第14話乙女の危機

「――――うっ、ここは……?」


 ボクは目を覚ます。

 横になりながら、周囲を見渡す。


 先ほどのバーコーナーとは違う場所だ。

 薄暗いピンク色の照明で、怪しく照られている。

 ここは地下室だろうか?


「えっ……身体が?」


 起き上がろうとして、声を出してしまう。

 手足が鎖のようなもので、拘束されて動かせない。

 いつの間にはベッドのような上に、寝かせられているのだ。


「おや、目を覚ましましたか、子猫エリンちゃん?」


「えっ……先生?」


 不気味な笑みで、近づいてきたのはバーナード=ナックル。

 先ほどまでの貴族風の服ではない。

 奇妙な下着姿だけの半裸姿だ。


「せ、先生、これは、どういうことですか、レヴィは?」


「ふっふっふ……心配しなくても、レヴィちゃんは、あっちのベッドで寝ているよ。キミを先に可愛がってあげるから、大丈夫だから」


「えっ……“可愛がる”……⁉」


 背筋がゾクリとする。

 バーナード=ナックルの卑猥な視線が、ボクの全身を舐めまわしてきたのだ。

 先ほどまでの、一瞬だけの視線ではない。


 こちらに気がつかれるもの構わずに、舐めまわすようにじっくり見てきたのだ。


「せ、先生……これは何かの冗談ですよね?」


「はっはっは……冗談などではないですよ、エリンちゃん! ボクは真剣にキミのことを愛しているんだ! もちろんレヴィちゃんこのもともね!」


「えっ⁉ な、何を⁉ だって、私は、今日初めて先生に会ったばかりなのに……」


「何を言っているのだい、エリンちゃん! 人の愛に時間は関係ないのだよ! 私はキミに出会った瞬間から、運命を感じていたのだよ! ほら、私のココを見てごらん! こんなにも運命に反応しているだろう!」


 そう叫びながらバーナード=ナックルは、自分の股間を指差してくる。

 奇妙な形の下着が、はちきれんばかり。男性性器が硬化していた。


「せ、先生……私は、そういうのは、ちょっと……ごめんなさい……」


「大丈夫だよ、エリンちゃん! キミが処女なのは【鑑定】で知っているから! だから最初は優しくしてあげるよ! 先生は生徒の扱いは、とても慣れているんだよ!」


「えっ、そんな……こと何で知っているの⁉ もしかして、今までも他の子たちに」


「ああ、もちろんだ! こう見えて私は惚れっぽくてね! この学園に就任してから、色んな生徒と、愛を交わしてきたのさ! でも、やっぱり最高なのは“新入生の乙女”だね! しかも制服を着たまま、こうして愛を交わすのが最高に興奮するんだよ、私は!」


 バーナード=ナックルは自分の性癖を余すことなく、口に出してきた。

 まるで高尚なことのように演説している。もはや理解不能なことばかりだ。


「安心して。今はキミとレヴィちゃんだけを愛しているから! 段々と私の色に染めていってあげるから! ここは地上を隔離された空間だから、いくら大きな声をだしてもだえても大丈夫だよ! あと時間もたっぷりあるし、色んな道具と薬もあるから、初めてでもキミは心配しないで、私のテクニックに身をゆだねるだけでいいから!」


 バーナード=ナックルが指差す方には、色んな器具があった。

 明らかに少女に使う道具ではない。確実に“壊れて”しまう道具もある。


「ひっ……た、助けて、下さい……何でもするので……」


「おお、いいね! その表情! やはり女性はそうではないとね! 人族の少女は最高だ! それに比べて魔族の女……さっき話したは王女も、その位の表情をしてくれた良かったのに! あれほどの美女を犯せなかったのは、本当に今でも後悔していますよ!」


 驚いたことにバーナード=ナックルは、魔族の王女……ボクの母さんまで犯そうとしていたのだ。


「あのクソ女は本当に、自分勝手でした! 手足を斬り落とし動けなくしても、命乞いをせずに最後は自爆したのですよ! お蔭で私の性道具として使えない肉片になってしまった! まったく、これらだから魔族の女というモノは!」


 ――――そうか母さんは誇りある死を、自分で選んだのか。下種なバーナード=ナックルに身体を許すことなく、自分の命を美しく散らしたのだ。


 そして、その時の間抜けなバーナード=ナックルの顔が、思い浮かぶ。


「くっくっく……」


 ボクは思わず笑みがこぼれてしまう。

 今まで演じていたエリンとは、別の口調の笑い声だ。


「ん? どうしましたか? もう“壊れて”しまいましたか? でも大丈夫ですよ! 私も回復魔法はある程度は使える。だから何回でも治してあげるよ!」


 ボクの精神が壊れてしまった、と思ったのだろう。

 バーナード=ナックルに嬉しそうな表情で、手を伸ばしてくる。


 いきなりボクの太ももを撫でまわし、そのまま下半身の秘部に手を伸ばしてくる。

 同時に自分の奇妙な下着も、そそくさと脱ぎだす。

 前戯ぜんぎも無しにいきなり、性行為をするつもりなのだろう。


「いやー、タイム! もう限界だ、ボクは!」


 あまりのゲスな行為。

 男としての素の声を、ボクは出してしまう。


「なっ⁉」


 まさかの男の声に、バーナード=ナックルの動きが止まる。

 自分の下着を脱ぐもの中断していた。


「なっ、今のエリンちゃんの声が? どういうことだ⁉」


 まだ理解できずにいた。

 目の前の黒髪の少女が、どうして男の声になったか。


「はぁ、まったく頭が悪いな。勇者様は?」


「なっ、どういう意味だ⁉」


「ふう……まだ分からないのか。仕方がないな。【魔穴展開ヘル・ゲート・オープン】!」


 事前に用意しておいた、暗黒魔法を発動。

 漆黒の穴の中に、ボクとバーナード=ナックルは落ちていく。


 シュワーン!


 次の瞬間、別の場所に移動。

 初めて使った魔法だけど、場所は完璧だった。


「な、な、ここはどこだ⁉」


 一方で変な下着姿のバーナード=ナックルは、言葉を失っていた。

 周りをキョロキョロしながら、後ずさりしている。


 ボクは拘束具を引きちぎり、ベッドから起き上がる。

 こんなオモチャからは、いつでも脱出できたのだ。


「さて、バーナード=ナックルよ、魔界へ、ようこそ! いや、《七大地獄セブンス・ヘル》の第一階層、《第一地獄ジャーナ》にようこそ! 歓迎するぞ!」


魔穴展開ヘル・ゲート・オープン】で移動して先は、魔族の本拠地である魔界。

 こうして復讐の宴が開宴するのであった。

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