第11話危険な呼び出し

 適性検査の放課後、復讐相手バーナード=ナックルに呼び出される。


 念のために戦闘の準備もしておく。

 万が一に正体がバレていた時の保険だ。


 だが基本的に特殊能力で、人族であることを更に強調。


 放課後、校舎にある担任の研究室を訊ねていく。


「失礼します、ラインと、レヴィ、両名です」


「うむ、入りなさい」


 呼びだされたレヴィと二人で、部屋に入っていく。

 部屋の中にいたのは担任バーナード=ナックル一人だけ。

 周囲に他の気配はない。


「今日はどんな御用ですか、先生? もしも検査の魔道具を壊したことなら、弁償します」


 今のボクは優等生を演じている。

 まずは丁寧な口調で謝り、相手の目的を伺う。


「魔道具の件だと? いや、あれは別にどうでもよい。どうせ税金の学園の経費だからな! むしろ新しい器具を買うのに、都合が良かった!」


「そうですか。それは対応ありがとうございます、先生」


 バーナード=ナックルは先ほどの授業中よりも、少しだけ自我を出してきている。

 口調と態度が少しだけ荒くなっていた。


「それでは、どういう御用でしたか?」


「今日はキミたち二人のことだ。入学書類を見たが、従姉弟なのか?」


「えっ、はい。顔はあまり似ていませんが、従姉弟同士です、ボクとレヴィは」


 勇者学園に入学するにあたりボクの特殊能力で、色んな個人情報を改ざんしていた。

 その中にボクとレヴィとの関係もある。


 書類上では僕たち従姉弟、という設定にしていた。

 理由は学園内で作戦を実行するため。

 血の繋がった従姉弟なら、常に一緒にいても周りに怪しまれないからだ。


「おお、そうか。いや、今日の適性検査でキミたち……特にレヴィ君の結果が素晴らしかった。だから“今後に”ついて、従姉弟のライン君にも相談をしようと思ってな?」


「今後……ですか?」


“今後”という言葉が一瞬だけ強調されていた。しかも何やら嫌か感じの言い方だ。


 しかもバーナード=ナックルは一瞬だけレヴィの全身を、視線で舐めまわしてきたのだ。

 ボクでなければ見逃していた程の、高速な視線移動だった。


「今後はキミたち二人に、定期的に“個人レッスン”をしてあげようと思ってな。時間はそうだな……放課後がいいだろう?」


“個人レッスン”が強調され、またもやバーナード=ナックルの視線が、レヴィを舐めまわす。


 ほほう。なるほど、そういうことか。

 このゲス勇者は率直なところ、“レヴィの身体”が目当てなのだろう。


 だが、いきなり彼女だけを個人レッスンに誘ったら、警戒されてしまう。

 だから書類で彼女の身辺を調査。

 従姉弟であるボクにも、自然な感じで声をかけてきたのだ。


(しかも勇者スキルも使ってきたか、コイツは……)


 バーナード=ナックルは先ほどから、勇者スキルを発動していた。

 種類は【鑑定】や【敵意調査】など、相手の様子を探る特殊ばかり。


 そして今は【物質透過視線】のスキルで、レヴィの制服を透視して見ている。

 つまり裸体のレヴィの姿を、勇者スキルを悪用しての覗き見しているのだ。


(まったく、この勇者様は最高で、期待以上だな……)


 はっきりと言って最低な勇者。予想以上のゲス野郎だ。


 今ところ思考を読むスキルは、一度も発動してこない。

 もしかしたらコイツはそこまで、特殊なスキルを会得していないのかも。


 だが例え思考を読まれてでも、ボクたちは常に対策をしている。

 心の中で悪態をついても問題はなくなった。


 それにしてもバーナード=ナックルは予想以上にマヌケかもしれない。

 ボクたちの正体に気がついた様子もない。


 おそらく勇者としての能力とスキルに、頼りきった生活をしてきたのだろう。

 だから格上のボクたちの正体には、違和感すらないのだ。


 こんなマヌケに母さんが惨殺されてと思うと、本当に頭にくる。

 まぁ、お蔭で初回の復讐は、楽が出来そうな感じだ。


 さて、情報を仕入れるために、無知な生徒を演じないとな。

 そんな時、聞いていたレヴィも口を開く。


「勇者様の特別レッスンですって? どうしましょう、ライン?」


「うーん、そうだね。受けてみようよ、レヴィ! 勇者様に個人レッスンを受けられるなんて、こんなの幸運は二度と来ないよ!」


「そうよね。ありがたく受けなきゃね」


 二人で普通の生徒を演じる。

 下心を丸出しのゲス勇者の提案を、有り難く受けることにした。


「それでは今後はよろしくお願いします、先生!」


「ああ、任せたまえ! この私の力で、キミたちを“真の勇者”に導いてあげよう! それでは今後は……」


 今後のスケジュールを簡単に、打ち合わせしていく。

 バーナード=ナックルが提案をしてくる。


 基本的に個人レッスンは放課後に、週一回で行う。

 最初はボクとレヴィが一緒に、レッスンを受ける。

 慣れてきたら別々の日に、個別に個人レッスンを受けるスケジュールになった。


(なるほど。別々の個人レッスンになってから、レヴィの身体をじっくりと狙っていくつもりか。分かりやすくゲス野郎だな)


 慣れてきたらボクの方の個人レッスンは、適当な理由で切り上げるつもりなのだろう。

 こいつにとって大事なのは女生徒。

 目を付けた生徒と、放課後に二人きりになることなのだ。


 よし、今日は有益な情報を得られたぞ。


「では失礼します、先生!」


 打ち合わせも終わったので、二人で研究室を出ていく。

 その後はレヴィと学生寮に戻る。


 ◇


 夕食を終えて、ボクたちは作戦会議を開く。

 開催場所は《怠惰たいだのベルフェ》の部屋。

 理由はベルフェが部屋から、出てこないからだ。


「いやー、これはライン様。ようこそ、我が根城に」


「久しぶりだな、ベルフェ。生きていたか?」


「はい、お陰様で。人族の寮生活というものと、とても快適でございますね。黙っているだけで、洗濯と掃除、食事まで用意してくれるとは! 私も怠惰しがいがあるというものです」


 今のところベルフェは寮から、ほとんど外に出ていない。

 まったくマイペースすぎる奴だ。


 だが、いつまでも遊ばせておく訳にいかない。

 仕事の話に取りかかる。


「さて、仕事を頼みたい、ベルフェ。勇者バーナード=ナックルの身辺を、徹底的に調査してくれ。出来るよな?」


「はい、もちろんです。その程度なら、この部屋にいながらでも可能です」


怠惰たいだのベルフェ》は魔界随一の大魔導士。

 究極の怠け者だが、頼んだ仕事は忠実にこなしてくれる性格。

 自分が楽をするためなら、オリジナル魔法を開発する奇人なのだ。


 勇者が相手でも確実に、身辺を調査してくれるだろう。


「あらー、ライン様に、そこまで信頼されているベルフェに、私は嫉妬狂いしちゃいでそうです! ライン様、私は何の仕事をすればいいのですか?」


「レヴィは今日と同じように、ボクと学生生活をしていく。普通に生活しながらバーナード=ナックルの信頼を勝ち取って、情報を集めていく。あのゲス視線を受けることになるが、大丈夫か、レヴィ?」


「はい、もちろんです。実はあの男が見ていた私の裸体は、幻覚で別の人物者にしていたので、問題はありません」


「なんと、そんなことが出来るのか、レヴィは?」


「うっふっふ……こう見えて七大魔人の一人。ライン様にも見せていない秘術があるのです」


「そうか。それは頼もしいな」


七大地獄セブンス・ヘル》での激戦で、レヴィたち七人は全ての力を出していなかった。

 あくまでも彼女たちは“試練の壁”として、ボクの相手をしてくれたのだ。


 底が見えない奴らだが、仲間としてこれ以上頼もしい存在はない。


「よし、それなら今後の作戦は決まった。ベルフェは奴の身辺の調査を。ボクとレヴィは奴の信頼を勝ち取りながら、決行のチャンスを伺う。いいな?」


「「はい!」」


 バーナード=ナックルに対する復讐。

 ある程度のシナリオは、既に自分の頭の中にある。


 復讐を決行する日は、それほど遠くはない。

 少なくとも一ヶ月以内には、奴に最高の地獄をプレゼントできるだろう。


(くっくっく……勇者学園か。明日からも楽しみになってきたな!)


 こうして復讐の第一幕の準備は、着々と進んでいくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る