第8話入学式

 七大魔族を仲間に引き入れて、日が経つ。


 ボクは地上に帰還。今は大陸の南にある“ミナエル”という地方都市にいた。

 目的は大陸に数カ所ある勇者学園の一つ、ミナエル勇者学園に入学するためだ。


 ……『それでは、これより入学式を始めます。開会宣言……』


 ちょうど今、入学式を行っている最中。

 学園の敷地内ある講堂の中。揃いの制服を着た新入生が、整列している。


 その中にボクも制服を着て、静かに紛れ込んでいた。

 周囲いる新入生は全て、“勇者候補”と呼ばれる若者たちだ。


(勇者候補生か……)


 この大陸には“勇者”と呼ばれるシステムがある。

 世界に危機が迫った時、世界を救うために出現する存在だ。


 基本的に勇者には、いきなり成ることは出来ない。

 何段階かの昇格を、経る必要があるのだ。


 まずは第一段階。

 才能ある数百人の若者たちが、“勇者候補”として大陸の中から、女神によって定期的に選出される。


 最終的に“真の勇者”に成れるのは、その中の六人だけ。

 つまりここにいる若い男女は、将来の勇者の候補者なのだ。


(勇者学園か……)


 正式には“勇者育成学園”。

 未熟な勇者候補を、三年間育成する機関だ。


 経営は各国によって行われており、大陸各地に約五カ所にある。

 規模はそれぞれ違うが、各学園にひと学年に約百人。

 三学年制度だから、一校に三百人の勇者候補がいる計算だ。


 勇者学園では色んな技術と知識を、学ぶことが出来る。

 勇者パーティーとして必要な剣術や魔法、探知や隠密など。専門的な教師陣が、生徒たちに叩きこむ場所だ。


(“勇者候補ライン”……か。今日からボクも)


 今の自分も、そんな学園の候生の一人を演じている。

 左手の甲に浮かぶ刻印、“第一刻印”が、勇者候補としての証だ。


“第一刻印”は勇者候補の全員に、最初に与えられる初期の刻印。

 その後の試練を突破した優秀な者だけが、“第二刻印”、“第三刻印”へと昇格。

 最終的には“真の勇者”六人になるには、“勇者刻印”を会得する必要があるのだ。


 ちなみ自分の刻印は偽造した者。

七大地獄セブンス・ヘル》で会得した特殊能力の一つを使い、完璧な勇者候補に成りすましているのだ。


(ふう……でも、この姿だと魔族としての特殊能力は、やっぱり使えないな)


 今の自分は外見上と内面も、完璧な普通の人族。

 あえて特殊能力で自分の戦闘力を、完全に封じ込めているのだ。


 理由は勇者対策だ。

 何しろ勇者や候補者の中には、特殊なスキルを有する者がいる。

鑑定かんてい】や【思考能力読解マインド・リード】など、相手の身分など内面を調べられる者がいるのだ。


 だから特殊能力で魔族として力を、ほぼ封じこめている。

 一応は随時に使うことも可能。一瞬なら勇者共にも探知されないだろう。


(オレは勇者候補ライン……優等生の少年ライン……よし!)


 自分の負の感情を押し殺し、別の人格を表に出す。

 この学園では個性を出さずに、そこそこの優等生を演じる。

 目立たないように過ごす予定なのだ。


 ……『えー、それでは当校が誇る教師陣を紹介たします!』


 その時、司会の声に、ボクは顔を上げる。

 いよいよ“目的の人物”が姿を現すからだ。


 ……『まずは……』


 司会者は一人ずつ教師を紹介していく。

 近接戦闘や魔法職。支援魔術師や探索など、専門的な教師が紹介されていく。


 そして目的の人物”が最後に登壇する。


 ……『そして最後は、現勇者の一人でもある“バーナード=ナックル先生”です!』


 直後、整列している新入生から、ざわめきが起きる。


 ……「おい、バーナード=ナックル、って、あの勇者【剣帝】の人か⁉」

 ……「やっぱりこの学園にいたのか! スゲーな!」

 ……「この学園に入学できて、ラッキーだぜ!」


 生徒たちは興奮していた。

 勇者六人の知名度は、大陸の中でも抜群に高い。

 憧れの存在の登場に、誰もが胸を高鳴らしていたのだ。


 ――――そしてボクも興奮していた。


(バーナード=ナックル……あの時の六人の勇者の一人……母さんを残虐に殺した存在!)


 身体の奥からドス黒い感情が、急激に込み上げてきた。


(ふう……良かった。この七年間、生き残っていてくれありがとうございます。バーナード=ナックル先生)


 ――――だが冷徹な平常心で、瞬時に押し殺す。


 何しろ勇者相手に殺気をぶつけるなど、愚の骨頂。

 相手の加護や特殊スキルで、カウンター感知されてしまう危険性があるのだ。


 だからボクは感謝の心を、壇上の剣士に向ける。

 愛しの相手に視線を向けるように、待ちわびていた想い人に微笑むように、だ。


(さて今のところ愛しの勇者様は、一人だけか?)


 情報によるとミナエル学園には、もう一人の勇者がいるはず。

 だが紹介されないところをみると、何か事情があるのだろう。

 今後、調べていって必ず見つけ出す。


(それなら、あのバーナード=ナックルを前菜オードブルにするか、復讐フルコースの!)


 こうして色んな歓喜の感情によって、入学式は包まれるのであった。


 ◇


 入学式が終わる。

 今日はここで解散。新入生は各自の寮室に、戻ることになる。


 ザワザワ……


 だが講堂前の広場には、まだ新入生が残っていた。

 新入生同士で親睦を深めているのだ。


「ライン様!」


 そんな中、一人の新入生が、ボクに近づいてくる。


「レヴィか」


 やって来たのは七大魔人の一人。《嫉妬しっとのレヴィ》だ。


 地上は七大魔人の全員で、上がってきていた。

 彼女はミナエル学園の担当。他の者は違う学園に、潜入させてある。


 全員をボクと同じように、特殊魔法で人族化。

 刻印に付けて魔力を、一時的に封印。勇者候補として入学させているのだ。


「制服姿が良く似合っているぞ、レヴィ」


「ありがとうございます! ライン様も最高にお似合いでございます。このレヴィ、嬉しさのあまり嫉妬狂いしてしまいそうです!」


 レヴィは魔人の時と姿と、ほとんど変わりない。

 長い銀髪で、褐色の肌の美しい少女の姿。

 年齢も十六歳くらいに見えるので、学園的にも違和感はない。


「だが、レヴィ。その胸元と太ももの露出は、抑えられないのか?」


 かなり際どい格好を、彼女はしている。

 数日前に支給された制服を、既に崩して着こなしているのだ。


 胸元のネクタイを緩めて、褐色で豊かな谷間が見えている。

 あとスカートも短くして、太ももが露わ。屈めば下着も見えるほどだ。


 はっきり言って、かなりエロス溢れる格好。

 その証拠に周囲の男子学生から、嫌らしい視線が彼女に集まっている。

 入学式そうそう、かなり目立ち過ぎていた。


「あらー、ごめんなさいです、ライン様! 人族の服は苦しくて、慣れてないのです」


「そうか。それなら仕方がない。行動だけは目立たないようにな」


 ちなみに七大魔族との会話は、“特殊な言語”でしている。

 周りの者が聞いたら、普通の雑談にしか聞こえない。


 しかも勇者の加護やスキルでも、気がつかれない特殊な会話方法。

 お蔭で人前でも気兼ねなく、魔族的なことも話せる。


「ん? ところで《怠惰たいだのベルフェ》は、どこにいる?」


 二人の魔人を引き連れて、この学園には潜入してきた。

 もう一人は《怠惰たいだのベルフェ》。

 だが一緒に入学式に参加したはずなのに、どこにも姿が見えない。


「あー、ベルフェなら、さぼりです。入学式の前に、寮の自室に戻っていきました」


「はぁ……入学式を、いきなりサボりか。さすがは《怠惰たいだのベルフェ》だな」


 ベルフェは有能な魔導士だが、極度の面倒くさがり屋。

 まさか潜入工作の初日から、いきなりサボるとは予想外だった。


「そういえば、ライン様。先ほどの壇上にいたバーナード=ナックルという男が、対象者ですよね? さっそく、今日の夜にでも殺してもいいですか?」


「いや、まだ早い。奴のことを、じっくりと調べてから実行する。何しろボクは七年間も、この日を待ちわびていたのだからな。勝手は許さないぞ、レヴィ?」


「はっ! かしこまりました。はー、愛しのライン様にそんなに真剣な表情させるなんて、バーナード=ナックルに私は嫉妬してしまいます! ねぇ、ライン様、今回の復讐が終わったら、また私と殺し合いましょう!」


「ああ……検討しておく」


 七大魔人は強大な力を有した、頼もしい仲間たち。

 だが性格はかなり特殊な者ばかり。


 本当に“普通の生徒”を演じられるのだろうか。

 かなり学園生活が心配になってきた。


 だが今は信じるしかない。


(さて、学園生活か……最高の学生生活になりそうだな!)


 こうして復讐のための学園生活が、幕を開けたのであった。














 ◇





 読んで頂きありがとうございます。


 無事に勇者学園に入学できました!


 これから話がドンドン加速していきます。


 ◇


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 あなたの評価と応援が、今後の作者の励みと力になります!




 ◇



 あと【新作】を先日からスタートしました。


 こちらも当作品と同じように、主人公の少年が凄い力で大活躍していく物語です。


 ブックマークして最初だけでも、読んでもらえると凄く嬉しいです。



 ――――◇――――



《タイトル》【素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する】


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054895721774


《あらすじ》


 サッカー好きな中年サラリーマンのコウタは、不幸な人生を歩んできた。


 小学生の時の交通事故で、自分の右足と家族全員を失った。生きる希望を貰った地元サッカーチームも、消滅の日を迎えてしまう。

 

 だが自分の命が消えた時、奇跡が起きる。幼稚園時代に逆行転生して、人生をやり直すチャンスが訪れたのだ。


 これはサッカーオタクが転生の記憶を駆使して、不幸だった人生を改変、規格外の選手としてサッカー界の歴史も変えていく物語である。

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