第22話選抜戦

 レイチェル=ライザールの本質を知るために、《勇者杯ミナエル学園選抜戦》を利用することに。


 その日の放課後、寮のボクの自室で緊急会議を開催。

嫉妬しっとのレヴィ》と《怠惰たいだのベルフェ》に説明をする。


「……という訳で、《学園選抜戦》に参加するぞ、ボクは」


「どういう意味ですか、ライン様? 特に意味のないイベントだと、思いますが?」


「ああ、そうだな、レヴィ。たしかに《学園選抜戦》には何の意味もない。目的は優勝者の副賞だ」


「副賞……ですか? あっ、もしかして」


「そうだ。副賞の『勇者に挑戦権利』が目的だ」


《勇者杯ミナエル学園選抜戦》の優勝者には、学園内の勇者に挑む権利が与えられる。

 と言っても普通の生徒は、人類屈指の勇者には絶対に敵わない。

 普通の生徒は思い出作りとして、勇者に胸を貸してもらうのだ。


 当校には二人の勇者が、教師として在籍している。

 うち一人を対戦相手に指名できるのだ。


「なるほどです。ライン様が断トツで優勝して、レイチェル=ライザールを指名する……という作戦ですか?」


「ああ、そうだ。相手を引き出すには、絶好の機会だ」


 レイチェル=ライザールの担当は魔術全般。模擬戦闘をしているのは見たことがない。

 だからチャンスなのだ。


「それに公の場での勇者との模擬戦……これ以上の余興はあるまい」


 そしてボクは余興として楽しむ予定。

 もちろん《七魔剣セブンス・ソード》や特殊能力は使わない。

 あくまで勇者候補としての力で、教師レイチェル=ライザールに挑むのだ。


「なるほど。そういうことでしたか。それならライン様が断トツで優勝ですよね」


「まぁ、そうだな。他の勇者候補生は、未熟だからな」


 今のところ今のミナエル学園の一年生には、卓越した勇者の才能を持った同期生はいない。

 だから特殊能力を封印しても、ボクが断トツの飛びぬけているのだ。


 何しろ《七大地獄セブンス・ヘル》でボクは、本当の地獄の特訓を七年間もしてきた。

 特殊能力を使わなくても地力だけで、普通の候補生を倒せるのだ。


「とりあえずレヴィとベルフェは当日、レイチェル=ライザールのことを監視ておいてくれ。何かあったら報告してくれ」


「「…………」」


 ん?

 二人とも返事がない。

 下を向いて何か考えている。


 まぁ、こいつらが変なのは前から。気にしないでおこう。


 ――――そして日が経つ。


 ◇


《勇者杯ミナエル学園選抜戦》の当日となる。


 選抜戦の会場は、学園の敷地内にある円形の闘技場。

 それほど大きくは無いので、主に一対一での鍛錬に使う場だ。


 観客席の前には、特殊な結界が張られている。

 だから対戦者同士は全力で戦っても大丈夫。


 あと回復魔法のスペシャルの教師も待機している。

 死なない限りは回復してくれるシステム。まさに生徒同士がガチで戦える場なのだ。


「さて、さっさと優勝して、副賞の余興を楽しむとするか」


 ボクは一回戦に挑む。

 参加者が使う武器は、金属製の訓練武器。

 相手が戦闘不能になるか、場外になると勝負があるのだ。


「――――勝負あり! 勝者、ライン!」


 一回戦は楽勝で勝てた。

 力をほとんど出す必要のなかった。

 候補生とボクの力は比べものにならない程、かけ離れているのだ。


 あくまでも副賞以外は通過点。目を瞑っても勝てるトーナメントなのだ。


「さて、次の試合まで、どこかで休むとするか」


 他の候補生の試合など、見る価値もない。

 ボクは闘技場の裏で、魔導書を読みながら時間を潰す。


 決して友だちがいない……からではない。

 孤高こそが復讐を鋭くするのだ!


 ◇


 その後の試合もアクビが出るほど、簡単に勝ち進んでいく。

 まるで話にならない。


 前にレイチェル=ライザールが言っていたように、ミナエル学園の生徒の質は低いのかもしれない。


 コイツ等が数年後に、“真の勇者”に選ばれるビジョンが見えてこない。

 おそらく他の学園には、もう少し才能がある者がいるのだろう。

 今後に期待だな。


 ◇


 そんなつまらないトーナメントを、ボクは一人で勝ち進んでいく。

 あっという間に準決勝となる。


 さて、準決勝も、一気に終わらせてしまおう。

 特に問題はない。


「――――ん?」


 だが闘技場の開始線に立って、ボクは自分の目を疑う。

 対戦相手に見覚えがあるのだ。


 対戦相手は銀髪褐色の少女だった。


「えっ……レヴィ?」


 対戦相手はまさか《嫉妬しっとのレヴィ》……勇者候補バージョンだった。

 もしかしてボクに内緒で申し込みして、参加していたのか⁉


 その証拠に、レヴィは不敵な笑みを浮かべている。


「ふっふっふ……ライン様との再戦、心から嫉妬しながら、待っていました!」


「準決勝戦、はじめ!」


 こうして勇者候補だけの力で、七大魔人レヴィと戦うことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る