第22話 5日目 朝 確固閃心

 何もすることが出来ない夜が終わり、やがて鳥のさえずりが聞こえる頃に七瀬は目を覚ました。

 今回も自分は殺されることはなかった。それは、自分以外の誰かがただの肉片に変わっていることを意味していた。

 (残っているのはあと5人……)

 平一が人狼だとしたら残り1人。犠牲者をこれ以上出さないために、今日は決着をつけねばならない。

 (だけど見つける糸口がない……)

 今日の話し合いで誰をどう揺さぶるのかが鍵だ。だけど下手をすると標的になる可能性もあるので、慎重にならざるをえない。



 そう考え事をしながら応接室へ行くと、すでに4人が集まっていた。その中にいない人物を見てハッとした。

 「俺、ちょっと行ってきます…」

 七瀬は応接室を出て1階にある昨日無くなったであろう人物の部屋の前に立った。

 重苦しい空気の中、七瀬はドアノブに手をかけ静かに開けた。

 奥に進むとベットの上には部屋の主、緑川唯が無惨な姿になって倒れていた。

 七瀬はその遺体に近寄ることさえ出来ずに、そっと部屋を出た。



 七瀬が応接室に戻ると、残りの人物達は七瀬を視界に入れた。しかし七瀬はすぐに、

 「すみません、ちょっと部屋に戻ります」

 そう言って七瀬はすぐに応接室を出て部屋へと引き返した。

 すると、すぐその後を七瀬がたたたっとかけてきて、

 「七瀬さんどうしたんですか?」

と声をかけたのだが、七瀬は返事ひとつすることがなかった。七瀬には1つ気になっている事があった。それは昨日考えていたことで確信にはいたってなかったが、あるひとつの可能性に気づいていた。


 その事を考えているうちに部屋に着いた七瀬は、織花がついてきていることにも気づかないまま部屋に入りベットに座った。

 「???」

 織花は様子のおかしい七瀬に戸惑いながらも、それ以上声をかけることなく右横にちょこんと座った。

 「もしほんとにそうなら、今日が勝負になる」

 「なにがですか??」

 「もし、人狼がまだ2人いるならそれは…一体誰だ?」

 「わっ私は何も聞いてませんッだからこれはじかんがいの話し合いじゃないですッ」

 織花は七瀬が人狼ゲームに対して独り言を言ってることに気づき、時間外ペナルティを気にして必死に聞いてないふりをした。

 「何か…何か人狼が2人いるって感じた瞬間があるはずだッ」

 七瀬は右手で思い切り織花の膝を、つかんだ。

 「ひゃんッ!?」

 突然の事に、織花はつい変な声を出してしまった。

 「魅夜さんッ何を…ッ??」

織花はそう言ったが七瀬はまるで聞いておらず、尚も自分の世界で考え事にふけっていた。

 (思い出せ、その違和感を感じた瞬間を…)

 七瀬は織花の膝をつかんだ右手をにぎにぎしていた。

 「魅夜さんッ痛いですぅー」

 「我慢しろッ」

 「はぅ~…」

 織花は痛さと恥ずかしさでその顔はすでに【≧□≦】になっていた。

 「そうか!そういう事か!」

 七瀬は勢いよく立ち上がって言った。そして、

 「だとしたらやっぱりあの行動はウソだ!」

 そしてまた勢いよく座り、織花の左膝を掴んだ。

 「ひゃぅッ!?…み、みやさぁ~ん……」

 「え?」

 七瀬は振り向くと、そこにはふにゃふにゃになった織花がいた。

 自分の右手が織花の膝にある事に気づくと、バッと手を離し、

 「ごっごめん織花ちゃん!てかここで何を??」

 「それはこっちが聞きたいですぅー…」

と言った。

 「ごめん痛かった??俺、気づかなくて…」

 「もう大丈夫だから、良いよぅ」

とニッコリした。

 「それより、何か解ったの?」

と聞いてきたので、

 「うん、危ないところだったよ」

 (人狼は、まだ2人いる)

 七瀬はある人物の、一見自然とも思えるその行動が実は不自然だった事に気づいたのだ。

 そこから導き出される答えは、

 (人狼はまだ2人いる!)

だった。



 応接室に戻ってきた七瀬と織花。そんな織花を見て、沙耶が言った。

 「織花ちゃんその膝どうしたの?真っ赤になってるよ?」

 織花は先程の事を思い出すと顔が赤くなり、

 「あ、大丈夫です。少し痛むだけで…」

と言った。

 「大丈夫??足打ったの?」

と聞き返され思わず、

 「大丈夫です、ちょっと痛かったですけどちゃんと優しくされたので」

 その言葉を聞き、沙耶は目の色を変えた。

 「ちょっと魅夜さんどういうこと?こんな時にそんな事してたの??」

 とギロッとした目で睨んできた。

 「え?そんな事って何を??」

 「えっちな事に決まってるでしょ!?」

 「えぇ!?いや俺はそんな事……」

 七瀬の言葉も聞かず、沙耶は織花に近寄り、

 「大丈夫?織花ちゃん」

と言ったが当の本人は、

 「私、あんなの初めてでちょっとびっくりしましたけど大丈夫」

と言った。

 「もう、やっぱりケダモノだったのね魅夜さんは」

 と再び沙耶は睨んだ。

 「織花ちゃんもこんな所で初めて経験しちゃって可哀想」

と美里が笑いながら言った。

 「だから違いますってばー」

 七瀬の慌てふためくその姿に皆は腹を抱えて笑った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る