第25話 6日目 果たされない約束
――翌朝――
――皆様おはようございます。相沢沙耶様が無惨な姿で発見されました。残り3名です――
「沙耶さん…店でサービスしてくれる約束、叶わなくなっちゃいましたね」
七瀬は沙耶の部屋で立ち尽くしていた。しかしその顔は悲しみに満ちた顔ではなく、大切な人を見送ったような優しい顔だった。
叶わぬ約束、3つあった約束のうち2つが叶わなくなってしまった。
(もう1つの約束だけは叶えるから、沙耶さん、ゆっくり休んで)
沙耶に言葉を送ると、七瀬は部屋を後にした。
――午後2時――
美里「時間ね、始めましょうか」
七瀬「はい」
美里「さっそくだけど七瀬くん。決着はすぐつくわね」
美里は勝ち誇った顔で言った。
七瀬「えぇそうですね」
織花「今日で、決着がつくんですね」
美里「そうよ、織花ちゃん。もうどっちが勝つかなんて決まりきってる」
織花「そうですね、私達の勝ちです」
美里「そう、私達の勝ちよ」
織花「違いますよ」
美里「……は??」
織花「美里さんの負け、です」
美里「…何言ってるの織花ちゃん?」
そこで美里はハッとした。
美里「織花ちゃん…あなたまさか…?いやそんな……」
織花「そうなんです。ね?魅夜さん」
七瀬「俺たちは、【恋人】なんです」
美里「織花ちゃん狂人じゃなかったの!?」
美里は立ち上がってテーブルを両手で叩いた。
織花「違います。私は占い師でもなければ、狂人でもありません」
美里「そんな……じゃあ最初から……どうしてそんなやり方を??結構な上級テクだし下手したら2人とも死んでたわよ!?」
七瀬「俺が迷ったせいです。あの時、本田さんと対抗した時俺は荒木さんと恋人だと言ってしまった」
美里「そうよ、そもそもなんでそんな事言ったの?普通に織花ちゃんと恋人だって言ってれば2人とも危険な目にあったりしなかったわよ?」
七瀬「確かに言うとおりだと思います。でもあの時、それじゃ何故か勝てないって気がしたんです。」
美里「でもだからってこんなトリッキーなやり方……」
美里は力が抜けたように再び腰掛けた。
七瀬「でもそれだけじゃないんです。守りたかったんですよ、この子を」
七瀬は織花に視線を向け、再び視線を美里に戻した。
美里「だったら尚のこと――」
七瀬「もし俺たちが恋人だと知られていたら、絶対狙われてましたから。確実な市民側の人間として」
七瀬は頭をかきながら少し笑った。
七瀬「でもまさか織花ちゃんが占い師騙るなんて思ってもみなかったけど」
七瀬は織花を見てまた笑った。
美里「織花ちゃんそれで良かったの?危険にさらされてたのよ?」
織花「私は何か考えがあるんだろうと思って、魅夜さんの好きにやってもらいたいと思いました」
美里「でもそんな事お互い分からないじゃない!どっちかが訳わかんない事したらどーすんの??」
織花「私はメッセージ送りましたよ?」
美里「いったいいつそんな事……そんな素振りは全くなかったと思うけど……」
織花「みんなの前で言いましたよ?【アナタの思う通りに私を愛して】って」
美里「それって……CDのタイトルじゃ」
七瀬「織花ちゃんからの俺へのメッセージだったんです」
織花「【私の事はいいから自由にやってください】って。結局伝わったのは結構後からだったけど」
織花は「ふふふっ」と笑った。
美里「……じゃ織花ちゃんは何故占い師を?自分が危険な目にあうのよ?」
織花「私なりに一生懸命考えて、私が占い師になればいつかこの人の力になれるかもしれないって思ったんです」
美里「……呆れた、2人ともバカねぇ」
七瀬「我ながら危ない橋だったと思いますよ」
織花「でも私のせいで唯さんも沙耶さんも……」
美里「仕方ないわ、生きるためだもの。それで?」
織花「え?」
美里「どうやって私が人狼だってわかったの??だから私を占ってわざと白出したんでしょ??ボロは出してなかったつもりだったんだけど」
織花「実は……私は最後までわかってませんでした」
織花は舌をぺろっと出した。
織花「はぁ!?」
織花「正直今日まで、沙耶さんが人狼かもって思ってたくらいです」
七瀬「俺は、本田さんが人狼だと分かったあたりでしょうか、発言は自然だったけど妙に2人の同調が多いなってあの辺から感じてました」
美里「織花ちゃんに白をだされた私はすっかり騙されて…と言うか勝手に信じちゃってた訳だ」
七瀬「生き残るためには、俺を殺さなければいけませんでしたね」
美里「もし織花ちゃんを殺したとしても、昨日アナタは人狼だと言った。真の狂人は沙耶さん。どっちにしても私の負けって事か」
美里は両手を上にあげ背伸びをした。
美里「上手くやったと思ったんだけどなぁー」
七瀬「正直な所、村田さんの作戦を見抜けてなかったなら俺たちが負けていたかもしれません」
美里「あれには私もびっくりしたわ。本田さんが死んで、私1人になったと思ってたけど」
七瀬「それにやっぱり、織花ちゃんが占い師騙ってくれて沙耶さんの黒出し発言が早まったことも大きい気がします。もし黒出しがなく緑川さんが生きていたら、この作戦はできませんでした」
織花「沙耶さんが狂人だったからこそ成立した作戦なんです」
美里「いいわ、完敗よ。まだ時間はたくさんあるけど、もうどうしようもないしね」
七瀬「……わかりました」
織花「美里さん…ッ」
織花は椅子が倒れるのにも構わず飛び出し、目に涙を浮かべながら美里に抱きついた。
美里「泣かないの、アナタは生きて出られるのよ?そんな顔してちゃダメ」
織花「うっ…でもぉ……ッ」
美里「アナタはこれから、私達の分までしっかり生きるの。荒木くんの無邪気さと、本田さんの強かさ、鈴木さんの優しさ、彩賀ちゃんの粘り強さ、村田さんの賢さ、唯ちゃんの面倒みの良さ、佐藤さんの健気さ、沙耶ちゃんの大胆さ、舞ちゃんの純朴さ、あたしの度胸、その全てをアナタの心に、身体に刻みつけて」
織花「…うっ…えっくっ……は…い…ッ。うわぁー!!」
織花はもうこらえる事が出来ず、大声を上げて泣いた。
美里「もう、困った子ね。いいわ、思いっきり泣きなさい。涙が枯れてしまえば、アナタには明るい未来が待っているわ」
七瀬「………。」
七瀬はどう声をかけていいか分からず、ただ見ていることしか出来なかった。
しばらくして織花も落ち着きを取り戻し、ゲームは再開した。
美里「…じゃあ、そろそろ決めちゃいましょうか」
七瀬「すいません。他に方法が思いつかなくて」
美里「いいのよ、あなた達は悪くないわ」
そう言うと美里は「じゃあせーのでいくわよ」と言った。
「「せー…のっ!!」」
美里「……ありがとう。楽しかったわ」
美里がそこまで言うと、再びテレビかついた。
――投票の結果、石橋美里様が処刑されることになりました。皆様は速やかに自室へ戻ってください――
そのセリフが終わるか終わらないかの所で美里はスっと立ち上がり、無言のまま応接室を出ていった。
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