第15話復讐のゲーム

 ゲス勇者バーナード=ナックルの罠に、ボクはハマっていたのではない。

 逆にボクたちが奴を罠にはめていたのだ。


「さて、バーナード=ナックルよ、魔界へ、ようこそ! いや、《七大地獄セブンス・ヘル》の第一階層、《第一地獄ジャーナ》にようこそ! 歓迎するぞ!」


 ヤツを招待した先は《第一地獄ジャーナ》

 真っ赤な大海が奥に広がる、地獄の第一階層だ。


「な、な、《七大地獄セブンス・ヘル》⁉ 《第一地獄ジャーナ》⁉ な、何を言っているのだ、エリンちゃん⁉」


 目の前の異様な光景に、バーナード=ナックルはまだ理解できずにいた。

 制服姿のボクに助けて求めてくる。


「ふう……まさかここまで、頭が悪いとはな。それならマヌケには分かるようにしてやるか……【性質創造リ・クリエイト】!」


 変身の魔法【性質創造リ・クリエイト】を解く。

 エリンという乙女の身体から、十四歳の少年ラインに戻る。

 女子の制服も、男子制服に戻しておく。


 ふう……やっぱり、この本当の姿の方が、しっくりくるな。

 乙女の身体も面白かったが、どうして大きな胸がじゃまで動き辛かった。


「バ、バカな……お前はライン⁉ まさかエリンちゃんは……⁉」


「ああ、そうだ。ボクが特殊能力で変異していただけだ。どうだ、面白い余興だっただろう?」


「そんな馬鹿な⁉ 勇者魔法でちゃんと【鑑定】したのに⁉ なぜ、どうして⁉」


「はっはっは……勇者魔法を過信しすぎなんだよ、お前は。対策はいくらでもあるんだよ!」


 普通の魔法では、勇者魔法の鑑定はあざむけない。


 今回はボクが使った【性質創造リ・クリエイト】は、《七大地獄セブンス・ヘル》で手に入れた特殊もの。


 幻覚や肉体変化ではなく、存在そのものを“エリンという少女”に変換。

 だから鑑定でも見抜けなかったのだ。


「ば、馬鹿な……勇者魔法を欺けるだと……お前はいったい何者だ⁉ 上級魔族か⁉ 何が目的だ⁉ 金か⁉」


 ようやくバーナード=ナックルは理解してきた。

 だが肝心のことを間違えている。

 仕方がないので、もう少し分かりやすく説明してやろう。


「そうだな……この顔と姿に見覚えはないか……【性質創造リ・クリエイト】!」


 もう一度、術を発動。

 また別の存在の肉体に、今度は変身する。


「この少年の姿に見覚えはないか? 七年前に魔族の王女との戦いの最中に、近づいてきた少年に?」


 ボクが変身したのは、七年前の自分の姿。

 野山を駆け抜けて、ボロボロになった七歳のあの時の自分だ。


「なっ……その姿は⁉ まさか⁉」


 バーナード=ナックルは思わず言葉を失っている。

 やはり見覚えがあるのだろう。


 あの時は一瞬だったが、勇者六人からの視線は感じていた。

 目撃をされ、顔を覚えられていたのだ。


「ボクはあの時の子どもだったのさ。貴様らが惨殺してもてあそんだ、偉大な魔族の王女リリスの一人息子だ!」


「なっ……あの時の魔族の⁉ そ、そういうことだったのか……⁉」


 ようやくバーナード=ナックルは全てを理解していた。

 罠にはめるのは簡単だったが、理解してもらうには大変だな、頭の悪い勇者は。


「さて、勇者剣帝バーナード=ナックルよ。これからキサマにチャンスをやる。それをクリアしたら、地上に返してやる!」


「な、ゲームだと⁉ ふざけるな! 誇りある勇者が、魔族の誘いに乗るわけがないだろう!」


 相手が魔族の一味だと分かり、バーナード=ナックルは急に態度を変えてくる。

 強気な態度で、こちらを威圧してきた。


「ほほう。ゲームに乗らないのか? それなら、このまま魔族全員で、キミを弄り殺してあげようか? だが、そんな裸の格好でどうするつもりだ?」


「はっ⁉ しまった⁉ 神剣と武具が⁉」


 今のバーナード=ナックルは下着姿のマヌケな格好。

 勇者としての装備は、全て地上の屋敷に置いてきたままだ。


「くっ⁉ 勇者様を舐めるなよ、小僧が! 【収納】! 収納⁉ な、なぜ、発動しない⁉」


 バーナード=ナックルは無様に足掻いていた。

 勇者魔法で地上の屋敷から、武具を取り戻そうとする。


 だがここは魔界でも最深部の《七大地獄セブンス・ヘル》。

 いくら勇者魔法でも未熟なコイツには、武具の取り寄せは出来ないのだ。


「はっはっは……焦るな、ナヌケめ。仕方がない、恵んでやる。おい、ベルフェ。そっちから送ってくれ」


 ……『はっ! では送ります、ライン様』


 魔法で《怠惰たいだのベルフェ》に指示を出す。


 シュイン!


 直後、バーナード=ナックルの目の前に、武具一式が出現する。

 地上の屋敷からベルフェが、魔法で転送してくれたコイツの勇者装備だ。


「こ、これは本物なのか……⁉」


「もちろん本物のだ。お前のような雑魚に、罠を仕掛けても意味はないからな」


「な、なんだと⁉」


「無駄口を叩いく前に、早く装備をした方がいいぞ。あと少しゲームを開始する。裸のままで戦うつもりか?」


「くっ⁉ ライン! お前は絶対に許さないからな! 八つ裂きにしてやる!」


 バーナード=ナックルはいそいそと武具を装備していく。

 装備したのは神武器と呼ばれる、強大な力を有する武具。


 だが下着姿の上から装備していたので、かなりマヌケな格好だ。

 まさに道化の余興だ。


「さて、準備は整ったな、バーナード=ナックル? それではゲームを始めよう。ルールは簡単だ。これより四体の魔物を、順に繰り出す。一対一勝ち抜き戦だ。最後の五人目はボク。ボクに勝ったら地上に戻してあげよう!」


「なっ⁉ そんなゲームに乗る訳が……」


「それでは一体目、いくぞ……【魔族召喚デモン・サモン】!」


 バーナード=ナックルの話など聞いてやらない

 ボクは一体目の魔物を召喚。


 シューン。


 出現したのは鬼のような魔族。

 身長四メートル以上の巨漢で、手には丸太のような斧を持つ。

大鬼王オーガ・キング”……魔族レベル500の魔物だ。


大鬼王オーガ・キングだと⁉ 私を舐めているのか? だが好都合だ!」


 前に倒したことがあるのだろう。

 バーナード=ナックルは余裕の笑みで、斬り込んでいく。

 数合剣を交えてから、一気に大鬼王オーガ・キングを打ち倒す。


(ふむ、やはり、そうか……)


 だがこれもボクの想定内。

 何しろレベル500の魔物は、冒険者ランクB程度の戦闘力しかない。


 勇者は冒険者ランクSランクよりも、更に上の戦闘力とされている。

 大鬼王オーガ・キングが勝てないのは、最初から分かっていたのだ。


「はん! 勇者様を舐めるな、ガキが! 今からそっちに、殺しにいってやるからな!」


 バーナード=ナックルは勝利して興奮していた。

 こちらに突撃してくる。


「ふん。焦るな、マヌケが。次いくぞ【魔族召喚デモン・サモン】!」


 突撃してくる奴の前に、更に魔物を召喚する。

 次に召喚したのは魔族レベル800の魔物。


 さて、どうなるかな?


「舐めるな! この程度の魔物など! はっぁああ!」


 バーナード=ナックルは二回戦目も勝利する。

 先ほどよりは少しだけ手こずっていたが、魔物レベル800を倒したのだ。


 ふむ、なるほど。やはり、こうなるか。


「では三回戦目、いくぞ。【魔族召喚デモン・サモン】!」


 三体目はもう少し強い魔物を召喚する。

 魔族レベル1500の大型の魔物だ。


「うぐっ⁉ どらやぁああ!」


 おお、バーナード=ナックルが勝利した。

 かなり辛そうだが、魔族レベル1,500の魔物を打ち倒した。


 なるほど。腐っても勇者の内の一人ということか。

 この分だと、おそらく魔族レベル1,800までは一人で倒せそうだ。


「はぁ、はぁ……」


 おや、バーナード=ナックルはかなり疲労している。

 全身に怪我もしていた。これでは第四戦目は全力を出せないだろう。

 ふむ、仕方がない。


「おい、ベルフェ。奴を完全回復してやれ」


 ……『はい、かしこまりました、ライン様』


 シュ、イーーン!


 直後、バーナード=ナックルの全身が、明かい光に包まれる。

 地上にいる《怠惰たいだのベルフェ》が、回復魔法を遠距離発動したのだ。


 ベルフェは魔界随一の大魔導士。人族の魔法にも精通しているのだ。


「ん? こ、これは⁉ はっはっは! 敵に塩を送ってくれたのか! マヌケか! このままお前まで一気に殺してやるぞ、ライン!」


 完全回復して、バーナード=ナックルは勝利を確信していた。

 今までの三戦に勝利して、勇者としてのレベルも上昇しているのだろう。


 三連勝の勢いで、絶対的な自信をもっている。


「ふう……期待しているぞ。ボクの所まで辿りつくことを。それじゃ、四戦目、はじめ!」


 だがボクは焦ることはない。

 何故なら今までの三戦はデータを取るための戦い。

 今後のために、勇者の戦闘力を試していたのだ。


「ん⁉ どこにいやがる⁉」


 バーナード=ナックルは唖然とした顔になる。

 何故なら今度は魔物が、どこにもいないのだ。


「いや、キサマの後ろに、既にいるぞ」


「なんだと⁉ あん? あれは……レヴィちゃん?」


 奴の後ろにいたのは銀髪褐色の少女。

 一緒に転移してきた、制服姿のレヴィだった。


「はっはっは……こいつは傑作だ! まさか四戦目は彼女なのか! その様子だとは魔法使い系か、レヴィ? だが私に装備には、攻撃魔法はほとんど通じないぞ! つまりお前には勝ち目はないぞ! くっくっく……一気に殺さずに、手足をへし折ってから、犯してやるぞ、レヴィぃい!」


 三連勝して勢いに乗るバーナード=ナックルは、自分の優勢に興奮していた。

 下半身の一部を大きく膨らませて、再び下品な笑みを浮かべていた。


「ふう……こいつを丸飲みするのは、いくら私でも気がひけるけど、仕方がないわね……【魔神化まじんか】!」


 その言葉と共に乙女なレヴィの姿が急変。

 魔神化して《嫉妬しっとのレヴィ》の本当の姿になった。


「ひっ! な、なんだ、この蛇の化け物は⁉」


 真の姿を現したレヴィに睨まれて、ゲス勇者は絶望の表情になる。




















読んでいただき、ありがとうございます。


感想や評価、お待ちしています。






あと新作もスタートしました。


こちらも同じく主人公が活躍していく痛快ファンタジーです。


最初の数話だけでも良いので、ぜひブクマしてください。




《タイトル》


「独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で、ミスリス原石を1億回も削ってきたから、戦闘力も実は凄かった」


https://kakuyomu.jp/works/1177354054896353243


《あらすじ》


 鍛冶師ハルクは幼い時から、道具作りが好きな青年。だが独裁的な国王によって、不本意な戦争武器ばかり作らされてきた。


 そんなある日、ハルクは国王によって国外追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、生きていくために隣の小国で冒険者になる。だが多くの冒険者が「生産職のクセに冒険者とか、馬鹿か!」と嘲笑してきた。


 しかし人々は知らなかった。実はハルクが地上でただ一人鍛冶女神の加護を有することを。彼が真心込めて作り出す道具と武具は地味だが、全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。それを知らずに追放した独裁王国は衰退していく。


 これはモノ作りが好きな純粋な青年が、色んな人たちを助けて認められ、《超伝説級》武具道具で活躍していく物語である。「えっ…聖剣? いえ、これは普通の短剣ですが、どうかしましたか?」

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