外にいる彼女に、手を差し伸べる。


「くっ……さすがはライン様、お見事です」


「いや、レヴィもなかなか楽しめたぞ」


「ありがとうございます。ところで、いつの間にライン様は、勇者候補の剣技の会得をしていたんですか? 授業中はいつも片手間だったのに?」


 ボクは優等生を演じているが、授業は基本的に片手間。

 それを知るレヴィは驚いている。


「ふっ……ボククラスになると片手間でも会得は可能なのさ」


「なるほど。さすがはライン様です」


 だが勇者候補の技も、悪いものばかりではない。

 場合によっては魔族の技よりも使える。


 半魔のボクは、基本的に両方の技を会得可能。

 いつか勇者候補の技も出番がくるかもしれない。


「さて、次は決勝戦か……」


 選抜戦のスケジュールは、けっこうタイト。

 参加者は回復魔法で、傷とスタミナを全回復してもらう。すぐに決勝戦に移るのだ。


 ……「それでは決勝戦を行います。両選手、開始線にどうぞ!」


 案内があったので、ボクは決勝の準備をする。

 準備を終えて、再び開始線に向かう。


「ん? レヴィが参加していたということは、もしや? ああ、やっぱり、そうか」


「ライン様。お手を柔らかに」


 決勝戦の相手は、金髪の好青年。

 勇者候補としての《怠惰たいだのベルフェ》だった。

 もちろん義体で、本体は自室にいる。


「ふん。やっぱりお前も参加していたのか」


「私は嫌だったのですが、レヴィが勝手に申し込みをしていました」


 なるほど、そういうことか。

 それでも決勝戦にまで進むとは、《怠惰たいだのベルフェ》らしからぬ勤勉さだな。


「実は、こう見えて、負けず嫌いなんです、私は」


「なるほど。お前も《七大地獄セブンス・ヘル》のリベンジということか」


「そうですね。あの時は私もライン様も、魔法だけの戦いだったので」


 いつになくベルフェは不敵な表情。

七大地獄セブンス・ヘル》でボクに負けたことが、よほど悔しかったのだろう。


「よし、それなら今度は互いに本気だな。勇者候補としてだが」


「はい、では、参ります、ライン様」


 勇者候補バージョンのベルフェとの戦いが、幕を開ける。


「いくぞ、ベルフェ!」


 選抜戦では、魔法を使うことも可能。

 ボクは剣技と魔法の連携で、攻め込んでいく。


「うむ、お見事。ですが!」


 一方でベルフェは得意の魔法で迎撃。

 カウンター系の魔法を、連続で発動してくる。


「ほほう、やるな。ベルフェ。勇者候補の魔法も、ここまで会得しているとは?」


「いえいえ、ライン様こそ、お見事です。魔族の術を、誰にもバレないように、ここまで勇者候補の攻撃に融合しているとは」


「はん、だからといって手加減はせんぞ!」


「有りがたき!」


 ボクたちの戦いは激戦。

 決勝戦に相応しい戦いだった。


 久しぶりに充実した、戦いのひと時だった。


 ――――そして決着の時がきた。


「勝者、ライン!」


「「「おおおーー!」」」


 観客席にいた候補生たちから、大歓声が上がる。

 勝利したのは剣術と魔法を組みわせて、戦ったボクの方だ。


 闘技場を降りていく。


「ちょっと、ライン様! なに、ベルフェと楽しそうに、激戦を繰り広げていたんですか⁉ 嫉妬案件ですよ!」


「はっはっは……すまないな、レヴィ。お前とも、今度、ちゃんと戦うから」


 先ほど力加減を間違えて、レヴィのことは一撃で、場外にしてしまった。

 どうしても勇者候補として手加減するのは、難しいのだ。


 ……「それでは選抜戦の優勝者は、一組のライン君に決定しました!」


 魔道具のアナウンスが流れる。余興として盛り上がる流れだ。


 司会の生徒が、ボクのところまでマイクの魔道具を持ってくる。


「さて、優勝したライン君。この後の副賞の対戦相手は、どちらの勇者先生を指名します?」


 選抜戦の優勝者には教師である勇者と、対戦する権利が与えられる。

《剣帝》バーナード=ナックルか《大賢者》レイチェル=ライザールの二択だ。


 ボクはマイクを手に取る。


「それなら……レイチェル先生の胸を借りたいと思います。よろしくお願いします、先生!」


 観客席にいたレイチェル=ライザールに視線を向ける。

 これから模擬戦を行う相手に、因縁の相手を指名したのだ。


「ほほう? まさかアタシを指名するとはね。そうきたか、ライン一回生」


 こうして現役の勇者との模擬戦に、ボクは勇者候補だけの力で挑むのであった。

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