第23話 5日目 夕 パワープレイ

 美里「じゃあさっそくなんだけど、もうわかってるわよね?」


 初めに口を開いたのは美里だった。その口調は強くしっかりとある人物に向けられていた。


 順也「自称占い師であり黒判定を受けたにも関わらず、人狼に殺されたと言うことは」

 順也も1人の人物を見てめて問い詰めるように言った。


 美里「そう、緑川唯ちゃんは人狼では有り得ないってこと」


 順也「そしてそれが意味するのは、相沢さんは真占い師ではない」


 沙耶「だからあたしが人狼なの?」


 美里「そういう事になるわね」


 沙耶「織花ちゃんかもしれないよ?」


 順也「実際君はウソをついていたからね」


 沙耶「狂人の可能性もあるでしょ?」


 美里「それはないんじゃないかな」


 沙耶「あらどうして??」


 美里「狂人は別にいる。私の考えだと本田さんか彩賀ちゃん」


 魅夜「その根拠は?」


 美里「あれだけみんなを掻き乱してたんだから、狂人じゃなかったら何やってんだかわからないでしょ?」


 順也「確かに。何のために掻き乱してたかなんて、狂人だからに決まってますもんね」


 沙耶「じゃなんで処刑なんかしたの?狂人なんだったら処刑しても無意味よね?」


 美里「私は彩賀ちゃんに投票してないわよ」


 順也「俺も違う人に投票したよ」


 沙耶「そうだったかな?あたし、これでも記憶力良いんだけど」


 織花「何が言いたいんですか?」


 沙耶「別に。狂人だと分かってるのにわざわざ投票なんかするかなーって」


 美里「私か村田さんが人狼だと?」


 沙耶「そんな事は言ってないけど」


 美里「じゃあはっきり言って。あなたは誰が人狼だと思うの?」


 沙耶「そうね、村田さんだと思うかな」


 順也「根拠は?」


 沙耶「消去法よ。あたしは占い師。魅夜さんは占いで白、織花ちゃんは狂人かな。美里さんは市民っぽいから白」


 順也「でも君の占い師はウソだったよね?」


 沙耶「ウソかどうかなんてわからないでしょ、人狼は人狼を殺す事もできる」


 織花「そっそうなんですか!?」


 沙耶「最初の説明に、【人狼同士は殺せない】とは書いてなかったもん」


 七瀬「つまり、人狼だと見破られた緑川さんを逆に殺すことによって、確実に沙耶さんを吊るそうとしている、と」


 順也「そんな馬鹿な。そんなこと言い出したら今までのが全部覆るじゃないか」


 沙耶「そうは言ってない。あたしが言ってるのはあくまで緑川さんに関してだけ」

 沙耶はそう言うと、ゆっくり目を閉じた。



 美里「沙耶さんの言いたいことは分かった。ちなみにもう1人は誰だと思うの?」


 沙耶「そんなの、本田さんに決まってる。白確の魅夜さんと対立してたんだもんね」


 順也「君の論理で言えばそうだろうね」


 沙耶「説得力はあると思うけど?」


 順也「今日はやけに突っかかるね」


 沙耶「あたしは負けたくないだけ、軽い頭でも一所懸命なのよ」


 織花「でも待ってください!村田さんは彩賀さんの役職もらって市民になったんですよね?」


 順也「そうだよ、だから人狼では有り得ない」


 沙耶「それが本当だという根拠は?」


 順也「それは…ないけど」


 沙耶「そもそも、本当にイタコだったかどうかも怪しいけどね」


 織花「それは……そうですけど」


 順也「でも人狼ではない。緑川さんは真占い師だ、織花ちゃんには悪いけど」


 順也は織花を見て謝り、再び向き直った。

 順也「俺がイタコだとCOした時、誰も対抗は出なかった。そして俺は緑川さんから白が出ている。そこからも明らかだ」


 七瀬「イタコだって言うのは本当だと思いますよ」


 順也「信じてくれるのかい?」


 七瀬「えぇ信じますよ」

 その言葉を聞いた順也は胸を撫で下ろした。

 七瀬「イタコだったというところは、ですけど」


 順也「え?どういう意味だい?」


 順也は七瀬の方に向き直る。


 七瀬「村田さんがイタコの力を使ったのは田中彩賀に対してではないってことです」


 沙耶「え!?」


 美里「……どういうこと?」


 美里は少し怪訝な表情になった。


 七瀬「決から言いましょう。村田さんがイタコの力を使ったのは本田平一さんに対して、です」


 順也「何をバカなッ」


 七瀬「実はゲームの事を推理してたら、違和感を感じたんです」


 沙耶「違和感??」


 沙耶は目をぱちくりしながら聞いていた。

 七瀬「村田さん。あなたは田中彩賀さんが処刑された次の日、能力を使ったと言いましたね?何故ですか?」


 順也「だからそれは、本当は占い師だったんじゃないかと思って――」


 七瀬「何故そう思ったんですか?」


 順也「それは――」


 七瀬「あの時点で田中さんが占い師だなんて思う事はまずないですよね?本人は狂人だとCOしたり、市民目線で探していたことも周りはわかってたはず。それに何より、本当に占い師ならあの時点で狂人COではなく、占い師COするはずでしょう?」


 順也「占い師だと言っていたら狙われるからだろう?」


 七瀬「騎士もいるのにですか?」


 順也「……。騎士がいたって守ってくれる保証はないだろう?」


 七瀬「そうでしょうね。騎士は最初から違う人物を守っていたんですから」


 沙耶「騎士が誰かだか分かったの?」


 七瀬「うん、俺の推理が正しければね。とは言っても予想の範囲だけど」


 沙耶「それって誰なの?」


 七瀬「それにはまずはここから聞いて欲しい」


 織花「教えてください」


 七瀬は立ち上がり、おもむろに歩き始めた。

 七瀬「俺が感じていた違和感、それは村田さんが田中さんに能力を使った事であると気づきました」


 美里「それは何故?」


 七瀬「先程も言った通り、田中さんは占い師ではないというところからです。田中さんは占い師をかたることも出来たのにしなかった。何故か」


 織花「何故ですか?」


 七瀬「田中さんは確信していた。佐藤良夫が騎士であり、織花ちゃんを守っているという事に」


 沙耶「じゃあ佐藤さんがずっと言っていたのは」


 七瀬「そう、自分が騎士であることを暗に伝えていた」


 美里「全く気づかなかった……ほんとに言葉通りだったんだ」


 七瀬「田中さんが何故そう確信したのかは分からないけど、だから自分が占い師だと言っても守ってもらえる保証はないと思った。だから占い師ではなく、狂人を騙った」

 七瀬は尚も歩き周り、全員に語り掛けた。


 順也「だったらそれは、言い出せなかっただけで占い師じゃない証明にはならないよ」


 七瀬「えぇだけど、占い師だと思う材料はもっと無い。そんな状況で能力を使う事は普通はしない」



 沙耶「なんだか凄いことになっちゃった」


 織花「沙耶さんの予想も、あながち間違いじゃなかったんですね」


 七瀬「村田さん、あなたは田中彩賀に能力を使ってはいない。貴方が使ったのは人狼である本田平一。異論はありますか?」


 順也「あるね。俺は田中彩賀に能力を使った。あの時点では誰も占い師COをしていなかったし、田中さんは正体を隠していると思った。騎士が守ってくれる保証がないから狂人だと言うしか無かったと俺は睨んだ。実際はただの市民だった、それだけだ」


 七瀬「じゃあ何故自称占い師が出てくるまで待たなかったんですか?その方が確実に役職が本当かどうかわかりますよね?イタコの役割ってセオリーはそういう使い方じゃないんですか?」


 順也「どんな使い方したっていいだろう?俺の自由じゃないか」


 七瀬「確実に生き残るため、ですか」


 織花「それってどういう?」


 七瀬「白が出ている自分はまず処刑されない。だけどだからこそ人狼に狙われる」


 織花「そうならない為には」


 美里「人狼になってしまえばいい…」


 七瀬「白判定の出ている人狼、最強ですね」


 順也「どうとでも言ってくれ、俺は人狼じゃない」


 沙耶「ほんとうに人狼じゃないの??」


 順也「そうだよ、俺は人狼じゃない」


 沙耶「ふーんそっか」

 沙耶は何かを決心したかのように天井を仰いだ。



 順也「七瀬さんの主張は分かったよ。でも俺が、本当にイタコだったと思うのかい?」


 沙耶「どういう意味?」


 順也「そのままの意味さ。俺はイタコだとウソをついた、という考え方をしたことなかったかな?」


 美里「そもそもイタコじゃなかった?でも対抗なんて出なかったし、それならホントのイタコは誰なの?」


 順也「それは俺にも分からないけど、俺は自分が市民だと証明する為に、一芝居打ったのさ。そうすれば確実に市民側だと認識してくれるだろ?」


 七瀬「対抗が出たらどうするつもりだったんですか?」


 順也「その時はホントのことを言えば良い」

 七瀬「ホントのイタコを危険に晒すとしても、ですか?」


 順也「俺が事情を説明すれば真イタコも吊るされることはないさ、これで確実に市民側の人間は2人分かるだろ?」

 順也は右手をぴーすの形にした。


 七瀬「だったらタイミングが悪いですね。もし、市民側の人間を確定させる目的があるならそれは――」

 七瀬は一呼吸置いてから、

 七瀬「それは2日目、鈴木さんに使うべきです」


 順也「何故だい?鈴木さんは確実に市民だろう。だが折角のイタコの能力を、ただ能力のない人間に使うことの方が悪いんじゃないかい?」


 七瀬「だとしたら田中さんに使ったのもタイミングがおかしいですよね?」


 順也「どこがどうおかしいんだい?」


 七瀬「田中さんは明らかに市民側の人間、それも能力を持っていないか狂人の2択だったはずです」


 織花「それがどうしたの??でも人狼かもって処刑されたんだよね?」


 七瀬「それがそもそもおかしかったんだ」

 七瀬は織花に顔を向けて言った。

 七瀬「田中さんが人狼、またそれと疑わしい人間なら少しくらい庇う人間がいたっておかしくない。でも誰一人いなかった、それが逆に市民だという証明になってるんだ」


 沙耶「人狼ならば同じ人狼にフォローされ、また狂人にもそれが伝われば援護してもらえる……」


 七瀬「そこから見ても田中さんは市民側だと言うことが分かる。なのに何故処刑されたのか」


 織花「何故ですか??」


 七瀬「人狼にも投票されたから、だよ」

 順也「そんなの、田中さんが人狼に見えたからだろう?」


 七瀬「じゃあ何故村田さんは田中さんに入れたのに能力を使ったんですか?」


 順也「……それは――」


 七瀬「占い師かもって思ったんですよね?」


 順也「後で思い返したんだ、やっぱり人狼じゃなかったんだってね」


 七瀬「ちなみに俺も投票しましたよ」


 沙耶「えぇ!?」


 七瀬「覚えて無いかもしれないけど俺は田中さんに投票したんだ」


 美里「なんで??」


 七瀬「守るため、です」


 沙耶「誰を??」


 七瀬「もう1人の人狼を」


 沙耶「はぁ!?」

 沙耶は思わず立ち上がった。

 沙耶「ちょっとどういう事!?」


 七瀬「人狼は俺って事」


 順也「七瀬さん何を??」


 美里「何言ってるかわかってる??」


 七瀬「わかってますよもちろん人狼は俺です」



 沙耶「ちょっと待って、整理がつかないんだけど」


 順也「あれだけ俺を人狼だと言っておいて、一体なにがしたいんだ?」


 七瀬「俺はただ事実を言ってるだけです」


 美里「頭おかしくなったの??あなたは相沢さんから白を出してもらってるのよ??」


 七瀬「えぇそうですね」


 美里「そうですねって……そんなこと言ったら相沢さんも人狼ですって言ってるようなものよ??」


 沙耶「………」


 七瀬「そう思いますか?」


 美里「もう勝手にしなさい」


 織花「あの、もうそろそろ時間が…」

 織花が割って入ってきた。気づけば時間ももう五分を切っていた。



 沙耶「もう時間ね」


 美里「投票しましょうか」


 織花「七瀬さん…」


 織花は不安そうな表情で七瀬を見た。


 順也「七瀬さん、悪く思わないでくれよ」


 美里「じゃあせーのでいくわよ」


 「「せー…のッ!!」」


 各自一斉にこの人がと思う人物に指を指し、投票が終わった。

 「な…なんで……」

 「何が起こったの??」

 処刑される人物は七瀬ではなかった。人狼だと告白したにも関わらず、七瀬は処刑を免れた理由、それは――。


 ――投票により、村田順也様が処刑されることに決まりました。皆様は速やかに自室にお戻りください――


 画面が消えると同時に順也が口を開いた。

 「これはどういう事だ!?何故人狼である七瀬さんが処刑されない!?」

 順也は激しく動揺していた。七瀬には2票、順也には3票が入っていた。

 「どういう事だ!説明しろッ!!」

 「…村田さん、時間外の話は禁止ですよ」

 美里は順也に目を向けることなく、ただ冷徹に言った。

 順也は観念したかのようにヨロヨロと立ち上がり、ゆっくりとドアへ歩き始めた。

 5、6歩進んだところで立ち止まり、

 「…なるほど、そういう事か。良く考えたな。まさかそんなやり方があるなんて思ってもみなかったよ」

 そう言い残し、順也は再び歩き始めた。

 順也が応接室を出たあと、残りの4人もゆっくり立ち上がり、部屋へ向かい始めた。

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