第9話最初の授業

 六人の勇者に復讐するため、ボクは身分を偽り“勇者候補ライン”として勇者学園に入学。

 一人目のターゲット、【剣帝】バーナード=ナックルを発見。

 教師をしている憎き男に、復讐する作戦を立てていく。


 入学式の日が終わった。

 翌日から授業は開始となる。


「よし、準備はこれでOKか」


 寮の自室で、朝の準備を完了。

 ボクは指定された教室に向かう。


「勇者学園の授業か。さて、どんなものか」


 期待に胸を膨らませて、教室に入っていく。

 中には三十人ほどの生徒がいた。

 百人ほどの新入生は、三クラスに別れているという話だ。


(ここかは鍛錬場?)


 中を見渡し観察する。

 指定された教室は、道場のような大きな部屋。

 訓練用の的や、色んな模擬武器もズラリと並んでいる。


 おそらく勇者としての腕を磨く、実戦的な道場なのだろう。


(だが、こんな子ども騙しの設備では、魔族には勝てないぞ)



 所詮は安全な武具しかない訓練場。

 あの死と隣り合せの《七大地獄セブンス・ヘル》とは、天と地ほどの差がある。

 ここで学べることは、ボクにはあまりないのだろう。


「あー、ライン様、 おはよーございます」


 そんな時、声をかけてきたのは銀髪褐色の少女、《嫉妬しっとのレヴィ》だ。

 今日も制服を着崩して、エロスな格好をしている。


「おはよう、レヴィ。ん? ベルフェはどうした?」


「えーと、なんか具合が悪いので、今日は休むみたいです」


「ふう、そうか。相変わらずだな、あの怠惰な賢者も」


怠惰たいだのベルフェ》は究極の面倒くさがり屋。

 まだ学園で一度も見ていない。


 仕方がないので授業では、あまり期待しないことにする。

 復讐を実行する時は、頑張って働いてもらう。


「それでは、これより授業を始めるぞ。全員、集合しろ!」


 そんな時、担任の教師がやってきた。

 巨躯の男性教師――――バーナード=ナックルだ。


(やはり、担任だったか。これは幸運だったな)


 担任の情報は、昨日の入学式直後に、張り出された。

 だから心の準備は出来ていた。


(バーナード=ナックル……母さんを惨殺した勇者の一人……)


 激情や憤怒、負の感情が込み上げてくる。


 だが今はまだ時ではない。

 自分の激情を押し殺し、冷徹で冷酷な歓喜で、バーナード=ナックルを見つめることにした。


 ピシピシ……。


「ラ、ライン様……殺気で地下が……」


「ああ、すまない。ボクとしたことが」


 レヴィに指摘されて気がつく。

 どうやら殺気がカミソリのように、漏れていたらしい。

 教室の地下を、軽く裂いてしまった。


 ふう。

 即座に冷徹さを取り戻す。

 よし、これで大丈夫。何事もなかったようにする。


「みなさん、おはよう! それでは最初の授業を行うぞ!」


 バーナード=ナックルは丁寧な口調だった。

 これは教師としての、表の真面目な顔。

 母さんを惨殺した最悪な勇者の顔は、生徒に見せない裏の顔なのだろう。


 ふん、たいした演技力だ。

 クラスメイトたちも誰も、バーナード=ナックルの本性には気が付いていない。


「今日は最初ということで、適性検査を行うぞ」


 担任バーナード=ナックルは今日のスケジュールを説明してく。

 説明しながら、鋭い眼光が光る。生徒一人一人を、観察しているようだ。


(ん? あの視線は……レヴィにか?)


 バーナード=ナックルの視線が、隣のレヴィで一度止まる。

 彼女の胸や太ももを、鋭く観察していた。そして、すぐに次に移る。


 次のボクのことは見向きもしていない。

 その後もバーナード=ナックルの視線は、特定の女生徒のところで、時々止まっていた。


 ボクでなければ見逃すほどの、視線の移動速度だ。


(ほほう? そうか、あの教師は……豊満な女性との肉体が、好きなのか)


 面白い法則を発見していた。

 おそらく性的な感情で、生徒のことを見ているのだろう。

 レヴィを含めて数人の女性に、目を付けていた。


(これは面白いな。復讐の材料になりそうだな)


 勇者への復讐は、普通に殺すだけはつまらない。

 対象者を一人ずつ調査していく。


 思考や指向、家族構成、行動パターンなどを全てだ。

 それから当人に相応しい最高の復讐を、プレゼントしてやるのだ。


「よし、説明は以上だ。それは始めるぞ」


 そんなことを考えていたら、担任の話は終わってしまう。

 適性検査が始まるのだ。


 くっ、しまった。

 バーナード=ナックルへの観察に夢中になって、話を聞いていなかった。


「レヴィ。適性検査とは何をするのだ?」


「えっ、ライン様、聞いていなかったですか? それは嫉妬案件ですね。えーと、あの“適性検査の魔道具”に、一人ずつ触るみたいですよ。なんか、勇者としての適性が表示されるようです」


 レヴィの説明を聞いて、頭の中でまとめておく。

 なるほど、あの魔道具……拳大の水晶を触れて、適性を検査するだけか。


 魔道具は魔力をエネルギーとした、人族が開発した道具。

 今回は適性検査用の、特殊な魔道を使うようだ。


「ちなみにライン様、適性は『ランク形式』で表示されるみたいです」


 レヴィの話だと、ランク分けは次のように感じだ。


 ――――◇――――◇――――


 <勇者候補の適性ランク>


 ランクS:破格生:ほぼ100%勇者になれる。


 ランクA:特別生:80%の高確率で勇者になれる。


 ランクB:有能生:60%の確率だが、努力次第では可能。


 ランクC:普通生:40%の確率。かなり難しいが、一芸を伸ばしていけば可能性はある。


 ランクD:低能生:20%の確率。残念ながら難しい。 


 ランクE :無能生:0%の可能性。絶望的に不可能の近い。


 ――――◇――――◇――――


 こんな感じだった。


 なるほど。

 魔道具を使って“真の勇者”になれる確率を、最初から表示しておくのか。

 かなり残酷なランク付けに思えるが、勇者システムはかなり競争が激しい。


 勇者候補は大陸中に数千人以上が、女神によって啓示を受けて選出される。

 最終的に“真の勇者”として最終的に選ばれたのは、たったの六人だけ。

 確率的にいったら全候補生の1%未満しか、“真の勇者”になることは出来ないのだ。


(まっ、ボクには関係ないことだ。適当に終わらせよう)


 今回の目的は“真の勇者”の一人に選ばれることではない。

 完全な復讐を果たすこと。

 だから適性検査は流して終わらせよう。


「それでは次の者、いけ! よし、次だ!」


 適性検査は次々と行われていく。

 最前列の生徒から、水晶に触れていく。


「「「おお! いきなりランクBが出たぞ!」」」


 見ていたらクラスメイトから、歓声があがる。

 今まで最高の結果がでたのだ。


(ランクB……【有能生】だったか。それは凄いのか?)


 そういえレヴィの説明ではランクC《普通生》が、確率的に一番多いという。

 一方でランクB【有能生】は、全体の10%も満たない。

 かなり貴重な存在なのであろう。


「「「次はCランクか」」」


「「「あっ、Dランク……可哀想に」」」


「「「おお、またランクBが出たぞ!」」」


 その後も適性検査が進んでいく。

 クラスメイトの歓声が、何度も上がっていく。


(結果が出た当人は、いろんな反応だな)


 “ランクB有能生”の結果が出た人は、全員がガッツポーズしている。


 “ランクC普通生”の人は『仕方がない』といった顔。


 “ランクDの低能生”の人は、あからさまに悲しみ、悔し涙を流す者もいた。


 問題のEランクは今のところ誰もいない。

 そんな一喜一憂の雰囲気の中、適性検査はどんどん進んでいく。


(ん? 次はボクの番か……)


 気がつくと、自分の番になっていた。

 こんな茶番は、早く終わらせよう。


(――――いや、まて、ボクは勇者適性検査なんて、受けてもいいのか?)


 特殊能力で擬態しているとはいえ、今のボクは《七大地獄セブンス・ヘル》を突破した特殊な存在。

 もしかしたら正体がバレてしまうのでは?


「おい、早くしろ。次は貴様の番だぞ!」


 勇者バーナード=ナックルにせかされる。

 ここまできたら、逃げ出すことは不可能。


 さて、どうしたものか。

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