第10話危険な適性検査

 最初の授業、勇者の適性検査が開催。


「おい、早くしろ。次は貴様の番だぞ」


 担任である勇者バーナード=ナックルに、せかされる。

 ここまできたら逃げ出すことは不可能。


「はい……遅くなりました。失礼します」


 仕方がないので諦めて、検査の水晶に手をかける

 半魔族なボクの結果は、おそらく【ランクE無能生】あたりだろう。

 目立ってしまいそうだが、それも仕方がない


 あと、もしも魔族の反応が出てしまったら、それも仕方がない。

 瞬時に、ボクの能力と《七魔剣セブンス・ソード》を全解放。

 バーナード=ナックルを、この場で殺す対応でいこう。


「では、いきます」


 右手を置いた水晶に向かって、意識を集中する。

 次の瞬間、水晶が爆発したように発光した。


「ん? な、なんだと……⁉」


 まさかの反応だったのだろう。

 担任バーナード=ナックルは言葉を失っていた。


(いったい、どうしたんだ?)


 気になり、こっそり表示を覗き込む。

 そこに一瞬だけ浮かび上がった文字は――――【ランクSS】


(ん……なんだ、これは?)


 ボクも思わず固まる。

 先ほどの説明では、こんなランクはなかったはず。

 最高位ですらランクSなはずだ。


(というか……【ランクSS】ってなんだ?)


 明らかに異常な表示だ。

 直後、事件は更に起きる。


 ヒュー、ボン!


 なんと音を立てて、水晶が破裂。

 破片も残らず消滅したのだ。


「お、おい、“適性検査の魔道具”が破裂したぞ……」


「なんか、眩しい光が光ったと思ったから、次の瞬間には消えていたわよね……」


「まさか、あのイケメン君が……?」


 頑丈なはずの魔道具が、まさかの消滅。


 周りで見ていたクラスメイトは、一斉にザワつき始める。

 誰も何が起きたか、理解できていないのだ。


「お前、今、何かしたのか?」


「いやー、先生! 不良品って、怖いですね! はっはっは……」


 目立つのはマズイ。笑って誤魔化す。

 こうした気持ちの切り替えの演技も、《七大地獄セブンス・ヘル》で会得していた。


「不良品だったのか? 仕方がない、では、あっちの予備で、後の者の検査を続けるぞ!」


 絶対に壊れない魔道具が、跡形もなく消失してしまった。

 仕方がないように担任バーナード=ナックルは予備の魔道具で、検査を続けていく。


 ボクはその場から離れて、クラスメイトの後ろに逃げ去る。


「ふう……まったく、予定外に目立ってしまったな」


 おそらく半魔の自分が触ったので、表示がエラーになってしまったのだろう。

 あの様子だとバーナード=ナックルだけにも、上手く誤魔化せていた。

 今後も問題はないだろう。


「さて、勇者学園での立ち回りは、もう少し練習しておかないとな」


 普通の勇者候補を演じるのは、予想以上に難しい。

 魔族の力を封印しながらも、勇者候補を演じる必要がある。

 今後は調整と改良をして、授業に対応していくことにしよう。


「ん? そういえばレヴィの奴は、どこだ?」


 先ほどまで側にいた、銀髪褐色の少女の姿が見えない。

 何となく嫌な予感がする。

 まさか?


「「「おお!」」」


 そんな時、前方の検査場から、大歓声が上がる。

 あの様子だと“誰か”が、凄い結果を出したのだろう。


 嫌な予感しかしない。

 前に見に行く。


「おお、あの銀髪の子、ランクAだぞ!」


「まさかの勇者確率80%の特別生だと⁉ スゲーな!」


「しかも超可愛くて、エッチだよな、あの褐色の肌が!」


 ああ、やっぱり、そうか。

 ランクAの特別生を叩きだしたのは、《嫉妬しっとのレヴィ》だった。


 とても目立っている。

 間違いなくクラスの中で、今一番目立っている存在になってしまった。


 更に本人はガッツポーズをしてドヤ顔だ。

 そんな仲間を見ながら、ボクは頭を抱えてしまう。


「やれやれ……魔人と呼ばれる至高の存在なのに、敵側の勇者適性Aで、何でアイツはあんなに喜べるんだ、アイツは……」


 もしかしたら七大魔人を地上に連れてきたのは、ボクの間違いだったのだろうか。

 そんな後悔が押し寄せてきた。


 まぁ、いい。

 今後は気をつけていこう。


「よし、それでは終わるぞ!」


 適性検査は終わる。

 今日は初日ということもあり、午前の授業はこれ終了だという。


 後はガイダンスと今後の授業の準備。

 担任バーナード=ナックルの説明で解散になる。


「ライン様! 見ていましたか? 私の好成績を? 嫉妬しちゃダメですよ!」


 まだドヤ顔のレヴィが、駆け寄ってきた。

 よほど嬉しかったのだろう。今まで一番の笑みだ。


「ああ、たいしたものだ。これからは……まぁ、自然体でいてくれ、レヴィ」


 普通の人のフリをするのは、七大魔人には難しいのだろう。

 もはやボクは半分諦め、レヴィに自然体を命令する。


「自然体ですか? 承知しました、ライン様!」


 ――――レヴィと雑談していた、そんな時だった。


“誰か”が近づいてくる。

 あいつは……担任バーナード=ナックルだ。

 ボクたちは会話を止め、自然なふりをする。


「ライン君にレヴィ君だったかな、キミたちは?」


 担任バーナード=ナックルは神妙な顔で、話しかけてくる。


「はい、そうですが、どうしましたか、先生?」


 相手に特に怪しい素振りはない。

 普通の生徒のフリをして答える。


「キミたちは放課後、私の部屋に来なさい。大事な話がある」


 まさかの命令だった。


「先生の部屋です……か」


 こうして波乱の適性検査は終わり放課後、復讐相手に呼び出されるのだった。

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